いらんのかなぁと
「これもーらい」
そう言ったときには既に、末本の口の中に出汁巻き玉子が入っていた。
「勝手に取るなよ」
知っているだろうが早貴ちゃんの手料理なんだからな。
「うまいなぁ」
当然だ。
「いやぁ、最後まで残していたから、てっきり、いらんのかなぁ、と思って……」
んなわけあるか!
そう思って、残っているもう一つの出し巻き玉子を口に入れた。
じゅわっと仄かな出汁のうまみを感じる。
絶妙な塩加減、砂糖加減……
そんなことを感じている時だった。
「北アフリカのフォガラ」
隣で売店の弁当を食べていた甲田は、突然そう言った。
「アフガニスタンのカレーズ」
合田が続く。
なるほど、そういうことか。
「何だ何だ?」
末本の一言で派生したのだが、どうやら本人は理解出来ていないようだ。
「この前の水資源開発学でスライドが出てただろう?」
「水資源賦存量ってやつか? 仮想水か?」
まだ分かってないようだ。
「末本、センター試験で社会は何取った?」
突然大学入試に話が移ったから、大体意図は読めたようだ。
「現代社会を取った。歴史と地理は苦手だったからな」
「そうか。今のネタは、地理で出てきた有名な地下水路だ。アフガニスタンのフォガラ、北アフリカのカレーズ。そして……」
三人は声を合わせて言う。
「『イランのカナート』」
今週の火曜日の講義の中に、地下水路に関するものがあり、その中に『イランのカナート』が出てきました。
そこで高校時代の地理の授業中に思いついたネタを、最愛物語の一部をイメージして作ってみました。
もしかしたら、本編に挿入されるかもしれません。