プロローグ
プロローグ
異世界転生が身近になった今、旅行会社がそこに目をつけるのは、もはや必然であったかも知れない。
「お客様、そちらのプランをご利用でしたら、お得なオプションもありますよ!」
派手な赤いハッピを着た30代くらいの男性店員は、そう言って端末の画像を切り替えた。
トロピカルな柄の水着を着た女の子のキャラクターが、プールサイドで笑顔を見せている。
”アナザーワールドツアーズ社”は、最近急成長を遂げた旅行会社だ。
もはや、文化の一分野とも言える異世界転生を、フルダイブ型ゲーム端末を利用して、利用者に体験させるサービスは、従来のレジャーの概念を超えたともいわれている。
その五感を刺激する圧倒的な臨場感は、利用料金の高額さを物ともせず全世代に受けており、利用者数はうなぎ上りだ。
かく言うおれも、どはまりしており、週末旅行には、もう何回も行っている。ちなみに料金は、一泊二日で5万円~。サラリーマンの身分にはきつい出費である。
鈴木は、端末を見ながら、うーんと唸る。
今年の夏休みは、曜日の関係もあり、1週間の長期休暇だ。ボーナスも出たことだし、財布には余裕がある。6泊7日のロングプラン・プレミアム・オプション付48万円も、痛い出費だが不可能ではない。
「………ここだけの話ですが、通常プランではできない特別アクションも、オプションでお付けできるんです………」
店員は、カウンターから身を乗り出すと、声をひそめて鈴木にそう話しかけた。
「特別アクション?」
「……そうです。通常は、キャラクターに接触しようとしても、特定箇所はガードがかかっていて接触できませんでしょ?」
店員は手をワキワキとさせた。
「まさか…!」
「そこから先は、お客様でご確認ください」
店員はニヤリと笑うと、カウンターに引っ込む。
数分後、鈴木は、夏を全力で楽しもう!と決意した。