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【書籍化】異世界FIRE~平民の幼女に転生したので経済的自立を目指します!~  作者: 青月スウ
第六章 オーディション編

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110. 相談事(クラウディアの場合)

 他の側近は下がらせ、クラウディアにソファに座るように促して、私もその正面に腰を下ろした。


「相談事とは一体何でしょうか?」


「あの……実は、レオンハルト様のことで……」


「レオン兄様に何かされたのですか?」


 あのナンパ野郎、可愛いうちの子に何してくれとんじゃ、と立ち上がりかけた私をクラウディアが慌てて引き止めた。


「いえ! ち、違うのです! レオンハルト様はいつだって紳士的でいらっしゃいます!」


「あ、そうなのですか?」


 てっきり、様々な女生徒と浮名を流すレオンのことだから、その関係で何かクラウディアが傷つくようなことがあったのではと思ったのだが、そういうわけではないらしい。


「その……わたくしの勘違いでなければ、最近のレオンハルト様のわたくしに対する空気が甘いというか、まるで婚約者を相手にされているような雰囲気を感じるのです」


「それは、わたくしの目にもそう見えました。先日の夜会でもエスコートしていましたし、近々お養父様からクラウディアのお家の方に婚約の打診があるのではないでしょうか」


「や、やはりリリアンナ様も、そう思われますか?」


「はい。ヴァルツレーベン貴族の婚約はしばらくは領地内で行うことになっていますし、クラウディアの実家の爵位は伯爵家で、領地内では辺境伯家に次ぐ家柄ですから身分的にも問題ありません。何よりここ最近のレオン兄様の様子から、クラウディアを相手に選んだのだと思っていました」


「そ、そうですよね……」


 クラウディアがレオンに恋していることは明らかなので、私はてっきりクラウディアは喜んでいるものだとばかり思っていたのだが、今の彼女はどちらかというと困惑の方が強いように見える。


「クラウディアはレオン兄様との婚約は嬉しくないのですか? もしクラウディアの方から断るのが難しいと言うなら、わたくしからお養父様に進言することもできますよ?」


「いいえ、いいえ! レオンハルト様に選ばれるということはとても光栄なことですし、ずっと憧れていた方ですので、天にも昇るような気持ちなのです! ただ……」


「ただ?」


「わたくしのレオンハルト様に対する気持ちは、決して手に入らないものに対する憧れのようなものでしたから、自分があの方の婚約者になるだなんて、考えたこともなくて戸惑っているのです……」


 要するにクラウディアとしては、テレビの向こうの芸能人に恋しているような感覚だったということだろうか。


「わたくしは、将来どなたかと結婚しても、ずっとリリアンナ様の側仕えを続けるつもりでいました。それに、最近では歌の奥深さに触れて、もっともっと、自分の実力を伸ばしてみたいと思うようにもなっていたのです。……もしも次期領主夫人となれば、これから学ばなければならないことも多いですから、きっとそのどちらもできなくなります」


 それはそうだろう。

 幼い頃から婚約していたわけではなく、突然次期領主夫人だなんて責任のある立場になるのに、他の事に割ける時間は多分そんなにない。手放さなければならない未来は多いと思う。

 歌の方はまだしも、私の側仕えとの兼業は絶対に無理だ。


 最初は甘酸っぱい恋の悩みかと思ったが、そうではなかった。

 クラウディアは今、重要な人生の岐路に立たされているのだと理解した。

 今、どういう選択をするかで、この先の人生は全く違ったものになるはずだ。


「レオンハルト様との婚約は、本当に嬉しいのです。わたくしが今、とても恵まれていて、これが稀有な幸運だということはわかっています。その幸運を自ら手放すことは愚かだということも。ですが、わたくしが思い描いていたものとは違う未来に踏み出すことに、どうしようもなく不安になってしまうのです」


