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第1章(続き):余熱とノイズ

第一章(続き):余熱とノイズ

「……はい、今夜の『季節を味わう一皿』はここまで。皆様も素敵な夕食の時間を。それでは、おやすみなさい」

カメラの赤いランプが消える。阿久津聖は、ふう、と小さく溜息をつき、モニターに流れる称賛のコメント群を横目にタブレットを閉じた。

午後8時30分。

小早川澪のスタジオを後にしてから2時間。アリバイは完璧だ。配信中の彼女は、一度もキッチンから離れていない。1万人の視聴者が、彼女の「潔白」の証人だった。

「……さて」

阿久津は、調理中に使ったボウルをシンクへ運ぼうとした。その時だ。

「失礼します。……いやあ、いい匂いですね。表まで出汁の香りが漂っていましたよ」

スタジオの入り口に、場違いな影が立っていた。

オートロックのはずのドアが、なぜか開いている。そこにいたのは、サイズの合わないグレーのスーツを着た、ひどく猫背の男だった。手には食べかけのコンビニの肉まんを握っている。

阿久津は眉をひそめ、ボウルを置いた。

「どちら様かしら? ここはプライベートなスタジオです。許可なく入られては困ります」

「これは失礼。警視庁捜査一課の十文字じゅうもんじと申します。いや、あまりに美味しそうな匂いだったもんで、つい……おっと、お仕事中でしたかな?」

男は警察手帳を差し出しながら、ポリポリと頭を掻いた。その指先には肉まんの脂がついている。阿久津は嫌悪感を隠さず、一歩身を引いた。

「警察? 料理研究家の私に、何か御用?」

「ええ、実は。ほんの先ほど、お近くで不幸な事故がありましてね。お知り合いのはずですよ。小早川澪さん……ご存じですね?」

「澪さんが……? どういうことです?」

阿久津は鏡の前で何度も練習した通りの「驚きと悲嘆」を顔に貼り付けた。声のトーン、わずかな手の震え。すべてが計算通りだ。

「調理中の事故、のようです。スタジオで倒れているのをスタッフが発見しまして。……ところで先生、その、今作っていらした料理は何です? 非常に興味深い」

十文字は阿久津の問いを流すように、ズカズカとキッチンカウンターへ歩み寄った。彼は鍋の中に残ったソースを、鼻をヒクつかせて嗅ぐ。

「……『和風ラタトゥイユ』よ。配信で作り終えたばかり。それが何か?」

「ラタトゥイユ。……ふむ、いいですねえ。でも不思議だ。小早川さんの現場にも、これとそっくりの野菜の切り出しがあったんですよ。まるで、同じ教科書を見て作ったかのようにね」

十文字は目を細め、阿久津の磨き上げられた包丁をじっと見つめた。

「先生、包丁がお好きなんですね。……おや、この包丁、今使ったばかりにしては、乾燥しすぎていませんか?」

阿久津の心臓が、ドクリと大きく跳ねた。

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