【81】リードきゅんドール
――――兄ちゃんを生け贄の子羊として捧げたお陰で、俺たちは無事に隠れ里の長の屋敷に招かれた。そこには何人ものマダ……魔女たちが集まり、兄ちゃん目当てで若い魔女もちらほら見受けられる。
「おや、ユリアンじゃないか」
兄ちゃんを知っているらしきマダムたち。
「魔王四天王なんでしょ?顔だけはイケメンねえ」
それは魔族の常識なのか、若い魔女が微笑む。
「何年ぶりかい?」
「ほら、前にリリアナが連れてきた時だから」
「12かそこらかい?」
まさかの8年ぶり!?
「そうだ。前来た時に作るって言ってた『リードキュンドール』はどうなったのかい?まだ作ってるのかできたのか……気になってたんだよ」
「いやー……その……それは」
兄ちゃんがここまでたじたじなのも珍しい。やはり魔女に育てられたからだろうか?
しかしながら今、聞き逃せない単語があったんだが。
「に~い~ちゃぁ~んっ」
肩ガシイィンッ。
「俺ドールって何」
「あひんっ」
変な声出すんじゃありませんっ!
「実はここを訪れた理由のひとつでな」
「ランベルトさん?」
「ここの魔女たちの技術にマギドールと言うものがある」
「魔法の人形ってこと?」
「魔法で動く魔道人形さ」
そう言うと魔女さんたちが魔女の格好をしたかわいらしい10~12歳ほどの女の子たちを連れてきてくれる。
「この子たちだよ」
「へえ、すごいですね。人間みたいだ。あ、角があるから魔族みたいだ」
『こんにちは、魔女の子』
「しゃべった!?」
すごい技術だ。それにしても……彼女たちにも俺が魔女の子だと分かるのか?
『ふむ……まるでGIのような自動学習機能が備わっているようで、個々の性格形成にも影響しているようですね。発声機器も私のと似ています』
「じゃぁ……AIってこと?」
『ふむ……リードの記憶から導き出すにそう形容するのが正しいかと』
くまちゃんでも俺の記憶にアクセスできるのか。
「すごいねぇ、この子」
「私たちのドールみたいだ」
「リリアナの教えかい?」
「いえ、母ちゃんは関わってなくて……」
会ったことは……ま、あるだろうし知ってるかもだが。
「このくまちゃん……GIさんはドールの中身の……多分元となっている存在かと」
『確かに。GIは女神の領域。似たものを魔神が授けていたとしても不思議ではありませんね』
「おや、そこまで。私たちの古史でも魔神の故事にヒントを得たってのがあるよ」
「マジでそうだったんですね」
女神は女神でも魂が還る先。その女神が産み出したGI、それに興味を持った魔神の故事。繋がった物語の結晶がマギドール。とても興味深いな。
「ランベルトさん、もしかしてマギドールをGIさんの身体に?」
「どうかと思ってな」
その言葉に魔女長も頷く。
「魔女の子であれば我々も喜んで協力いたしましょう」
母ちゃんさまさまだな。今度また100均コスメ贈っておこう。
「マギドールの核……GI殿がえーあい、と呼ぶものですか。こちらはマギドールの心臓……マギハートと呼んでいます。こちらを入れる前の人形でしたら。制作途中のものもあるはず」
魔女長の言葉に魔女たちが頷く。
『因みにロリでしょうか?私はどちらかと言えばショタがいいです』
GIさん、言い方。その言い方は誤解招くから!
「うーん。私たちが作る子はロリっ子が多いからね」
魔女さんたちも合わせてくれてる!
『ロリっ子って何ですか?』
『それはですね』
「GIさんダメ!ロリっ子にロリとかショタの定義を覚えさせないで!」
全く……おんなじインテリジェンス同士仲がいいのか波長が合うのか。
「でもショタっ子ならユリアンが作っていたね」
そう言えば兄ちゃん、さっき……。
「俺ドールって何」
「それはその……お兄ちゃん、リードきゅん不足で……つい。でもマギハートは入れてない!だって……リードきゅんそのものにはできないもの」
「まあそれは褒めてやるけど」
むしろマギハートまで入れていたらどんなお仕置きをしてやろうか。
「なあ、そのマギドールをGIさんに使わせてやってよ」
「ええっ、おにーたんのリードきゅんドールにリードきゅん以外を入れるの!?」
「無許可で作ったんだよな?」
「ひうんっ」
「マギドールを提供するならチャラにしてやる」
「うう……」
「勝手に俺のショタドール作ってキモいって……言わないでやるぞ」
「あああぁぁっ!!」
はい、兄ちゃん陥落ぅっ!
そして兄ちゃんがマジックボックスから取り出したのはまさに10~12歳くらいの俺……リードきゅんドール。
「裸やないかいっ!」
「いやその……マギハートを入れる行程でやめたから……」
「だからって服着せろぉっ!」
女の子の服を着せるわけにはいかないので、俺の半袖短パンを着せてやるが、やっぱりでかいな。
「戻ったらコーデリアに作ってもらおう」
『ええ、楽しみです』
くまちゃんを抱っこしながらGIさんがうなずく。
「声は俺のイメージ?」
『大体この年齢時の声を分析してみました』
「ふうん?気にしたことなかったけど、何だかそうかも」
顔がショタ俺だから何だか変な感じはするが。
「弟みたいだ」
なでなで。
『私の方が年上ですよ?』
「そう言えばそうだった」
クスクスと苦笑する。
「でもせっかく実体も持てたわけだし、いつまでもGIさんってのはな」
『私はGIですよ?』
「個々の名前だよ。ブレイクもくまちゃんに名前つけてるだろ?」
『ふむ、でも今まではそのようなものはなかったので……付けてくださるのですか?』
「もちろん。せっかくだから弟みたいだし似た名前にしようかな」
そう言うと兄ちゃんから抗議が来そうだが……兄ちゃんは母ちゃん命名、俺は親父の命名なんだよな。
俺の方は先祖のロイドからもらってるものだ。だからGIさんも……。
「ウェイドってのは?」
『ウェイドですね。その名を登録しましょう』
心なしかGIさんも嬉しそうだ。
頭なでなで~~っと、和んでばかりじゃいけないな。
「あの、そう言えば商談もあるのでは?」
「そうだったな、リード」
「おや、不躾だねえ」
「悪い話じゃないさ、きっと君も気に入るはずだ。オードリー」
何たってジェーンもドはまり中だからな!
「……いつの間に魔女長の名前知ったんだ」
ランベルトさんの呆れ声が聴こえた気がしたんだが……何か昔母ちゃんが言ってた気がしたから。