「そんなのは当たり前でしょう。想定していた人生設計が狂うのです。誰だって不安に思って当たり前です。レオン兄様とは、そういった話はしないのですか?」


「まさか! レオンハルト様にこんなこと言えません。何度かお茶に誘って頂き二人でお話させていただく機会はございましたが、会話の内容は、選定式の事ですとか、最近あったできごとなどについてでした」


 まぁ、恋人というわけでもなく、最近距離が近づき始めた二人がいきなりそんな深い話をするというのも難しいか。

 けれど婚約の打診をされてしまえば、クラウディアから断ることは難しい。

 彼女が悩んでいられる時間は意外と少ないぞ。ううむ、どうしたものか……。


「わたくしがレオンハルト様への憧れを見せると、リリアンナ様は時折微妙な表情をされていたでしょう? レオンハルト様のお相手としてわたくしがまだまだ至らぬ身であることは承知しておりますが、わたくしがレオンハルト様の婚約者となることに対してリリアンナ様はどうお考えなのか、直接ご意見を伺いたく思ったのです。わたくしの主はリリアンナ様です。リリアンナ様のご意向に背くような真似はしたくありませんから」


 私が微妙に思っていたことはどうやらバレていたらしい……。

 さすが私の側仕え。僅かな変化から私の感情を読み取ることはお手の物だ。


「勘違いしてほしくないのですが、わたくしはクラウディアの幸せを一番に願っています。レオン兄様に想いを寄せるクラウディアを見て微妙な顔をしていたのは、決してレオン兄様の相手としてクラウディアが不足していると思っていたからではなく、逆にレオン兄様の方が貴女の相手として相応しいか疑問に思っていたからなのです」


「レオンハルト様に、不足などございますでしょうか……?」


 クラウディアは私の言葉に心底不思議そうにしている。


「レオン兄様は勉学にも剣技にも優れ、領地を愛する心もありますし、次期領主としてとても優秀な方だと思います。義妹であるわたくしにも優しくしてくださいますし、兄としてもわたくしは何の不満もございません。ただ、婚約の相手としては……」


「…………」


「レオン兄様は、色々な女性と浮名を流していらっしゃるでしょう? 決して褒められたことではありませんが、婚約者のいない現在では罰せられるほどの事ではありません。けれど婚約となると話は別です。婚約が成立した後、これまでの女性関係を全て切って、婚約者に対して誠実でいてくれるとは限らないではございませんか。そういった意味で、クラウディアが傷つく結果にならないかと、心配していたのです」


「そうだったのですか……」


「これはあくまでわたくし個人の考え方だと思って聞いていただきたいのですが……婚約も、結婚も、相手がいなければできないことですから、お互いが歩み寄って二人にとって理想の関係性を時間をかけて築いていくことが大事なのではないかとわたくしは思っています。全く別の人生を生きてきた二人ですもの。価値観が違って当然です。お互いの望みや、されて嬉しいことや嫌なこと、そういったことを共有しながら、その二人だけのあり方を模索していく必要があるでしょう」


「…………」


「そういった関係性は、今はまだ浅くとも、これからいくらでも構築していくことができると思います。けれど、お相手がもし婚約者の為に変わるつもりはない、婚約者のことを深く知るつもりはない方だったとしたら、片方だけが大きな我慢を強いられることになります。クラウディアは、もし婚約者が別の女性と遊び歩いていたら、どんな気持ちになると思いますか?」


「……悲しくなる、と思います。お慕いしている相手ならば、余計に」


「ですよね。人によっては、女は家を守るもの、最後は自分の元に帰って来るのだから男の一時の遊びなど笑って許すのが正妻の度量、などと仰る方もいらっしゃるかもしれません。けれど、わたくしはそうは思いません。他の方にとってどんなに素敵な人でも、妻に対しては不誠実なら、地獄ではありませんか。そんな結婚に、クラウディアが望んでいた未来を捨てて全てを我慢する価値なんてありません。そういう相手だとはじめからわかっているならば、幸せな未来なんて想像できませんから、お断りする権利があると思います。何度も言いますが、わたくしは、クラウディアに幸せになってほしいのです」


