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異世界FIRE~平民の幼女に転生したので経済的自立を目指します!~  作者: 青月スウ
第六章 オーディション編

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100. 見覚えのある目

なんと100話まで続きました!

ここまで読んで下さりありがとうございます!

「いやあ、神の乙女候補の方々は皆様毎年美しいが、特にキュッテル伯爵令嬢の美しさは格別ですな。貴女のようにお美しい方を私は初めて見ましたぞ。これはきっと神もお喜びになるに違いありません」


「まぁ、お上手ですこと。ですが、わたくしの容姿を神に気に入っていただけたら、これまで磨いてきた甲斐があるというものですわ」 


 それはどうだろう。ハーリアルは人間の容姿の美醜に関しては無頓着というか、そもそもあまり良く分かっていないような気がする。

 会食中、表面上は皆にこやかに会話をしているが、教皇はあからさまにベアトリクスを持ち上げ贔屓するような態度を見せ、彼ら以外の笑顔が若干ひきつっている。

 神の乙女の最終決定権を持つ教皇がこの様子では……ちょっとまずいかもしれない。出来レースの匂いがプンプンする。


 教皇はこれ見よがしにベアトリクスを褒め讃えた後、にやりと他の候補者を下卑た笑みで見下していた。

 ……ああいった目は前世で見た覚えがある。

 私は手で合図をして、控えていたクリストフを側に呼び、他の人に聞こえないように小声で指示を出した。


「もしも、この後教皇がクラウディアに近づいてこようとしたら、クリストフが間に入って守ってください」


「えっ? 教皇はベアトリクス嬢をお気に召しているようですが、彼女ではなくクラウディアを、ですか?」


「少し嫌な予感がするのです。貴女の妹を守ってあげて下さい。できれば他の候補者のことも」


「リリアンナ様……。よくわかりませんが、かしこまりました」


 困惑しながらも了承したクリストフが元いた位置に戻り、やりとりが聞こえていなかったクラウディアが首を傾げている。

 私の取り越し苦労ならいい。ただ、“選ぶ立場”になった人間というのは大なり小なり傲慢になるものだ。


 前世で私の勤めていた会社が協賛した関係で、仕事で舞台演劇に関わったことがあった。

 その時に会った舞台演出家の男が今の教皇と同じような目をしていたのだ。

 全公演を終えた後の打ち上げに私も参加させてもらったのだが、その演出家がベテラン女優さんを手放しで褒めた後に、それに比べて、と若手女優さんに対して公開説教のようなものを始めて場の空気を凍らせていた。

 あそこは良くなかったねー、お前は悪くないんだけどなんか物足りないんだよね、今回の役はお前にはまだ早いかと思ったんだけど、成長を期待して抜擢してんだからもうちょっとがんばってほしかったなー等々。

 私は演技に関しては門外漢で専門的な良し悪しはわからないが、その女優さんは素人目から見たらとても美人さんで演技も素敵だったのに、皆の前でそのように言われてかわいそうに涙目になっていた。

 その演出家はそうやって散々けなした後、その女優さんにお酌をさせてベタベタと過剰なボディタッチをしていた。自分がこれからも仕事をあげて育ててやるから自分に従え的な事を匂わせながら。

 あまりにも酷かったので、仕事関係でお話を聞きたいとか適当なことを言って女優さんを演出家から引き剥がして別のテーブルに連れ出すと、我慢していたのが決壊したのか彼女は泣き出してしまった。

 話を聞くと、その演出家は普段からその女優さんを夜中におじさんばかりの飲み会に呼び出してお酌をさせたりして、断ると今後使わないぞと脅しのようなことを言って従わせているとのことだった。

 そんな奴からは離れた方がいいと思ったのだが、その子自身はもっと演技がうまくなりたいし、その界隈ではそこそこ成功しているその演出家についていけば舞台の仕事を振ってもらえるので我慢するしかないと言っていて、本人がそのつもりでいる以上他人がどうこう言うことはできなかった。


 その時舞台界隈の闇を垣間見たような気がしたが、今回の神の乙女選定式は全く同じではないが状況に似た部分があるようにも思える。

 神の乙女という栄誉ある立場を欲して四人の美少女が競い合い、それを決めるのはこの狸おやじという状況がとても危ういもののように感じた。


 表面上は和やかな会食が終わり、解散の時になった。

 教皇が扉の前に立ち、候補者一人ずつにそれぞれ言葉をかけている。

 心配していたが、今日はこのまま大きな問題なく終わりそうでほっとした。私の杞憂であればそれでいいのだ。

 三人の候補者が挨拶を終えて退室し、残るはクラウディアのみだ。

 教皇は先ほどの嫌な笑みとは打って変わって友好的な様子でクラウディアに声を掛けた。


「本日はお越しいただきありがとうございました、クラウディア嬢。選定会本番も楽しみにしております」


「こちらこそお招きいただきありがとうございました。皆様にお聞かせして恥ずかしくない歌が歌えるよう、精進いたします」


「うむ。……それにしても惜しいですな。クラウディア嬢も十分お美しいのに、同じ候補者にベアトリクス嬢のような方がいては、せっかくの貴女の輝きも霞んでしまうというもの。私はこれでも長年神の乙女の選定に関わっておりますから、助言できることもあるかもしれません。そこでどうでしょう、よろしければ後日個人的に二人で……」


