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異世界FIRE~平民の幼女に転生したので経済的自立を目指します!~  作者: 青月スウ
第六章 オーディション編

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101. 練習開始


「我が審査すれば良いのではないか? “神の”乙女を選ぶのであろう? ならば選ぶ権利は我にあるはずだ」


 学園の寮に戻り、このままではまずいと作戦会議を開いたところ、人型になったハーリアルがそんなことを言った。


「安心するがいい。我は賄賂など受け取らぬし、公平に審査するぞ」


 胸を張っているが、候補者たちの歌が聞けるのが楽しみだというわくわく感を隠しきれていない。

 あの、あなたが勝者の腕輪を手に入れろというから皆がんばっているのですが、本来の目的をお忘れではないですかね……?


 ハーリアルの様子には不安を覚えるが、神様に人の理に則った動きを期待しても仕方がないし、教皇から神の乙女を選ぶ権利を奪うという案自体は悪くない。

 国王でさえ教会の顔色を伺っているこの世界でそれができるとすれば、ハーリアルただ一人である。


「となると、選考会当日までは予定通りに準備をし、ハーリアル様には当日突然会場に現れてもらい、神の威光で有無を言わさず審査の権利を奪い取ってしまいましょう。誰の思惑がどう絡み合っているかわかりませんから、相手に対応する隙を与えたくありません」


「うむ。神っぽくド派手に登場してやろう!」


 初めて会った時には恐縮していたカインだが、ハーリアルの調子に慣れたのか、神にも普通に指示を出している。

 神様に対していいんだろうか……と他の側近たちは心配そうにしているが、他でもないハーリアルがとても乗り気なので何も言えずにいるようだ。


「大勢の人間の前に姿を見せることになってしまいますがいいんですか?」


「うむ。せっかくクラウディアががんばると言ってくれたのに、勝者がはじめから決まっているというのは許せないからな。これ一度きりなら問題ないぞ」


「ハーリアル様……。お喜びいただける歌が歌えるよう、精進いたします」


「うむ。楽しみにしているぞ!」


 ハーリアルの中にははじめからクラウディアを選んで確実に腕輪を手に入れようという考えはないらしい。

 こうして、改めてクラウディアが優勝目指して練習に打ち込むということで、作戦会議はお開きとなった。


 審査は一旦公平(予定)になったものの、クラウディアが神の乙女に選ばれるためには、デュッケ夫人曰くここからの成長度合がカギを握る。

 もう少ししたら候補者四人集まっての合同練習会が始まる予定なのだが、教皇の様子を見て不安を覚えた私は、講師に就任予定の人物に関してカインに調べてもらった。


 すると、やはりというかなんというか、到底公平な指導など期待できなさそうな人物であるということがわかったのである。

 直近過去二回の選定式で講師を務め、今回も就任予定のベッカー婦人という人物は、今は公爵夫人となっている前回の神の乙女の権力を笠に着て贅沢な生活をしているとのことで、毎回神の乙女に選ばれそうな候補者を殊更贔屓して恩を売り、その甘い蜜を吸って生きているような人らしい。

 まったくどいつもこいつも……。


 今年の選考会では決してそんなことはさせない。

 神の乙女選定式実行委員長の権限を振りかざし、今回の講師はデュッケ夫人にお願いすることにした。彼女であれば公正公平、一人を贔屓して教えるようなことは絶対にありえないと自信を持って言える。

 自分が講師から外されたことを知ったベッカー夫人からは抗議文が届いたが、「文句があるなら私を実行委員長にした王子に言え」という内容を貴族言葉で丁寧にオブラートで包みまくって返信したら、それ以降何か言ってくることはなかった。




 そして、今日は合同練習会の初日。

 学園の音楽室に候補者四名、デュッケ夫人、そしてサポート兼監督役として私が集まった。

 キョロキョロと物珍しそうに教室を見回していたフローラを可愛いなぁと見ていたらぱちりと目が合ってしまった。

 すると彼女はふわりと花の咲くような笑みを向けてきた。ま、まぶしい……!


「わたし、リリアンナ様は候補者として参加するのかと思っていました。どうして参加しないんですか?」


「恥ずかしながらわたくし、歌が苦手でして。人前で披露できるほどのものではないのです。それに、生徒会長であるヴィクトール王子から選定式の実行委員長を仰せつかりましたから、今回は皆様のサポート役に徹します。フローラ様も、何かございましたら何でも仰ってくださいませ」


 和やかに世間話をしていたのだが、王子の名前が出たところでフローラがぴくりと反応し、顔が強張った。

 ああ、そういえば、この子は王子の恋人なんだっけ。

 王子の名前を出したことに全く他意はなかったんだけど、変な感じに受け止められてしまっただろうか。


「……そうなんですね。わたし、まさか自分が候補者に選ばれるなんて思っていなかったからびっくりしたんですけど、ヴィクトール様はわたしの歌を楽しみにしてるって言ってくれたんです。彼の為にも、わたし、精一杯がんばりますっ!」


