【番外編①】ロイドの生きた証
――――記録の遡及を試みる。
その日、異世界から召喚されし勇者スイ・ツチイはこの世界の勇者ロイド・ノームと出会った。
「あの、あなたは」
女神が作りしインテリジェンス。GIの解析技術がスイに言語解析を可能にする。このデータはこの先の召喚者たちの言語理解に大きく貢献することになろう。
「ロイド・ノーム」
そう、彼がこの世界の勇者ロイド・ノーム。今の主によく似ているが時代が表情の違いを表している。
「その……この先に始まりの村があると……聞いたんですが」
女神マキナが用意した初心者勇者用の探索地。
「始まり……?この先にあるのはドンサ村だ」
「なら、多分そこが目的地で……でもその、分からなくて」
いくら知識を与えようともいきなり異世界だなどとすんなり受け入れられる方が稀だ。
「俺、違う世界から……来たので」
「……召喚者か」
「そうです!」
「まあいい、ついてきな」
「はい……!ロイドさん!」
「……そういや、お前は」
「土井……いや、翠。スイです」
「そうか、スイ」
スイはロイドと出会いドンサ村を訪れ聖女アリアと出会う。
「妹だよ」
「よ、よろしくお願いします!」
始まりの村……ドンサ村でスイはロイドに剣の手解きを受け、聖女アリアや村人たちに見守られながら基礎を身に付けた。
「スイ、俺は近々アリアと共に旅立つ」
「どこへ……ですか?」
「世界のどこへでも。元々ここへは里帰りで訪れただけだ。俺にはやらないといけないことがある」
「それは……」
スイが息を飲む。しかし私は知っている。ロイドは……。
「俺は……勇者だから」
「……ロイドさんも勇者だったんですか!?その、魔族と戦うんですか?」
「バカを言え。何故勇者だからと魔族と戦う」
「俺の世界では……空想の話ですけどそう言うものでした。この世界では違うんですか?」
「違う」
そう……その時代の敵は魔族ではなかった。
「お前は魔族と戦う気か」
「戦いたくは……ないです。魔物との戦いは、まだ少し抵抗があります」
「なら俺が勇者として旅立つ。お前は村で待っていろ」
ロイドは召喚される勇者のために勇者を育て、見極めるためにここで待っていた。しかしスイは……。
「い、嫌です!」
「……」
それはロイドにとっても私の計算からしてみても意外な回答でした。
「俺も行きます!俺は……ロイドさんからたくさんのことを学びたいんです」
種族を問わず愛された勇者には召喚者であったスイもまた魅了されていたのでしょう。
「過酷な旅だ。一番の敵は魔物じゃない。悪意だ」
「……悪意?」
「この世界は……ドンサ村の外では魔女狩りが行われている」
そんな状況であってもスイのためを思いロイドはここに戻ってきた。
「……魔女狩り」
「罪もない人間が、魔族が、エルフが……スキルを理由に魔女と決め付けられ殺されていく世界だ。他者が羨むスキルを持つ。たったそれだけの理由でだ。そう言う世界なんだ。お前には、世界を見る覚悟があるか?」
スイに迷いはなかった。スイはこの世界でロイドに出会い、育てられたのだから。
2人の勇者が出会い、聖女と共に旅立った。
3人の先にはひとりの魔族の女性がいた。
「待たせたな、ジェーン」
「いいえ。行きましょう、ロイド」
スイはジェーンの姿に意外そうでしたが私から見ても2人はただの旅の仲間ではないと分かります。
「それと旅立ちの前に、手、合わせてかねえとな」
ロイドとスイが出会ったあの場所にはひとつの墓石が立っている。
「ここは……」
「レッドの墓だ。正義感が誰より強くて……勇敢で……村のちびどもを魔物から守って死んじまった。俺がもう少し駆け付けるのが早ければ。アイツが勇者だったなら……」
それはロイドが唯一見せた『弱さ』だった。
「それでも俺は、勇者のロイドさんに出会えて……幸せです」
