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ネームレスワールド ~ 星空の降る夜に~   作者: 茄子 富士
プロローグ 【ONE WORLD ONLINE】 再会と別れ      
1/49

プロローグ1



 満天の星空、数え切れない星々が煌き紫紺に染まる夜空に駆ける星明り……流星群である。

夜空に煌く星明りの下、鬱蒼と生い茂る深淵なる森の中で周囲は焚き火特有の灯りに影が揺れる。

夜闇を背景に絶え間なく囀る虫達の鳴き声……。


「凄いな、ベタだけど星がこっちに落ちてくるみたいだ」


焚き火の前で夜空を見上げつつソリッドは柄でもない独り言を思わず呟いてしまう。

すると隣にいる美しい銀の髪で包まれた頭をソリッドの胸に甘える様に預けた美女が囁く。


「……あぁ、そうだな。まるで夜空が泣いてる様な……歓喜に包まれているみたいな」


その囁きを訊いて何か思い当たる事があったのか……ソリッドの挙動が揺れた。そうビクッと。


「そ……その、待たせて本当に済まなかった」


ソリッドが隣のオルテにそう謝罪をすると


「いや……謝らないでくれ、謝罪が欲しい訳じゃない。

その代りに再会までに何があったのかを私に全て教えてくれないか?」


オルテに対して深い罪悪感を覚えているソリッドにその要求を断れる神経の図太さは無かった。


「あ、あぁ……長い話になるけど……な」


「……うん、……構わないさ。待つのには慣れているからな」


喜びと悲しみ、そして儚さを漂わせる微笑みを浮かべながらオルテは答え

それに対しまたもやソリッドは動揺を抑えきれない様子で応える。


「そ、そうだな……じゃ、まずは……」


夜空を見上げながらソリッドは語り出した………。




■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■




 「やっとLV(レベル)カンスト♪」


と思わず口に出てしまうこの達成感?

目の前に転がるエレメンタルゴーレムの残骸の前で、

たった今LVが上がった俺と

銀髪碧眼、手足も長く容姿(スタイル)抜群の超絶美貌を誇る女性が立っている。



あぁ、俺はVRMMO【ONE WORLD ONLINE】略してOWOを

八年程プレイしている何処にでもいる様な大学生の男で

名前は【新藤 真人】

このゲームじゃ錬金術士【マサト】をしている。


 

今は、だけどね。



このゲームって転生システムを組んでいるから

色んな職をカウンターストップ(カンスト)させて転生を繰り返してるんだ。

ちなみに今カンストしたのは【錬金術士】。

これで全職コンプリート。


こう言うと俺が廃人トップランクプレイヤーの様に思えるかもしれないけれど

残念ながら違う。

トップランカー達ならもっと早くにコンプリートしてる。



 転生のメリットはカンストさせた職のスキルを熟練度そのままで五つ

各自プレイヤーの選択で次の転生先に持ち越せるってこと。

これが大きいと見るかは人それぞれだけど大きいと見る人の方が多い、実際は。

アクティブスキル、パッシブスキルを問わずで五回も転生をすると

二十五個もスキルが増えてるのでソロでの行動が断然楽になるからな。

PT(パーティ)を組まずに狩りができるし

対人戦闘でも覚えた他職のスキルが使えるのは有利だしね。



でも、転生するとLV1からやり直しだから

LVを戻すまでに時間が掛かるっていうデメリットがなぁ……。

ついでに持ち越せなかったスキルはまた最初からやり直しというのもある。

それと、これの弊害は単独行動(ソロ)が増えるので人との繋がりが薄くなる。


未転生の最初のプレイはPTを組まないと正常に狩りも出来ない様なゲームバランスだから

俺も初期の頃はギルドに所属して固定PTを組んでいた。

人が集まらない時は野良PTを募集して

そういった事で人との繋がりがあったんだけど最近はぼっちと化しているぞ……。

まぁ八年も経って他のゲームに結構な数で人が流れて行ったってのもあるけれどね……。



今ある俺の繋がりなんて生産職の人達と初期の頃の友人(フレ)1人だもんな。



ま、俺はキャラのレベル上げみたいな育成そのものが楽しいからやってるんだ。

ちなみに隣に立っている美人さんはホムンクルスなんだよ……。

プレイヤーの誰かだったら俺はリア充間違いなしだったんだけどね。 

錬金術士の職ってのはぶっちゃけ戦闘系スキルが無い代わりにホムンクルスを作り

育成し良い装備をさせて 「戦闘は君に任せた!」 っていう職なんだ。



 ちなみにホムンクルスはプレイヤーが自由に素材を集めて作る(メイキングする)んだけど

素材の位階(ランク)が高い物の方がホムンクルスの潜在力も上がるので資金力の無い

最初のキャラで選ぶと戦闘面では厳しいかも。

生産職として見るならそんなことは無いけどさ。


俺の場合、転生で選んだ最後の職が錬金術士だったから

それまでに貯めた素材や装備を最高の物で用意したんだぜ!