 フローラは殊更に明るい笑顔を作ると、ぎゅっと両手の拳を握って頑張る宣言をした。

 なんか、すごく、主人公って感じだ……。

 やる気があるのはいいことだけど、これは何か勘違いされているのでは……。

 多分彼女も私が王子の婚約者だと思っていて、先程の言葉も牽制か何かだと受け取られてしまったのかもしれないが、聞かれてもないのに私と王子は婚約してませんよなんて突然言うのもおかしいし……などともやもや考えているうちにレッスンの開始時間となり、デュッケ夫人による説明が始まった。


「神の乙女選考会で披露する曲目は毎回同じ『四季の宴』です。候補者四名が一曲の中で春夏秋冬をそれぞれ一つずつ担当してソロパートを順番に歌い、曲の終盤では全員での合唱となります。つまり、選考会ということで個々の技量を競い合うものでありながら、完成度の高いものをお見せするためには、四名の調和も重要となってくるのです」


 私はこれまで選定式は一人一人が一曲ずつステージで披露するオーディションのようなものを想像していたのだが、なんと一曲を四人で歌うらしい。

 協力して一曲を作り上げなければいけないのにメンバー同士で競わせるとは、なんて残酷な……。

 前世で見たアイドルのサバイバルオーディション番組を思い出した。


「この中で四季の宴を練習したことのある方はいらっしゃいますか?」


 デュッケ夫人の問いかけにベアトリクスとアガーテが挙手している。

 フローラとクラウディアは初見のようだ。


「よろしい。では、四季の宴を本格的に練習するのは次回以降として、本日は皆様の実力を見させていただきます。担当パートは全体のバランスを見てわたくしが決めますので、まずはそれぞれが得意とする曲を自由に披露してくださいませ。最初はどなたからなさいますか?」


「わたくしがやります」


 いの一番に前に進み出たのはベアトリクスだ。

 神の乙女になるために研鑽を積んできたと言っていたから相当な自信があるのだろう。


「歌うのは四季の宴の春パートでもよろしいですか? 長年練習してきたので一番得意なのです」


「構いませんよ」


 希望パートのアピールがすごい。

 彼女は春パートにロックオンして練習してきたようだ。彼女の熱意と戦略を目の当たりにして、クラウディアは大丈夫だろかと不安になった。


 ベアトリクスが前に進み出ると、授業でもお世話になっている伴奏の音楽隊のピアノがポロンと響き始めた。


 春の名のごとく、柔らかく優し気な音楽に合わせてベアトリクスが堂々と歌いあげる。

 ピッチも音程も完璧で、全く危なげがない。

 うわぁ、ビブラートうまっ!

