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64. アーティファクトと地下遺跡

 村長が後ろに控えていた青年に目配せすると、青年は前に進み出て、抱えていた包みを開き、中身をアードルフに向かって恭しく捧げ持った。

 アードルフが受け取ったそれは、大きな革張りの本のように見えた。


 「これは……」


 「我が村で代々守り受け継いできた書物です。古代の言語で書かれているので定かではありませんが、この本は古代遺物アーティファクトの技術に関して書かれているのだと伝えられてきました」


 「なんだって!?」


 離れたところで書き物をしていたフュルヒテゴッドが、勢いよくこちらに走ってくる。

 普段、集中している時は声を掛けても聞こえていなさそうなのに、よく聞こえたな。

 自分の専門分野に関する話題は耳が自動で拾うのだろうか……。


 「ご老人! そんなものがあるだなんて、聞いてないよ! なんで前にここへ来た時に教えてくれなかったんだい!?」


 「お社に頬擦りして話しかけるような怪しげな奴に、教えるわけないじゃろうが! これは、昔アーティファクトに関する書物が焚書の憂き目にあった際、ご先祖様が見つかれば処刑されるのを覚悟で、後の世のために命がけで隠し守り抜いたもの。これを託せるお方がこの村に現れるその時まで、守り抜くようにと言われていた村の宝なのです」


 「……そんな大事なものを、私に渡してしまっていいんですか?」


 「聖女様だからこそ、託したいのです。聖女様は領地を、この村を救って下さった。これを貴女様に託すのはこの村の者達の総意です。どうか、これを領地にお役立て下さい」


 そう言って村長さんはその場に平伏し、周囲の村人たちもそれに倣い同じように平伏していった。





 古代文字が読めない私には難しいが、城で専門家に研究してもらい領地に役立てると約束して本を受け取り、私達はホルン村を後にした。

 まぁ、その専門家というのは村長さんが怪しい奴と言っていたフュルさんの事なんだけど。

 世の中知らなくていい事というのもあるだろう。


 ちなみにそのフュルヒテゴッドは現在、自分の馬車の中で血走った目でその本を読んでいる。

 彼は全ての古代文字を解読できるわけではないが、研究を進め三割ほどは理解できるようになったらしい。

 非常に複雑で難解だと言われている上に、現在ではその言語で書かれたものがほとんど残っていない古代文字を、たとえ三割でも唯一理解することができる、まごうことなき天才なのだそうだ。


 「レオン兄様、アーティファクトに関する本は焚書されたんですか?」


 「そうだと言われているね。今のエルデハーフェン王家が興ってしばらくしてから、教会が古代の技術を異端だと言い出したらしい。神の怒りによって元々多くの知識が失われていた上にそれもあって、今では全くと言っていいほどアーティファクトに関する情報は残されていないんだ」


 「アーティファクトの研究って異端なんですか?」


 「異端とされていたのは昔の話で、今はそんなことを言う者はいないよ。王都の教会関係者にそういう過激派もいるらしいけど、ごく一部だけの話だ。うちの領地では機能を止めた結界の魔導具をどうにか再起動できないかと、むしろアーティファクト研究を後押しする姿勢だったんだ。情報は中々集まらないし、結界の問題は君が解決しちゃったから、あまり実にならない研究ではあったけど、ここへきて新しい情報がもたらされてフュルヒテゴッドはとても嬉しそうだったね。全部君のおかげだ」


 レオンはそう言ってパチンとウインクした。


 「昔の人も馬鹿だよねぇ。アーティファクトによって生活を支えられているのに、異端だとか言って自分でその技術を断絶させちゃうなんて。その人は自分が使っているアーティファクトが壊れたらどうするつもりだったんだろうね?」


 「そうですね……」


 魔力の件といい、アーティファクトの件といい、昔の人はちょっと迂闊すぎやしないだろうか。

 まるで、わざと人類を退化させようとしているかのようだ。


 その後は、レオンはもうその話に興味を失ったのか、どこかから取り出した猫じゃらし型のおもちゃでミルと遊び始めた。

 こんなものまで用意してたのか……。


 ミルの関心を得るために色々用意するレオンの熱意には脱帽するが、こちらをちらとも見ずに真剣に猫じゃらしを追ううちの子の姿に、飼い主としては複雑な思いである。

 ……別に、さみしくなんかないもん。




 その後も行程は順調に進み、各村の停止した結界の魔導具を起動して回っていった。

 旅は基本的に私は車中泊で、無事に結界が復活した村の開けた場所にキャンプを設営し、騎士等の男性陣はテントを張りそこで寝泊りした。


 どの村でも下にも置かぬもてなしを受け、出された食事は貴族の料理とも、うちの店で出す下町の庶民料理とも違う、ワイルドな雰囲気漂う郷土料理だった。

 まるでアニメやゲームに出てくるようなこんがり焼けた骨付き肉と、とろけたチーズの塊が乗ったピザのような食べ物が特に美味しかった。


 ……お兄ちゃん達にも食べさせてあげたかったな。


 周囲の人にかいがいしくお世話をされ、ずっと馬車に揺られてお尻が痛いこと以外は想像以上に快適な旅路に驚きつつ、旅は順調に進んでいた。

 アーティファクトの情報に関しては、向かう先向かう先で村長に掴みかかる勢いでフュルヒテゴッドが尋ねていたが、最初の村以降何か新たな物が出てくることはなかった。






 「古代文字で書かれた書物ですか……。うちの村にそういうのはありませんけど、近くの森の中に古い遺跡がありまして、よくわからない文字のようなものが壁に彫られているんですが、何か関係ありますかね?」


