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【83】鍛練の先に



――――ルグーベから魔王都に向かう日が間近になったある日のことだった。


「リード。お願いがあるんだ」

「どうした?ブレイク」

やけに真剣な顔だが。

「剣の稽古をつけてほしい」

「……」


「リードがそう言うの嫌がること、分かってる。でもさ、俺、まだまだ実力が足りてないって思うことが多いんだ」

「どうしてだ?」

「旅団の用心棒さんたちって強いだろ?実戦経験も俺みたいな魔物の単独討伐とか稽古じゃない。歴戦の猛者と言うか、仲間がどんな風に立ち回るかも分かってる」


「それはお前だって分かってるだろ?」

「……ルークさんや他の用心棒たちが教えてくれたけど……でもまだ掴めてない。剣同士ならともかく、槍とか棍棒とか短剣とか」

「なるほど……ダガーなら」

この前ダンジョンで使ったやつだな。


「今回だけだ」

「ああ!」

ブレイクが嬉しそうに笑う。

そういや昔から……そうだったな。


「リーチの違いに注意しないと持ってかれるぞ。ほら」

ダガーを器用に使い剣を弾き飛ばす。

「わっと……っ」

「今のもう一回組んでみ?」

「うん」

ブレイクが剣を構え直す。


「こうやってダガーを動かされて固定されたら距離を取るか弾かれない角度に変えるんだ。無理に抜け出そうとしたら相手の思う壺だ」

ブレイクの手を上から握り動きを覚えさせる。


「さて、やってみろ」

「うん」

ブレイクは順調にダガーの攻撃を回避する。


「上手いぞ、ブレイク」

「ああ。コツが掴めてきた」

「ダガーはこんな感じだな」

「他には何かできる?」

「ええー……」

一通りはできると思うが……剣相手の立ち回りを見た方が勉強になるだろうか。


「槍も見てみるか?俺が剣をやるから」

「うん」

さて……そうと決まれば近くに槍使いは……。


「おや、稽古ですか?感心ですね!」

「ユルヤナさん!?」

そういやこのひとも……ダメ元でお願いしてみるか。


「……てなわけでブレイクに見せてやりたいんですが」

「うーん、リードくん相手でしたら構いませんが……模擬剣だと折れるので魔族向けの真剣でやりましょうか」

いや、どういう意味!?俺は仕方がなく旅団の魔族のメンツに常備剣を借りた。


「うーん……さすがは魔族向け」

重いが素材がしっかりしている。ブレイクの聖剣にも使われている魔鋼がふんだんに使われてるんだな。


「さあて……久々にぶっ飛ばすぞ!」

※ユルヤナさんのセリフです。

いや、でもぶっ飛ばすのはちょっと……てかこの人ほんと槍持つと性格変わるんだから!


「うらあぁぁっ!」

「……っ」

一撃一撃が重いし速い!こりゃぁ模擬剣じゃ折れるわな。

むしろ人間用でもキッツ!

カンカンなんて生ぬるい。受けきれない攻撃は地面に受けてもらい、形勢が振りにならないよう受けられるものは受け、流せるものは流す!


ズドンズドンと衝撃波が駆け巡り、地面に穴が空いても後回し!


「ここだ!」

「ほう?」

ふ……防がれた。


「今俺の槍を弾き飛ばそうとしたか」

いや一人称変わってますって!


「そうなんですけど……一応ブレイクに弾く業を見せてやりたいんですが」

「リーチが違うから難しいぞ」

「それでも何があるか分かりませんので」

「なら……そこ!貫かれたくなけりゃぁどいときなぁっ!」

ユルヤナさんの言葉にいつの間にか集まっていたギャラリーがサッと道を空ける。

つまりあっちに弾き飛ばせと。こんな重い槍を……無茶言うな!?


「おらあぁぁぁっ!!」

気合い一丁プロの技!

