私と人形
突然ですが、私の身の上話を少々。
私は国王の妾の娘で、お城にはあまり居場所がありませんでした。
お母様に似て綺麗な容姿をしていた私は着飾られ、日々、人形のような生活をしていました。そして、残念ながらお父様に似てしまった第一王女と、その母親である王妃による嫌がらせを受けていたのです。
誰もが気付いていながら何もできないという状況でした。それを見かねたお父様は、私とお母様を片田舎の小さな村へと送りました。
これが私が五歳の頃までのお話。
それからは、心優しい村人に囲まれた、静かな生活が始まりました。
しかし、気の弱いお母様は、五年――いえ、もっと長かったかもしれないお城での嫌がらせで心が擦り減っていたのでしょう。環境の変化を引き金に床に臥せてしまわれました。
私と村人達の看病も虚しく、お母様は天へと旅立たれました。
それが私が六歳の頃のお話。
そして、私が七歳になったばかりの頃。お父様から一つの贈り物が届きました。……いえ、届いたというのは正しくありません。
それは歩いてやってきました。
黒いスーツによく映えるブロンドの髪。この国では珍しい碧眼。整った顔立ちの、私より十つ程年上に見える男でした。
「はじめまして。本日よりお嬢様にお仕えすることになりました」
わずかに笑みを浮かべてお辞儀した男の声は、聴き心地が良く澄んだもので、容姿とよく合っていました。
しかし、そんな彼に私が抱いた第一印象はこうでした。
まるで、作り物のようだ。
「お父様からの命令ですか?」
「はい。しかし、それもありますが……何より、私はそのために作られたのです」
「……作られた?」
外様向けの口調が思わず崩れてしまいました。
「お嬢様は、王都の外れの人形技師様をご存じですか?」
「ああ、精巧なカラクリ人形を作ることで評判のご老人……でしょう?」
「口調は崩して下さって構いません」
苦笑いを浮かべてそう言ってきたので、遠慮なくそうすることにしました。
「ああ、そうする。で、その人形技師がどうした?」
「私はその方に作られた人形です」
「…………は?」
私は耳を疑いました。
「……お前が……人形?」
「はい。お嬢様がお生まれの際、国王陛下が製造依頼をし、つい先日完成いたしました。自分で言うのもなんですが、人形技師様の最高傑作です」
さっきの苦笑いと言い、今の自慢げな表情と言い……
「お前は全く人形らしくないな」
「そういうお嬢様は、お噂通り、お人形のように可愛いですね」
思わず漏れた本音には皮肉で返されました。
「改めて、これからよろしくお願いいたします」
「……ふん。人形のくせに」
これが私と彼の初対面。昔話はここまで。
♢
「なんでもっと早く起こしてくれなかたんだ!」
「お嬢様の眠る姿があまりに愛らしかったもので」
「見るな! ああもう、今日は教会に用があると言っておいただろう!?」
そして今、十歳ほど成長した私と変わらぬ彼との生活はドタバタと続いています。
「とにかく、早く朝食を」
「かしこまりました。ところで、ずいぶんと幸せそうな寝顔でしたが――」
「本当に見てたのか!?」
「ええ。何か良い夢でも?」
「…………ふん、なんてこと無い。少し懐かしい夢を見ただけだ」
目の前のパンをかじり、スープを一口飲みます。相変わらずおいしいです
「ふふ、そうですか」
「む、なんだその優しげな表情は?」
「いえ、なんでも」
「……人形のくせに」
何度口にしたかわからない言葉が自然に出てくる。
「では、人形の分際で一つ忠告を」
「ん?」
「急いで食べた方がよろしいのでは?」
「……あぁーーーーーーっ!!」
指摘されて、流し込むように朝食を平らげます。
「いってくる!!」
「いってらっしゃいませ」
こうして十年間変わらない日常。願わくば、今日も明日も明後日も、変わらず平和でありますように……
どうも、カルタです。
いつも書いてるコメディーから離れて、こんな作品を書いちゃいました!
書き終わってから、
「……なんか某アニメの展開に似てる気がする」
なんて思いましたが、書いてる時に意識してなかったからセーフ……ですよね? うん、たぶん大丈夫。
さて、書きなれないジャンルですので、指摘などがありましたらドシドシお送りください。感想もお待ちしております。
読もうと思ってくれた方に感謝を。最後まで読んでくれた方に最大級の感謝を。
それではまた別作品にて。




