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71. 目が覚めたら全て解決していた

 日間異世界転生/転移7位!?

 ありがとうございます!

 目を覚ますと、自室のベッドに寝かされていた。

 泣き疲れてそのまま眠ってしまうのは一体何度目だろう。

 最近は泣くのを我慢できるようになってきて自身の成長を感じていたのに、泣きすぎて頭がズキズキする。


 あああ、やらかした……。

 昨日の失態は思い出したくもないが、余計なことをベラベラと喋りまくった気がする。

 大泣きしながら不満を訴えるとか、赤ちゃんか。

 穴があったら入りたい……。



 しゃべりすぎーた、よくあさ、おちこむことのほうがおおい~



 前世で聞いたことのある動物園の歌のワンフレーズが虚しく頭に響く。

 本当にその通りだ。

 こんなところに入れる穴はないので、布団の中でなるべく小さく丸くなった。


 「リリアンナ様? お目覚めでしょうか?」


 天蓋の外からイングリットの声が掛かった。


 「……起きました」


 貴族らしくない姿を見せてしまって気まずくてしょうがなかったが、イングリットは気にした素振りもなくいつも通り世話を焼いてくれた。

 プロだ……。


 「イングリット、あの、昨日はごめんなさい」


 「リリアンナ様がお謝りになる事は何一つございませんよ。むしろ、主の心労に気付けなかったわたくし達の不手際です。誠に申し訳ございませんでした」


 昨日の醜態を詫びると、逆にイングリットに跪いて謝られてしまった。

 イングリットの不手際だなんて全く思わないが、ここは彼女が怒っていないことを喜ぶべきだろうか。

 ここで「いやいや私が悪い!」と言い張っても謝り合戦が始まってしまいそうだったので、一旦謝罪は受け取り実は先程から物凄く気になっていることを尋ねることにした。


 「あ、あの、おに、カインは、もう帰ってしまいましたか」


 せっかく久しぶりにちゃんと会えたのに、寝落ちしてしまうなんて不覚すぎる。


 「カインなら、部屋の外に控えておりますよ。目覚めたリリアンナ様が寂しがるだろうと、昨夜は城に泊まるようにブリュンヒルデ様からの指示があったのです。今呼んでまいりますね」


 しょんぼりした私を見て優しく微笑んだイングリットが立ち上がり、そう言って部屋を出て行った。

 なんと、カインはまだ城にいるらしい。

 やったぁ! ありがとう、お養母様!


 すぐに戻ってきたイングリットの後に続いて入室してきたカインの姿を見て、急いでベッドを下りて寝巻に裸足のまま駆け寄り、抱きついた。お腹にぐりぐりと顔をこすりつける。


 「ふふっ、なんだか懐かしいな。初めて教会に預けられた時もこうして寂しがっていたっけ。リリーはいつまで経っても子供だなぁ」


 呆れたような言葉を吐いているが、その声色はどこまでも温かく、優しい手つきで頭を撫でてくれた。


 「……帰っちゃったかと思った」


 「領主夫人が、俺をリリーの護衛騎士見習いにしてくれたんだ。これからは、訓練の時以外はずっと一緒にいられるよ」


 「え」


 カインの言葉に驚いてバッと顔を上げる。


 「貴族の子女は年頃になったら王都の貴族学園に通わないといけないから、一緒に通えるように年の近い側近をつける必要があるんだって。そのメンバーを選定していたところに、魔法剣技大会の選抜に入った功績が評価されて、俺が入れることになったんだ。リリアンナ様に害意がないことは、俺は疑う余地もないから」