「レ、レオンハルト様は、そ、そんなにも……?」


 あまりにも脅しすぎたのか、クラウディアの顔が青くなっているのに気づき、慌てて弁明する。


「あああ、違います。そういう方が婚約者だったら大変だ、という話で、決してレオン兄様がそうだと言っているわけではありません。わたくしもレオン兄様の女性関係は噂でしか存じませんし、蓋を開けてみたらクラウディアに対しては誠実になってくださる可能性だってあります。ただ、わたくしはレオン兄様が以前の婚約者の方を冷たく突き放すところを目の前で見ていますから、婚約というものが兄様にとってあまり重要なものではないのかもしれないと思いました。もちろん、以前の婚約者の方との相性が悪かっただけということもあるかとは思いますが……」


「以前の婚約者の方というと、ローザリンデ様ですね……」


 あの時は私のために怒ってくれたわけだけど、ローザリンデに対するレオンの冷たい目を思い出すと、今でもぞくっとするのだ。


「わたくしは、一体どうすればいいのでしょう……?」


 クラウディアが途方に暮れたようにそう呟いた。


「わたくしは、クラウディアが決断した事ならば、たとえどちらの道を選んでも応援いたします。クラウディアが結婚してもわたくしの側仕えでいて下さるのはとても嬉しいですし、もしもレオン兄様と婚約して、クラウディアが傷つくようなことがあれば、わたくしは絶対に助けます。ケラウノスを使ってもいいですし、お養父様とお養母様に泣きつくのも良いかもしれません」


「それは……ふふっ、お二人はリリアンナ様のことを溺愛していらっしゃいますから、レオンハルト様が大変なことになりそうですね」


 ずっと浮かない顔をしていたクラウディアがようやく少し笑ってくれた。

 宣言した通り、もしレオンとクラウディアの間で何か問題が起きた時は、私は絶対にクラウディアの味方をするつもりだ。


「ただ、レオン兄様との婚約が、不幸の始まりと決まったわけではありません。クラウディアが将来設計を変えるほどの決断をするべきなのかどうか、判断材料にするための情報がもう少し欲しいですね。深い話をするのは難しければ、会話の中で少しずつ探ってみるというのはどうでしょうか? そうですね、まずはクラウディアの好きな花を知っているかとか……」


 好きな花というのは、意中の相手や婚約者に贈ったり手紙に添えたりするので、結構重要な意味を持つのだと淑女教育で習った。

 そのため、貴族女性は好きな花というのを一つは持っているし、それを周囲の人間が把握していることが多いので、調べようと思えば相手の好きな花はすぐにわかるのだ。(ちなみに私の好きな花はもちろんオニユリとライラックである)

 家柄や派閥、性格に問題がないから婚約者にちょうどいいというのは、最初のきっかけとして悪いものではないが、もしそうであったとしても、こういう婚約者として当たり前の配慮をするつもりがあるかどうかというのは大事だと思う。


「……そう、ですね。機を見て、レオンハルト様とお話してみようと思います」


 偉そうなことをたくさん言ってしまったが、私自身前世も合わせて婚約も結婚もした経験などないので、完全なる想像である。

 けれど、話し始めた時よりもクラウディアの目の焦点が定まっているような気がして、私でも少しは力になれたかもしれないとホッと胸をなでおろした。

 私は立ち上がり、クラウディアの側に移動すると、その手を両手で包み込んだ。


「忘れないでください。わたくしは、いつだってクラウディアの味方です」


「リリアンナ様……。ありがとうございます。わたくし、たくさん考えて、自分で答えを出してみせます」


 そう力強く答えたクラウディアの瞳には、強い決意が宿っているように見えた。

 


この度、本作品がカドカワBOOKS様にて書籍化されることになりました!

やったー!

なろうでお読みいただいている方も楽しめるように沢山書き下ろしたので、ぜひ楽しみにしていて下さいね!

詳細は活動報告に記載いたしましたので、よろしければそちらもお読みいただけますと幸いです。

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