「スイ」
「だからそんな顔、しないでください。俺、絶対にロイドさんのような強い勇者になりますから」
「ああ……ありがとな」
レッドの墓前に手を合わせ、彼らは厳しい旅路を歩む。
魔女たちを解放し、魔女狩りを推し進めるものたちと対立した。その中で彼らはリリアナと言う名の魔女と運命の出会いを果たした。
「リリアナは魅了のスキルを持っているんだな」
「そうよ。でも私は……誰も魅了なんてしたくない」
「大丈夫だよ。俺は無効化スキル持ちだし、ロイドさんもアリアさんもジェーンさんも強いから」
「そうみたいね。こんなに居心地のいい場所は世界で初めてだわ」
しかしながらその旅は思わぬ方向へと向かう。無効化能力者であるスイははその稀有な能力ゆえに欲深いものに囚われ戦争の道具にされ、無効化能力を魅了解除に使われたのだ。リリアナが魔女たちを逃がすためにかけた力が無効化されていったことで魔女狩りは激化し世界が戦火に包まれた。
「嫌だ……もう嫌だ……俺はロイドさんのような勇者になりたいと誓ったのに」
「ならついてこい!諦めるな!」
無効化能力者を取り合う戦火の中、ロイドがスイの手を引っ張っている。
「この先にアリアとリリアナ……ジェーンがいる。お前は合流しろ。そして逃げろ」
「ロイドさんは!?」
「ここで食い止めなきゃ、この先のアイツらも危ない」
2人に迫るのはたった2人では抑えきれないほどの軍勢だ。
「どうして……俺が捕まったせいで……」
「勇者だからだろ!」
「……っ」
「なら、よく見ていろ!勇者の生きざまを!生き延びて見届けろ!俺のような勇者になるんなら手本を見せてやらないでどうする!」
スイは涙ぐみながら走った。
たったひとり背水の陣で立ち向かう勇者の雄叫びがこだまするなか、リリアナたちの元へと辿り着いた。
「早く!もうすぐ援軍が来る!合流するわよ!」
「でもリリアナ!ロイドさんが……」
「だったら……兄さんの意思を無駄にしないで!」
「そうよ、私だっていつも覚悟している。だからこそロイドが切り開いた命の道を、生きるのよ」
「アリアさん……ジェーンさん……」
彼女らに手を引かれ、スイが走った先から軍勢が押し寄せる。
「よく頑張った」
「ロイドがひとり戦ってるんだ」
「行くぞ!」
ロイドに賛同する多くのものたちは種族も国籍も様々だったが、それがロイドの生きた証の全てだった。
ごうごうと、世界が燃える。戦火は止まず、ロイドは還らなかった。多くのものたちが戦火に消えていく。
「ロイドさん……ロイドさん、ごめんなさい」
スイは勇者として戦場に立った。
「ロイドさんみたいな勇者になれなくて、ごめんなさい」
聖剣を抜き、そして構える。
「でも俺は……ロイドさんが守ってきたこの世界を……これ以上壊したくないんだ!」
血飛沫が舞うのを誰も止められなかった。聖女もリリアナも後方の陣営にいた。ジェーンも味方も思ってもみなかった。
――――こうして、火種は自らを消し去ることで戦火を鎮火したのだ。多くのものたちの悲しみと共に、ロイドの世界を守るために。
『……バカなことを』
鎮火した大地、敵陣の奥にそれはあった。
『敗陣営が利用しないとも限らない』
息をしないはずの骸が聖剣を手に起き上がる。
「身体は主だから許してくださるのですか」
聖剣は何も答えない。
「あなたも……還りたいのですね」
骸はゆっくりと歩き出す。
火種の消失で混乱する戦場を避け、ひとり、還る場所へ。
「送り届けましたからね」
骸はジェーンやアリアとリリアナのもとに辿り着いた。ジェーンは崩れ落ちながら涙を流した。ジェーンが抱き止めた途端動きを止め、私は……大罪を纏い冥界の女神の元へと落とされていきました。
――――次に目覚めたのはリード・ノームと言う、どこか懐かしい魂の中でした。




