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短編集  左右対称   作者: 中森 幸一
4/7

抜き打ちテスト

「お前達は全然勉強しないな」

「・・・・・・」

なんだろうか、この雰囲気は・・・・・・

教室全体を包んでいるこの空気が、一瞬張りつめた気がした。

東先生がこういうことを言う時は、大体がギャグに走るのだが、今回はどうも違うらしい。

「ということで、今週中に抜き打ちテストをすることにした」

「聞いてないですよ~~」

「聞け!」

テストとかありえんやろ~~~~

そう思った人も多かっただろう。

三学期は期末試験しかないはずだったのに、小テストとは言え、抜き打ちテストがあるとは・・・・・・

これが、月曜日の4限目のことだった。

因みに、教科は現代文である。

「ふふふ、今日は抜き打ちテストはしないよ。だから、ちゃんと家で勉強しておけば取れるような問題をだすからな」


火曜日

「ちゃんと勉強してきた人もいると思うが、今日も抜き打ちテストはしないっつぉ!」

なんだよ、今日はなかったのか。

よかった~~

という安堵の声と

早く終って欲しい。

という不満の声がこの教室内で空気として充満している。


水曜日

特に何もなく、東先生は抜き打ちテストのことをすっかり忘れているように見えた。

「先生、抜き打ちテストはいつするんですか?」

「それを言ったら抜き打ちにならないだろう?」

そうは言ってもやはり、気になる。

というか、東先生は抜き打ちテストのことを忘れていたように見えた。


木曜日

「抜き打ちテストって今日だよな?」

「何でそう思うんだ?」

「だってよぉ、もし今日なかったら、明日あるってことになるだろう?」

「うん・・・・・・それで?」

「だから、明日あることが分かったら、明日の抜き打ちテストは、抜き打ちテストじゃなくなるだろう?」

「不成立ってことか?」

「そういうこと」

「でも、ただ今日することを忘れただけってこともあるかもしれないよ」

しかし、結局今日も抜き打ちテストはなかった。

「ただのハッタリだったのかもしれないな」

「エイプリルフールじゃないのに?」

「それは関係ないだろう?」


金曜日

「それでは、抜き打ちテストを始めます」

何故だ?

今日あることは分かっているから、これは抜き打ちテストじゃないだろう?

不成立、ノーカンというものだろう?

俺は、抜き打ちテストの点数が悪かったことも理由の一つだが、いや、それが唯一の理由だろう。点数が高かったらこんなことはしなかっただろう。

俺は今、教官室(職員室)の東先生の前にいる。

「先生、今日の抜き打ちテストは、抜き打ちじゃないですよ」

「ん? なんでだ?」

「だって、昨日しなかったら、今日することがばれていますよ。それは抜き打ちテストじゃない。ただのテストですよね」

「成績悪かったのを棚に上げて、文句か……、日頃ちゃんと家で勉強していれば解けただろう?」

「そうかもしれませんが、昨日なかった時点で……」

やれやれ、という顔をして、一度左右に首を振った東先生は、言った。

「でも、俺は今週抜き打ちテストをやるって言っただろう?」

「そう言いましたね」

「抜き打ちテストっていうのは、ないと思っていた時に突然するテストだろう?」

「そうですね、でも……」

「まあ話は最後まで聞け……」

「はい……」

「それで、お前は、今日テストがないと勝手に思い込んで勉強していなかったんだろう?」

「……そうですね」

「だったら、これは立派な抜き打ちテストだ。少なくともお前が、テストがないと思っていた時に、テストをやったんだからな」


そう、これは抜き打ちテストとして、成立していたのである。

ないと思い込んだこと自体が罠であったことに、やっと気付いた……




抜き打ちテスト  終


私が高校時代に現代文の先生から聞いたはなしです。

この先生は、時々面白いことを話すのですが、その中で、もっとも印象に残ったのは、子の話でした。

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