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94. 私は孤独 <ヴィクトール視点>

 リュディガーのいないシンとした自室で、ここ数日の間に起こった出来事について思いを馳せる。


 最近学内を騒がせていた騎士見習いたちの失踪事件の犯人が、なんとシュヴィールス公爵だった。

 そのことで公爵家は取りつぶしとなったが、処刑となるシュヴィールス公爵の最期の願いとして公爵家の子供たちは貴族として存続することができるようになったのだという。

 現在休学中のリュディガーたち兄妹は、どこか適当な貴族家に養子に入りいずれ復学する予定にはなっているが、流石に私の側近ではもういられないだろう。


 子供の頃から側にいた学友が離れるというのに、驚くほど何の感情も湧いてこなかった。

 これを人に話せば冷たいと言われそうだが、私の抱える孤独をリュディガーでは埋めることができなかったのだ。


 ああ、私は孤独だ……。




 学園魔法剣技大会のことで話があると言われ、父から城に呼び出された。


 国王の執務室に向かって廊下を進みながら、先日の試合について思い出す。


 まさか、辺境伯の次期当主とはいえ、辺境の騎士見習い程度があそこまでやるとは思ってもみなかった。

 事前に情報がなかったため隙を突かれ負けを喫してしまったが、相手の力量が正しく知らされていれば、優勝していたのは間違いなく私だっただろう。


 私に言われずとも、敵の情報を調べて報告してくるのはリュディガーの仕事のはずだ。

 今ここにはいない自分の側近だった者を思い出し、その怠慢にイライラとしてしまう。

 次期国王を支えるためには本当に能力の足りない者であったから、このタイミングで側近を外れたのはある意味良かったのかもしれないな。


「おお、来たか! 先日の学園魔法剣技大会の噂は私も聞いたぞ。随分と盛り上がったらしいではないか。貴族学園の魔法剣技大会は毎年代わり映えせぬから最近は観に行くこともなかったが、こんなことなら私も参加すればよかったな。国王からの言葉があれば、選手も観客も喜んだことだろう」


 父である国王と面会すると、開口一番上機嫌でそのように言われた。

 息子の私は準決勝で負けているのに、私を励ますでも労うでもなく、その口から出るのは自分のことばかりだ。

 父は目立つことが大好きだから、あの場にいたら随分と鼻が高くなっていただろうことは想像に難くない。

 この人はよく私のことを誇りに思うなどと言ってはいるが、その実私のことなどなんとも思っていないのだろう。そんな態度にももう慣れてしまい、今更思うことなど何もない。


 大会当日の事を思い出すと、確かにあの日の盛り上がり方は凄かったと思う。

 選手の紹介記事といい、入場の演出といい、私の婚約者になったあの令嬢は中々奇抜なことを考えるものだ。

 辺境の田舎出身故、洗練された王都の者の考え方とは違った思考回路をしているのかもしれない。


「生徒会から提出された大会の収支報告書も見たぞ。随分と利益が上がったようではないか。ここ数年の学園魔法剣技大会の収支は赤字であったのに、よくやったな。お前が生徒会の者たちを上手く率いたのだろう。お前のような優秀な跡取りがいて、私も鼻が高い」


 事前に彼の令嬢から選手を応援する商品を会場で販売したいと言われ許可を出したが、それが非常に売れたらしいというのは噂に聞いている。

 取るに足らない小銭稼ぎに必死な様子を見て「やはり辺境の田舎者は卑しいな」などと思ったものだが、父は別の感想を抱いたようだ。


「して、その利益はいつ頃国庫に振り込まれるのだ?」


 何故かそわそわとした様子でそう聞かれたが、はて、父は何を言っているのだろう。


「国庫には振り込まれないのではないですか?」


「な、なんだと? どういう意味だ?」


「生徒会役員に抜擢されてやる気に溢れたリリアンナ嬢に、大会運営を任せる代わりに出た利益は彼女のものという形になったと、リュディガーから報告を受けた記憶があります」


「そ、そんな……」


 父は顔を青くして絶句しているが、それがいったいなんだというのか。


「国王ともあろう方がどうされたのですか。あのようなはした金、誰のものになろうと王族にとっては取るに足らないことではありませんか」


「は、はした金……。しっ、しかし、リリアンナ嬢が中心となって運営したのだとしても、他の生徒会役員も携わってはいるのだから、全ての利益を彼女にというのは公平性に欠けるのではないか? ヴァルツレーベン以外の家からも費用の持ち出しはあったのであろう?」


「いえ、費用は全てリリアンナ嬢の個人資産からの持ち出しで、運営も彼女と彼女の人脈でもって行われたので他の生徒会役員は関わっておりません」


「なんだとっ!?」


 なぜか父は顔を真っ赤にして勢いよく椅子から立ち上がった。

 いったいどうしたのだ。


「あっ、あれほどの、金額を…………あれが、あれが、あればっ…………あばばばば」


「へ、陛下ーーー!?」


 話している途中で突如として父が意識を失い、側仕えが慌てて駆け寄っている。

 持病の痛風が悪化でもしたのだろうか。


 はぁ、豪勢な食事は控えるようにと医者からも言われているというのに、全く節制しないからこういうことになるのだ。

 自制のできない父に能力の足りない側近、私を取り巻くのは力が足りず、私の才能に寄りかかろうとしてくる者ばかりだ。


 あぁ、どこかに孤独な私の心を理解してくれる者はいないものか……。


 


 


泡を吹いたのはリュディガーではなく国王でした。

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