ま、とんでもないゲーム内通貨を消費したけどな……後悔は無い! 



それとホムンクルスのデザインは自由にメイキングカスタマイズできる。

つまり隣に立っているホムンクルスは俺の理想そのもの!

デザインコンセプトは

ワルキューレと呼ばれるニーベルングの指輪なんかで出てくるアレだ。

付けた名前が【オルトリンデ】

我ながら想像力無いなぁ……とちょっぴり(へこ)むかもしれない。



 このゲームじゃホムンクルスって命令を与えないと動かない

ゴーレムみたいな物だから戦闘人形って感じなんだ

つまり喋ったりしないし表情も無い、文字通り人形なのが残念なんだけれど

それの解決策みたいなものが一応用意されてたりする。


それが錬金術士をカンストさせることで用意されるカンストスキル。

そのスキルは【解放】というホムンクルスを隷属状態から文字通り解放するスキルで

そこで初めてホムンクルスが生命を得て動き出すというわけだ。

どういう事かって言うとホムンクルスのNPCノンプレイヤーキャラクター化って事だったりする。



つまり解放した後だとホムンクルスを自由に使えなくなるって訳なんだ。

もちろん解放前には見れるホムンクルスのステータスなんかも見れなくなる。

このスキルの存在は賛否両論だね。


賛成派は自分の育てたホムンクルスがNPC化する事で

AIによる意思を持つので表情が生まれ喋ったり勝手に行動したり

解放までの育成行動によっては主であった錬金術士に敵対行動を起こしちゃったりするほど

フリーダムになるのが嬉しいぜ!という連中だ。


逆に否定派は単純にこれまで育成したホムンクルスが使えなくなることが許せん!

という理由なのでスキルを使わない人達だ。



ま、俺は解放するけどね。

いやぁ だってさ見てみたいじゃん?

俺の最高傑作が笑ったり踊ったりするのをさ。

ん?さすがに踊らんかNPCじゃ。



でもまぁあれだ。



フィギュアとか好きな人なら分って貰えるかもしれないけれど

自分が作った人形がほんとに動いたり笑ったりしたら最高じゃん? 

そういう感じなんだよなぁ……たぶん。



◆◆◆◆◆◆



 さて、ホームに戻った俺は早速スキル【解放】を使う。



それまでマネキンの様だったオルトリンデが生命を吹き込まれたかのように

俯かせていた顔を上げてこちらを見つめてくる。



この時俺はぶっちゃけ感動しました。

言葉では到底表現出来ない位に……な……。

だってさ、俺にとっての理想の存在が本当に動いたんだぜ?


「マスター?」


とオルトリンデが問いかけて来た時は

心臓が跳ね上がって声が上手く出なかったくらいだぜ?


「あ……あぁ?」


と、どもりまくりで頷くのが精一杯な俺……情けねぇ。


「マスターは何故私を解放したんだ?」


と俺に尋ねるオルトリンデ。

あれ?……何故か不安そうな表情に見えるけれど……なんでだろ?と疑問を持ちつつも

成る程こういう個性(キャラ)口調だったのかぁ

と妙な事に感心しつつ素直に答えることにしたんだ。


「命令を聞くだけの人形なんかじゃ無くてさ

生きているお前を見たかったからだよ」


「もう 私が不要だったからでは……無かったのか?」


あぁそれで不安そうな表情で……その不要という発想はなかったからなぁ。

苦笑を漏らしつつ答える。


「不要とかそんなわけ無いさ」


「よ……良かった……」


と鼻柱を両手で押さえつつ涙ぐむオルトリンデ。

ちょ……マジで!? NPC反応(リアクション)凄くね??

と思ったがそんな事考えてる場合じゃ無ぇ!


「いやいやいや! 泣く事ないじゃん?」


ダァアアアッ!

もっと上手いこと言えよ俺?とか思いつつも

俺じゃこんなもんだよなぁ……こういう時の対処スキルなんてあるわけ無いじゃん……。

上手い事フォロー出来るような俺だったら今頃はリア充だったろうしな!