 「ほ、ほんとに……?」


 にっこりと笑って肯首した兄を見て、また涙が込み上げてくる。

 カインとまた会えるようになるのはずっとずっと先の話だと思っていた。


 「ふえ~ん……」


 「リリーは本当に泣き虫だなぁ」


 再びお腹に顔をうずめて泣き出したのでカインに笑われてしまったが、本当の事なので何も言い返せない。




 しばらくして泣きやんだ私は、泣き腫らした目にイングリットが用意したホットタオルを当ててもらい、身支度を整え、部屋で朝食を取った。


 お養父様に呼ばれているとのことなので、イングリット、アードルフ、カインを引き連れて領主執務室に向かう。

 いつも隣で手をつないで歩いていたのに、今はカインが一歩後ろを歩いていることが不思議な感じだ。

 少しさみしいけれど、会えないよりはずっといい。


 貴族教育には昨日心がぽっきり折れてしまった私だけど、カインに呆れられないように、平民出身で選抜に選ばれるくらい優秀な騎士見習いである彼が仕えるのに相応しい貴族令嬢にならなければと気合を入れなおした。


 領主の執務室に入室すると、中にはお養父様以外にもお養母様とレオン、騎士団長と青い顔をしたローザリンデまでいた。

 騎士団長のバルドゥイーンとは数えるほどしか顔を合わせたことはないが、彼はローザリンデの父親である。

 泣きながら思いっきりローザリンデの悪口を言ってしまった自覚しかないので、気まずくて二人を直視することができない。

 昨日の話、絶対伝わってるよね……。


 「よく来たな、リリアンナ。体調はどうだ?」


 「おはようございます、お養父様。体調は問題ありません。昨日はご迷惑をおかけしてしまい、大変申し訳ございませんでした」


 昨日の失態を謝罪し深くお辞儀をした。

 怒られる前に先手を取って真摯に謝る。これもブラック企業で生き抜いた元社畜社会人の処世術である。


 「顔を上げてくれ。謝らなければならぬのはこちらの方だ。其方を取り巻く悪環境に気付いてやれず、すまなかった。謙虚な其方の事だ、自分からは言い出しずらかったことだろう」


 「わたくしからも謝らせて頂戴。貴女の周囲の環境をディートハルト様任せにせず、わたくしもしっかりと確認すべきだったのです。この人が調整事の苦手な脳筋だとわかっていたはずでしたのに……。本当に、申し訳ないことをしました」


 領主夫妻が揃ってとても申し訳なさそうに頭を下げているが、今、可憐なお養母様の口からとんでもない暴言が出なかったか?

 私の聞き間違いだろうか。


 この領地で一番偉い二人に頭を下げさせてしまい、申し訳なくてわたわたしていると、騎士団長がずずいっと進み出て私の前に跪いた。

 騎士団長はお養父様より少し年上で体格はそこまで大きくないものの、顔に傷があり、とても威厳のある厳格そうな御仁だ。


 「リリアンナ様。此度は愚かな我が娘が大変失礼を致しました。領主様に事情をお聞きし娘を問い詰めたところ、我が領の救世主であらせられるリリアンナ様に対して非常に無礼な言動があったと認めました。誠に……申し訳ございませんでした!」


 騎士団長はこめかみに青筋が浮くほど怒っていて、正直めちゃくちゃ怖い。

 彼がその鋭い目でローザリンデを睨みつけると、彼女は震えながら騎士団長の隣に跪いた。


 「も、申し訳、ございません、でした……」


 悔しそうに私を睨みつけながら渋々謝っている様子を見るに、申し訳ないとは思っていなさそうだ。


 「騎士団長。突然平民から貴族になった私を生粋の貴族令嬢であるローザリンデ様が良く思わないのは当然のことです。昨日のことは全てわたくしの未熟さ故の事ですから、どうか謝らないでください」


 「いいえ、いいえっ! ヴァルツレーベンをお救い下さった聖女様に対してなんたる不敬! 斯くなる上は父親である私自ら娘の介錯をしその死をもってお詫びするほかございません!」


 「お父様っ!?」


 待って!?

 介錯!?

 まさか、切腹!? 切腹なの!?


 予想外の事態に、助けを求めるように周囲を見渡すと、アードルフがうんうんと騎士団長の意見に同調するように頷いていた。

 なんで!?