 そう言って教皇はクラウディアの腰の辺りに手を伸ばしかけ、その瞬間、二人の間にクリストフがスッと割り込んだ。


「なっ、なんだね君は!? 無礼であろう!」


「失礼。少々妹との距離が近いように感じましたので」


「い、妹!? 君はクラウディア嬢の兄なのかね?」


「ええ。妹は箱入りでして、教皇様のような大人の男性に免疫がないのです。どうか適切な距離で接していただきますようお願いいたします」


 クリストフは口調は丁寧だが、いつものキラキラした笑顔を消し厳しい表情で教皇を睨みつけている。

 教皇の方は突然護衛騎士見習いに割って入られ怒りで顔を赤くしている。

 クラウディアがクリストフを手で遮り前に進み出た。


「お兄様、わたくしは大丈夫です。教皇様、ご無礼をお許しください。兄は心配性なのです。先ほどの貴重なご提案には痛み入りますが、教皇様が一人の候補者に肩入れするようなことがあれば不満を抱く方もいらっしゃいましょう。教皇様のそのお気持ちだけで十分です。わたくしのことを心配して下さったのですよね?」


「そ、そうだ。私はクラウディア嬢のことを心配してだね……」


「わたくしのことをご心配くださりありがとうございます。確かにわたくしは他の候補者の皆様方に比べればまだまだ力が足りないかと存じますが、皆様に少しでも追いつけるよう努力いたしますので、教皇様にはどうか公平な目で見守っていただけますと幸いです」


「あ、ああ……」

 

 クラウディアの可憐なのだがどこか有無を言わせぬ圧のある笑みに教皇がタジタジになっている。

 すごい、まるでお茶会の時のお養母様のようだ。

 可憐で大人しそうな見た目から舐めてかかったのだろうが、社交に関してはクラウディアはお養母様の愛弟子である。見た目で舐めてくる相手をあしらうのはお手の物だし、クリストフの突発的な行動にもうまく合わせて丸く収めてくれて、これぞ高位貴族令嬢といった感じだ。

 教皇が引いている間に軽く挨拶をして部屋を辞した。

 帰りの馬車に乗り込むと、クラウディアが困惑気味に口を開いた。


「お兄様、先ほどは一体どうされたのです? いつものお兄様らしくないので驚きました。教皇様が突然触れてこようとなさったので助かりましたが……」


「私も実はよくわかっていないのだ。ただリリアンナ様に、もし教皇がクラウディアに近づこうとすることがあれば間に入ってほしい、と言われて……」


「え……?」


「リリアンナ様、教皇に何かあるのですか?」


 側近達が驚いた様子で私を見てくる。


「何かある、と言うほどのことではないのです。ただ、会食中のあの方の様子を見て少し不安に思ったので、念の為クリストフに用心するように頼んだだけで」


「リリアンナ様……」


 クラウディアが感動したようにキラキラした目をしている。こういう時の彼女は本当にクリストフそっくりだ。

 感心した様子の他の側近たちとは違い、難しい顔をしたカインが口を開いた。


「実際に教皇はクラウディアに不躾に触れてこようとし、個人的に二人で会う約束を取り付けようとしたわけですから、リリアンナ様の懸念は当たっていたということになります。うまくあしらうことはできましたが、今回の事でクラウディアが神の乙女に選ばれるのはかなり難しくなったのではありませんか?」


「そんな……。リリアンナ様、申し訳ございません。わたくしがうまく立ちまわれなかったせいで……」


「いいえ。クラウディアのせいではありません。教皇はベアトリクス様を贔屓する様子を見せていましたから、彼女を神の乙女に選ぶことは元から決まっている可能性があります。権力者の間で何か密約があったのかもしれません」


 カインの言葉にクラウディアが顔を青くしているが、現状でどんな対応をしたところで正直大きな違いはなかったと思う。


「そんな……。それではクラウディアが何をしたところで無駄ではありませんか!」


 クリストフの言う通り、このままいけばベアトリクスが神の乙女になってしまう。

 何とかしなければ。でも、どうやって……?



記念すべき第100話がこんな内容になってしまったので、後日100話記念SSをアップする予定です。

お楽しみに~!

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