ズゴンと弾けば空いたスペースに槍がドゴンと突き刺さりクレーターを作る。

やべぇ……あんな槍はぶっ飛ばすもんじゃねぇ。


周囲から拍手が溢れる中、怒号が飛んできた。


「ゴラアァァッ!!緊急時でもないのに何で槍ぶん回してんだぁっ!ユルヤナぁっ!」

「わぁ、ランディに見付かっちゃいました~~」

槍から手を放したからか、ユルヤナさんがいつものユルヤナさんに戻った。


「ランベルトさん、すみません。ブレイクに手本を見せてやってたんです」

「いや、それならと言いたいところだが……お前ユルヤナとやったのか」

何かめちゃくちゃ驚愕されてるんだが。まああの槍さばきだからな……。これは『あれ?俺また何かやっちゃいました?』とか言ったらただのアホと思われる!

商人はナメられたらおしまいっ!却下!


「えー……ずるいずるいおにーたんもーっ!」

しかし兄ちゃんを連れてきてしまったランベルトさんが……折れた。


「ブレイクに斧戦も見せてやるか……」

「はあ……もう止めんが、安全確保はユルヤナがやるように」

「はーい!」

相変わらずのへらへら感で安心安全を覚える俺もどうなんだ。


「剣は交代!」

さすがにあの槍の後じゃぁ魔族のアニキたちが笑うしかない。


「まあ鍛冶屋に回すから」

どうやら商業ギルドと提携している工業ギルドに練習用として提供されるらしい。あっちには鍛冶屋もいる。けれどそれで商売をするには商業ギルドの力もいるから仲がいいのだ。


「けど2本か?ブレイクは一刀流じゃねえの?」

ルークさんが予備を2本出してくれた。

「何時なんどき、何が起こるか分からないからいいの。俺も久々だから肩慣らししないと。兄ちゃん、手斧からスタート」

「オッケー、リードきゅん」

手斧を両手に構えた兄ちゃんとカンカンと軽く撃ち合う。


「次はミドルアックスだよリードきゅん」

次の瞬間手品のように斧が変化する。

一瞬のうちにマジックボックスの在庫と入れ替えたのだ。


「はいよっと」


「次、両刃」

マジかよ!?なにげにスピードアップしてるし!


「よっしゃぁっ両刃斧!」

いつもの長い柄の両刃斧一柄。剣の1本が華麗に弾かれる。


「ノリノリじゃねぇかっ!」

斧の嫌う距離を取ろうとするも華麗に有利な距離に持っていかれる!

「リードきゅんラアァァァァヴッ」

「ブラコンはほどほどにいいいぃっ!」

ナメんなこちとら……いや。兄ちゃんの弟だかんな。


ガコン


弾き飛ばすのではない。斧刃を剣とブーツを使って地面と共に押さえ付ける。


「お見事」

ニカリと笑う兄ちゃん。

「それでも兄ちゃんなら抵抗しそうだけど」

「魔法いれる」

「無理無理!俺の魔力は100均用なの!」

周囲から拍手と喝采が溢れ、ブレイクもコーデリアたちと「ブラボー!」と叫んでくれる。

どうやらいい手本になれたか?


「そうだ、100均……ステンレス鋼やプラ・スティックでおもちゃのミニチュア冒険者武器チャーム作ろう」

「もう商売のこと考えてる?リードきゅん」

両刃斧をマジックボックスの中にしまった兄ちゃんにミニ両刃斧チャームを手渡す。


『壊しそうなのでステンレス鋼で生成完了です』

「ナイス、ウェイド。じゃぁ子どもやインテリア向けならプラ・スティックにしようか」

ステンレス鋼とプラ・スティックで幾つか生成すれば用心棒メンツだけではなく何故か非戦闘勢にも人気が出た。本物は持てなくてもチャームならやっぱりカッコいいもんはいいものな。

たまの鍛練も……商品企画案には悪くはないのかもな。



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