 「ままま待って下さい、騎士団長。おお落ち着いてください。わたくし、ローザリンデ様に死んでほしいなんて思っていません!」


 「罪人であるローザリンデにまで慈悲をお与え下さるとはなんとお優しい……。ならば、娘は我が家から籍を抜き、平民に落としたうえで修道院へ……」


 「きしだんちょうっ! 私は、ローザリンデ様とのお茶会がなくなればそれでいいですからっ。それ以上は望みませんっ」


 なんだか物凄いことを言っている騎士団長を慌てて止める。

 ローザリンデは自身の父親からとんでもない処遇を告げられ、ぷるぷると小動物のように震えている。

 彼女の事は好きではないが、嫌味をぶつけられたくらいで他に害はないし、特に何か罰が与えられてほしいとは思っていないのだ。今後の関わり合いがなくなればそれでいい。

 それにもし過剰な罰が彼女に与えられてしまったら、私の寝覚めが悪いではないか。


 「バルドゥイーン、その辺で納めろ。リリアンナは大事になることを望んでおらぬ。娘の意思を尊重しこちらからは罰は与えぬ故、其方の家でローザリンデの教育をし直すのだな。ただ、レオンハルトとの婚約だけは白紙とさせてもらうが」


 「そ、そんなっ」


 「当然のことでございます。本来なら厳罰が下ってもおかしくはない罪を犯したローザリンデへの御恩情、痛み入ります。遅くに生まれた末娘だからと、少々甘やかしすぎたようです。このバルドゥイーン、ローザリンデに辺境貴族としての矜持を責任持って教え込み、ひん曲がった性根を叩きなおしてみせましょうぞ」


 「お父様っ!? なぜっ、なぜわたくしがそんな目に遭わなければならないのですかっ!? わたくしはただ、思い上がった平民に立場というものをわからせようとしただけではありませんか!」


 「お前はこの期に及んで、まだそんなことを申すのか! 平民出身だからなんだ! リリアンナ様が竜を討ち倒し、結界を復活させて下さったからこそ、我々の今の平和な生活があるのではないか! 領地を救って下さった聖女様に感謝してこうべをたれねばならぬところを、平民だと蔑むなど、お前は一体何様のつもりなのだ!」


 騎士団長が怒髪天を衝く勢いでローザリンデに向かって怒鳴っている。

 さ、さすが騎士団長、声がとにかくでかい。怖いぃ……。


 ローザリンデは彼の娘なだけあって慣れているのか、この状態の騎士団長にも涙目ながら臆することなく食ってかかっている。


 「聖女というのも自称でしょう!? 竜に偶々雷が落ちた時に偶々近くにいただけではありませんの!? 神獣だってそれっぽい猫を連れてきただけでしょう! こんな気品の欠片もない者が聖女なわけないではありませんか! 皆その子に騙されているのです! なぜそのことに気付かないのですか!」


 「貴様ぁ!!!」


 突然アードルフの怒号が響き渡り、驚いて振り向くと、ローザリンデに今にも飛び掛からんといった風のアードルフの剣に掛けた手を、いつの間に移動したのか、レオンが押さえていた。


 「お放し下さい、レオンハルト様! 我が主に対する侮辱、これ以上は捨て置けません!」


 「うん、気持ちはわかるけどね。ちょっと落ち着きなよ」


 この緊迫した空気の中、レオンだけは至っていつも通り飄々としている。

 すごい、肝が据わっているな……。


 「レオンハルト様! レオンハルト様ならわかってくださるでしょう? このままではわたくしたちの婚約がなくなってしまいます。レオンハルト様からも何とか言って下さいませ!」


 「うーん、そう言われても、俺はリリアンナが神獣に騎乗してケラウノスを操るところをこの目で見ているからなぁ。君の父親を含む、あの日戦いに出ていたほとんどの騎士達も同じだ。その言い分は通らないんじゃないかな」


 「そんな……」


 レオンのすげない態度にローザリンデがショックを受けている。

 婚約が白紙になるというのにこのケロッとした様子、貴族の婚約というのはこんなものなのだろうか。


 「それに、リリアンナが結界を復活させた件はどう説明するつもりなの」


 「それだって、その子がたまたま魔力が多かっただけに決まっていますわ!」


 「たまたま、ねぇ。百歩譲って君の言った通りだとして、リリアンナが他の誰もが成しえなかった結界魔導具の再起動を行ったことは事実だ。それができる魔力量があるだけで、ヴァルツレーベンにとって価値のある存在となる。君よりも、俺よりも、ね」


