表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

黒い黒い闇夜が訪れていた。

天を見上げても、地上を仄かに照らす月は無く、暗い渦がのっぺりと広がっているだけであった。

幾重にも重なった深い深い夜の闇。

その下に、小さな野原が闇に隠されていた。

森の中にぽっかりと空いた小さな空間。

そこに存在するもの全てが闇に溶けるように輪郭を失い、ぼやけて映る。

深い闇が支配する世界。

全ての色を溶かして混ぜたような闇が、どこまでも広がっている。

世界は一色で作られ、静寂が重く腰を下ろしている。

その静寂を破るものはいない。

風も恐れをなしてか、吹くことを忘れている。

虚無の静寂。

長い沈黙の声が響き、そしてその静けさを纏うように一つの生命が現れた。

闇に掻き消されそうなほどの、小さな生命。

闇に潜む大きな存在。

それは音を生み出すもの。

生み出せるもの。

けれども音は響かない。

地を踏みつけて確かに歩みを進めているのにも関わらず、生まれるのは静寂。音はない。ただその者の周りの空気が揺れるだけ。

消えそうな、確かな存在。

生命にあるはずの音が聞こえない。

静寂は立ち去らない。

地を踏む足の動きが止まった。

変わらずの無音。

その人影は闇を見つめるだけ。

全てを覆い隠す闇に、その存在が消されていく。隠されていく。

闇に、呑み込まれていく。

けれども影は動かない。闇を眺めている。

そしてその者――奈緒は闇を拒絶するように、音を発した。

「何も、見えないのね」

静寂に亀裂が走り、崩れ始めた。

闇は奈緒の周りで揺れ動く。

「それとも何も無いの?」

静寂が粉々に崩れ、呟きが闇に轟く。

奈緒以外は沈黙を守ったまま、ただそこに在り続ける。

「何も無いのも、何も見えないのも同じだね」

闇に奈緒の声が混ざっていく。

「何も無ければ見えるはずもないし、何も見えなければ何も無いのと同じこと」

奈緒は黒に隠れ、まるで闇が声を発しているかのように感じる。

否、奈緒が闇に話し掛けているのかもしれない。

けれどもこれはただの奈緒の呟き。

「ここに存在したものに、価値はない」

無感情な声だけが響く。

「だから無くてもいいよね。無いほうがいい」

空気が柔らかに揺れる。風が吹いた。

「なぜこんなに無駄なものが多いの?」

悲しげに寂しげに風が木々をそっと撫で、奈緒を包み込んだ。

優しい抱擁。

奈緒の声が止まる。沈黙が降りた。

再び静寂が現れる。

声は、無い。

風は闇に溶け、黙り込む。

動く気配も、音が紡がれる気配もしない。

長い長い時が、閑静と流れる。

いつの間にか、奈緒は闇の中から消えていた。

生命の気配はもうしない。

そこにはただ、全てを隠す闇と、それに隠された木々や愛らしい花々だけが残されていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