【番外編③】地の女神
――――ああ、素晴らしきかな。
目の前には黒いドレスを纏った美しい美女がいる。
「やはりあなたは俺の想像通りの御方だ。ルーア」
「ふふふ。私の年齢は世界と同じなのに?リードよ」
「関係ない。あなたは美しいマダムだ」
「おいこら他神の母親ナンパしてんじゃねえぞ」
しかしそこに現れたのはいつもよりだいぶ口の悪いじゃじゃ馬娘である。
「ナンパじゃないぞ、マキナ。これは握手会だ」
ルーアの手をそっと握る。
「この私にもそこまで情熱的な愛を向けるとは。やはりそなたは面白い」
「お褒めいただき光栄の極み」
「……ほんと、何でこんな人妻熟女マニアになってんのよ。アンタの父親もだけど」
「親父なあ。まあ、それは偶然と言うか?てかさ、それを聞きたかったんだ」
特例でマキナに頼んで会わせてもらったのはそこだ。
「ブレイクが勇者になれたのは感謝してる」
レッドは今度こそ勇者に転生したのだ。
「勇者ジョブ与えたの、私だけどね」
「彼に与えられるように計らったのは私だがね」
母ちゃんってすげぇ。
「親父は……違ったな」
「彼に相応しいと思ったのだ」
「まあね。私も迷ったのよ。けど……」
マキナは一呼吸置くと再び口を開く。
「加護を与えすぎたくなかった」
それが前回の失敗。
「自らの鍛練で強くなって欲しかったのよ」
だからこそマキナは女神の加護対象ジョブから外した。結果自力で3つのスキルを得たんだもんな。
「その通りになったってわけか。けど……魂の救済は」
「もちろん必要であった。アレは壊れすぎた」
ルーアが神妙な面持ちで頷く。
「だからリリアナに預けていたんだよ」
だからこちらの世界にずっと……。
「母ちゃんは知っていたんだな」
「ああ。彼女も当事者のひとり。ロイドの魂が誰に転生したかまでは教えてないがな」
「それは……」
さすがに母親に知られたら照れるから教えないでくれて良かったと切に思う。知っているのはかつての妻……いや今もロイドの妻であるジェーンだけ。むしろ見抜かれてしまったが。
「しかし剣聖は……勇者ではないにしろロイドのように国や種族問わず愛されるヒーローになったではないか」
「ええ」
その願いは悠久の時を超えて、無事に果たされたのである。
「私はロイドが怒っているのではないかと思っていた」
「どうして?」
「スイは……最期にはロイドが必死で救った命を絶つことで戦いを終わらせた」
「俺はもうロイドではないので……でも、ロイドは」
分かることならひとつだけある。
「せっかく結ばれたのだから、そろそろ永劫的にくっつけって喝を食らわすかな」
大切なのは過去じゃない。今だから。
「今をどう生き抜くか、正しくあれるか、自分の信念を突き通せるか。ロイドの根底にあったのはその強い信念だ。だからスイを責めたりなんてしない」
あれはスイなりの強い信念の答えだ。
「その答えは決して褒められたものじゃない。けれどロイドもまたスイを守りきれなかった」
アリアに無理をさせてしまった。リリアナを傷付けてしまった。ジェーンを……ひとりで待たせてしまった。
「だから『お前はお前なりの信念を通したんだ』と頭をなでてやりはすれど怒ることはない。褒めることもない」
もちろん今生の身体ではできない。これは魂的な話である。
「だから俺は俺の信念を。親父と母ちゃんはそろそろ身を固めろってね」
ただそれだけは言うだろう。
「ぷ……っ、ふふ。それはそうだな」
「それに関しては私も全面的に賛成よ」
女神たちとのお茶会が華やかな笑顔に包まれたのだった。
そしてその数日後……親父と母ちゃんから復縁したと一報が入ってから、2人はもう何年も離縁はしていないらしい。