 正直、今まで聞いた歌の中で一番上手い。彼女が自信満々だったのも頷ける出来だ。

 皆が感心して見つめる中、音楽がやみベアトリクスは優雅に一礼した。


「すごいです、ベアトリクス様! とっても素敵でした!」


 フローラが大きな拍手をして無邪気な声を上げた。続いて他の皆からも拍手が起こる。


「素晴らしい。基本がしっかりと押さえられていて、基礎練習を普段から怠ることなく積み重ねてきたことがよくわかる歌でした」


 あのデュッケ夫人がこんな風に言うのはとても珍しい。

 基本辛口な彼女がここまで素直に褒めるなんて、ベアトリクスはやっぱり相当な実力者のようだ。


「次はどなたになさいますか?」


 デュッケ夫人が問いかけるも、教室はシンとして誰も返事をしない。

 ベアトリクスの完璧な歌の後では尻込みしてしまう気持ちはわかる。


「では、わたくしが。曲は『砂漠の夢』でもよろしいでしょうか」


 微妙な空気の中進み出たのはアガーテだ。

 アガーテの問いに楽器隊の方々が首を縦に振ったのを見て、彼女は眼鏡をはずしてぴっちりとまとめていた髪を解いた。

 ウェーブがかった豊かな黒髪がふわりと舞い、アガーテの雰囲気がガラリと変わる。

 髪型が変わっただけなのに、とてもセクシーでなんだか直視するのをためらってしまうような妖艶な魅力が彼女にはあった。


 先ほどの春らしい穏やかな音楽とは打って変わってエキゾチックな旋律の演奏が始まる。

 アガーテが第一声を発した瞬間、その場にいた全員が息を飲んだ。

 こんな歌声は、今まで聞いたことがない。人間の体から、こんなにも伸びやかで響く音が出るものなのか。


 声の響きもさることながら、その表現力もとんでもなく、彼女の切ない感情が心にダイレクトに響いてくるようだった。

 ここは学園の教室のはずなのに、彼女のバックには広大な夜の砂漠が広がっているような感覚に陥った。


 楽器の旋律と共に、全身で歌うように手振りもつけて歌うアガーテ。彼女の指の先まで音を纏っているようで、動くたびに空気が張り詰めるような緊張感を帯びていく。

 その表情は妖艶さと切なさを兼ね備え、その奥には狂気まではらんでいるようで目が離せない。


 音楽が速くなる。

 曲はクライマックスに向かって盛り上がっていき、アガーテの歌声が波のようにうねりながら広がっていく。

 初めて聞く曲のはずなのに、どこか懐かしく、彼女の歌が私の心を掴んで離さない。

 まるで夢と現実の境がほどけていくようで、なんとも不思議な心地だった。


 やがて、絞り出すように歌い上げられた最後の一音の余韻も静まり、静寂が訪れる。


 演奏は終わったが、誰もが固まり口を開くものがいない。

 それほど、彼女の歌は圧倒的だった。

 ベアトリクスだって上手だったのに、アガーテの歌はちょっと次元が違う。

 ベアトリクスはとても練習を頑張ったんだな、と思える出来だったが、アガーテの場合は努力の延長線上にいるとは到底思えないような、凡人との間の厚い壁を感じた。

 領地の魔法剣技大会で初めてレオンの戦いを見た時の感覚に近い。圧倒的な才能でバコーンと殴られた気分だ。


 これは……

 チラリと横目でベアトリクスを伺うと、彼女は悔しそうに唇を噛んでいた。


「アガーテ様、素晴らしい歌でした。『砂漠の夢』は砂漠の民の事を歌った曲かと存じますが、造詣がおありですの?」


「ありがとうございます。実は、私の母が砂漠の民の踊り子なのです。踊り子と聞くと下に見る方も中にはいらっしゃいますが、わたくしは母を誇りに思っておりますし、砂漠の民の音楽が、とても好きなのです」


 そう言ってアガーテは照れたように笑った。

 演技前の真面目そうな雰囲気とも、演技中の妖艶な雰囲気とも違う、無垢な少女のような笑みに思わず見とれてしまった。


「では次。どちらが先に発表なさいますか?」


 残る二人、クラウディアとフローラを見ると二人とも顔を青くして微かに震えている。

 そりゃそうだ。あんな凄いものを見せられた後なんて、誰がやってももはや公開処刑である。


「わ、わたしは、今日はちょっと体調が良くないので、け、見学させてください……」


 震える声でフローラがそう言った。


「わかりました。クラウディア様はいかがなさいますか?」


「わ、わたくしは……」


 水を向けられたクラウディアは困った顔をして一度俯いた後、ぐっと顔を上げた。


「や、やります。わたくしではお耳汚しになってしまうかもしれませんが、どうすれば良くなるのかご意見を頂きたく思います」


「……本日は審査の場ではなく、現時点での皆様方の実力を知るためにやっているのです。ひとりひとり実力は違って当たり前、現時点からどのように努力をし、どこを伸ばせば神の乙女に近づけるのか、その道筋を照らしてさしあげることがわたくしの役目です。努力をするのは皆様方ですが、見込みがないと決めつけて見放すようなことはいたしません。気負わず今の実力をさらけ出してくださいませ」


「は、はい! よろしくお願いいたします!」


 そうしてぎこちなく歌い始めたクラウディアは先の二人に比べるとやはり粗が目立ったが、彼女は決して下を向くことなく最後まで歌い切った。

 その後は四季の宴の共通パートを皆で教えてもらい、フローラだけ隅で見学という形で合同練習一回目が幕を閉じた。




 寮に戻り部屋で一息つくと、クラウディアに声を掛ける。


「寮の代表とはいえ同じ学生ですもの、まさかあれほどまでの実力の方がいらっしゃるだなんて思っておりませんでした。クラウディア、大丈夫ですか? 負担が大きいようなら別の候補を立てることも考えましょうか」


 練習中クラウディアは最後まで前を向き続けていたが、圧倒的な才能を見せつけられたのだ。内心ではやる気を失っていないかと心配していたのだが、返ってきたのは意外な答えだった。


「いいえ、やらせてくださいませ。確かにアガーテ様の歌には圧倒されましたが、今はあれほどまでにすばらしい実力をお持ちの方と一緒に練習ができるなんて、一体わたくしはどれほど成長できるのかと楽しみで仕方がないのです。これまで歌に関してはよく考えずに授業を受けてまいりましたが、これほどまでに奥深いものだとは本日のデュッケ夫人の授業で初めて知りました。わたくし、やります」


 クラウディアは胸の前で手を組み、目をキラキラさせている。

 ……この反応には見覚えがある。

 学園魔法剣技大会の時に、レオンに負けた時のクリストフの反応にそっくりだ。

 可憐な美少女であるクラウディアの顔には「オラ、わくわくすっぞ!」とでかでかと書かれている。

 敵が強いほど燃え上がる戦闘民族ヴァルツレーベンの血は、クラウディアにもしっかり流れていたようである。


「そ、そうですか。そう言っていただけるととても心強いです。わたくしもしっかりサポートいたしますから、気になることがあればなんでも言ってくださいね」


 いつになく高揚した様子のクラウディアの圧に押し負けそうになりながら、私はそう答えた。




こう見えてクラウディアもしっかりヴァルツレーベン。

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