 「な、なんだってー!?」


 最後の村の結界の起動が終わり、最初の村以降全ての村で不発に終わったフュルヒテゴッドが半ば諦めモードで情報を求めた結果、返ってきたのがその答えだった。


 私たちは急遽その遺跡に向かうことになった。

 侍女などの非戦闘員と一部の騎士は例の如く村でお留守番である。

 最初は私の同行もアードルフが危険だと言って渋っていたが、フュルヒテゴッドが「魔力が必要な遺跡だったらどうするんだい!?」と強硬に私の同行を推したことと、ミルの特性で魔物が近づいてこないというのを伝えてなんとか説得し、私も一緒に行けることになった。

 失われた古代文明の遺跡だなんて、気になるではないか。


 森歩きに慣れた村の狩人さんに案内され、私は足元が悪いからとアードルフに抱っこされて森の中を進んでいく。


 「ここです」


 案内された場所は崖だった。

 危ないからと下を覗き込むことはさせてもらえなかったが、かなり高そうだ。

 どうやら、この崖から下りた途中にある窪みに遺跡の入口があるらしい。


 近くの太い木にロープを縛り付けて、案内役の狩人さんはスルスルと崖を下りて行った。

 私はアードルフが抱いて下りるというのを固辞し、成獣化したミルの背に乗って空を飛んで崖の中腹に下り立った。

 そこには白い石でアーチ形に縁どられた入口があり、同じく白い石の階段が下に続いていた。


 ポカンと見ていた騎士達が、慌ててスルスルと下りてくる。


 「リリアンナ様、下りるなら私が先に下りてからにして下さい。何があるかわからないのですから」


 下りてきたアードルフに叱られてしまった。

 私はアードルフが先に下りて、罠などがないか周囲を確認し安全だとわかってから向かうのが正解だったらしい。


 「ごめんなさい……」


 運動関係はからっきしらしいフュルヒテゴッドが下りてくるのに少々時間がかかったが、全員が崖を下り終わり、松明を持つ騎士を先頭に、私は再びアードルフに抱っこされて今度は地下に続く階段を進んでいった。

 この下には何があるのだろう。

 ダンジョン探索みたいで物凄くわくわくする。


 そこそこ長い階段が終わると、広い場所に出た。

 白い石造りのアーチや柱が並び、これぞ神殿といった感じだが、所々草が生えていたり、蔦が這っている。

 高い天井は一部崩れているところがあり、そこから太陽の光がさしていて松明が無くても明るく照らされていた。

 私の乏しい語彙力をもって一言で言うなら「ザ・遺跡!」といった雰囲気である。


 「なんと……」

 「こんな場所が……」


 騎士達が騒めいているが、一番喜びそうなフュルヒテゴッドが静かだなと、そちらを見ると、目に涙を浮かべながらぶるぶると小刻みに振動していた。

 嬉しくて声も出ないらしい。


 奥の方には大きな扉があるが、そこに何かあるように見える。


 「フュルさん、あれは何ですか?」


 「ん? な、なに?」

 

 ようやく正気に戻ったフュルヒテゴッドと皆で扉の方へ注意深く移動する。


 扉には縦横九マスずつの四角い枠のようなのものが掘られていて、何か文字のようなものがひとつ書いてあるマスがいくつかある。

 騎士が扉を押してみたが開かず、鍵穴のようなものは見当たらない。


 扉の前には台座があり、その上には石の箱が置かれている。

 人が入るには少々小さいので棺桶ではないと思いたい。


 「これは……やはり古代文字だね。この箱は開けてもいいのかな?」


 「普通に開きますよ。中はなんかようわかりませんでしたが」


 狩人の言葉を聞いて、騎士が二人がかりで重そうな石の蓋を開けると、中には石盤らしきものがたくさん入っていた。


 「おおっ!」


 フュルヒテゴッドが目を輝かせて石盤を検分していく。

 石盤は三十センチ位の正方形で、目の前のマスにちょうどはまりそうな大きさである。


 「パズルの一種かな? この石盤を正しい位置にはめ込めば扉が開くんじゃないか?」


 おおっ、それはとてもダンジョンっぽいぞ。


 石盤はどれも片面に大きく一文字何かが書かれていて、もう片面にはうっすら魔法陣の一部のようなものが書かれていた。

 パズルを完成させると、魔法陣が繋がって扉が開くのだろうか。

 わくわくして見ていると、フュルヒテゴッドが何やら石盤をいくつかに分け始めた。

 同じ文字が書かれている石盤があるようだ。


 「これは、古代文字の数字で一~九の文字が書かれている。扉のマスに書かれている数字と合わせれば、全ての数字が九つずつあることになるけど、さて、一体どういう法則があるのか……」


 フュルさん含め全員が首を捻っているが、ちょっと待て。


 九×九の八十一マスに、一~九の数字が同じ数ずつ、マスの所々に最初から数字が入っているパズルって、前世でめちゃくちゃやったことがある気がするんだけど……。


 




 あのモンスターを狩猟するゲームに出てくる料理、本当に美味しそうですよね……。

 イメージはあれです。

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