 「レ、レオンハルト様……」


 「リリアンナはいまやヴァルツレーベンの宝だ。領地の宝を害した君を許すわけにはいかないよ。あと、俺の可愛い妹と仲良くできない婚約者はいらない」


 レオンがローザリンデを見る目は非常に冷たい。

 いつも通りに見えたけれど、実はレオンも怒っていたらしい。


 「いやっ! 嫌ですっ! ごめんなさい、レオンハルト様! 謝りますから、お願い、許して!」


 最後通牒を突き付けられたローザリンデがレオンに取りすがろうとし、レオンの護衛騎士に取り押さえられている。


 「もうよい。連れていけ。これ以降、ローザリンデの登城は許さぬ」


 「はっ。お見苦しいものをお見せしてしまい大変申し訳ございません。このお詫びは必ず。御前失礼致します」


 騎士団長のバルドゥイーンは、いやいやと髪を振り乱して泣き喚くローザリンデの襟首を引っ掴んでずるずると引き摺って退室していった。

 廊下の外からも「いやぁ、レオンハルトさまぁ!」と絶叫する声が聞こえてくる。


 「リリアンナ。俺の婚約者がごめんね。もう二度と会うことはないから安心して」


 レオンハルトがそう言って私の頭をよしよしと撫でた。


 「わたくしの事よりも、レオン兄様は良いのですか? 婚約を白紙にするだなんて」


 「さっきも言ったけど、リリアンナと仲良くできない婚約者とうまくやっていける気はしないかな。元々彼女とは合わないと思っていたから、君が気にする事じゃないよ」


 そう言われても、私が子供のように泣き喚いた事でレオンとローザリンデの今後が変わってしまうなんて申し訳なさすぎる。


 「リリアンナ。其方が聖女である事を抜きにしても、ローザリンデの言動は領主一族と正式に認められた相手に対して許されるものではなかった。領主一族の婚約者として不適格であったのだ。其方が気に病む必要は全くない。本人が真に反省しているならば、自身を鍛え直し周囲の信頼を取り戻すこともできよう」


 「お養父様……。わかりました」


 完全に納得できたわけではないが、きっとこの辺が落としどころなのだろう。

 私としてはあの針の筵のようなお茶会がなくなるだけで万々歳だ。

 ローザリンデのことはもう気にしないでおこう。


 「リリアンナ」


 お養母様が膝をついて私の手をそっと握った。


 「貴女には、たくさん我慢させてしまったわね。今後は、貴女の周囲の者に関する采配はわたくしが取ります。教師達も解雇して、貴女を平民と嘲る事のないちゃんとした教師を改めてつけますから、全ての貴族を嫌わないでくれると嬉しいわ。あれらは少数で、大多数の辺境貴族は貴女に本当に感謝しているのですから」


 なんと、ツェルナー夫人の授業もなくなるらしい。

 散々泣き喚いて寝落ちして目が覚めたら、私が苦しんでいた全ての問題が解決していた。

 え、いいの……?





 リリーの言った「ローザリンデとのお茶会がなくなればそれでいい」というのは貴族語で「もう二度と顔も見たくねぇ」という意味になります。

 貴族令嬢にとって領主の娘からそれを言われることは、事実上辺境社交界からの追放を意味し、貴族として終わってしまいました。

 ローザリンデへの処罰が甘く見えるかもしれませんが、平民となって修道院に入るのとどちらの方がマシかは彼女の感じ方次第。

 もちろん、リリーはそのことに気付いていないし、周囲も敢えて言いません。




 また誠に勝手ながら、この度、感想の受付を停止させていただきました。

 理由に関しては一応活動報告に書きましたが、読まなくても全く問題はありません。

 お時間のある方で気が向くことがございましたら、ご一読いただけますと幸いです。

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