◆◆◆◆◆◆



 なんとかオルトリンデを落ち着かせた後に今後どうしたいのかを尋ねた。


「ええと、こうして主従関係じゃ無くなったから聞いておきたいんだけど

オルトリンデは今後どうするんだ?」


とオルトリンデがNPC化した為

これまでの様にPTを組んだり使役する事が出来なくなったので聞いてみた。


「む、マスターに許されるのならば私はこの世界を自分の意思で見て回りたい」


まっすぐ俺の眼を見つめながら答えるオルトリンデ。


「あのさ、許すも何も自由なんだってば。オルトリンデは。

それと俺はもうマスターじゃないし呼び名もマスターは止めていいぞ?」


「む……しかし……それではなんと呼べば……」


「名前でいいんじゃないか? マサトで」


「そ……そうか、で……ではマ……マサト」


と顔を真っ赤にしながら小声で俺の名前を呼ぶオルトリンデ……。

あ……あれ?何この反応(リアクション)?……クッ……か……可愛いじゃないか!?

そういう反応されると俺も恥ずかしくなってきた!? 

落ち着け中学生か俺!? 

深呼吸だ!…………ふぅなんとか落ち着いてきた。


「お……おぅ。で、なんだ……世界を見て回りたい……ね。ならこれを持って行くと良い」


と俺は道具袋(インベントリ)から銀の笛を取り出してオルトリンデに手渡した。


「これは?」


小首を傾げながら笛を受け取り俺に尋ねてきた。


「あぁ 何度か見た事ある筈だが……解放前の事って覚えてる?

いまさら聞くのも何だけど」


と苦笑交じりに訊いてみる。


「それはもちろん覚えている。 あぁそうかこれは……」


「あぁ それは俺の手懐けた(テイミングした)白銀狼(シルバーウルフ)を呼び出す笛だ

そいつの育成は終わってるからな。

お前にも懐いてた気がするし旅の助けになるだろうから連れて行ってくれ」


「ありがとう マス……いやマサト」


両手で銀の笛を抱え笑顔で礼を言ってくるオルトリンデ。

その笑顔が最高だぜ!やっぱり解放して大正解だったわ。

ん~あとは何か餞別の品は無かったかな?

と改めてオルトリンデの全身と装備を見てみる。


 癖の無い背中の中ほどまで流れる白銀に輝く髪を包み

頭の両脇に翼飾りのついた兜。

スタイリッシュに纏まった体を包む鎧に外套(マント)……デザイン時に爆乳にしたかったけれど

歪なスタイルになるので断念して程よい大きさにしたのは秘密だ!

長い手足を包む小手に具足。

ロングスカートの剣帯に吊るされた長剣

左腕に掲げる盾。


と、どれもが用意できる最高級の装備を用意したし見落としは無いかな?

ナイフ、ランタン、(ロープ)、各種保存食料、薬草とポーションなどを入れた

冒険者詰め合わせセットと俺が勝手に名付けた背嚢(バックパック)

オルトリンデに放った。


「後はそうだな……これも持って行くといいぞ。

それと、此処はお前のホームでもあるんだから何時でも戻って来いよ」


と声を掛けると嬉しそうな表情で


「ああ 必ず帰ってくるさ。

ところでマサトはこれから如何(どう)するのか聞いても良いか?」


受け取った背嚢を背負いながら尋ねてきた。


「ん?俺か。そうだな、俺はこれから聖域の神殿にいって転生する予定だ」


「そうか……それだと次は何時会えるのか分からなくなる。

必ず私と再会する事を誓ってくれないか?」

 

と俺に向けて手を差し出してくる。


「分かった 必ず再会しようぜ」


と固く握手を交わしたんだ。


「で、出発は何時ごろにするんだ?」


「ゆっくりすると名残惜しくなりそうだからな……今行くことにする」


とオルトリンデは握っていた手を名残惜しそうに離しながら言った。


「そっか、寂しくなるけれど気を付けて行って来い」


と寂しさを隠せるよう願いながら笑顔で送り出してやる。


「だから再会を誓ったのだろう?それでは私はそろそろ行ってくる」


とオルトリンデも笑顔で手を振りながら別れを告げた。



 ……【ONE WORLD ONLINE】のNPC達って

割と違和感を感じさせない作りだったのは確かだけど

オルトリンデはまたスゲー別格じゃね?などと思いながら

彼女が旅立っていくのをしばらく見送り続けていたんだ。




 読んで頂きありがとうございます。

プロローグを1話にまとめきれなかったので

もう1話続きます。


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