【8】だってお前は、大切な幼馴染みだから
――――勇者の近所の幼馴染み枠として重要なテンプレイベントを知ってるか?それはな……。
「ブレイク、お前全然マリッサに顔見せてないんだろ?出立する前に少し顔見せてけよ」
いや、ゲートがあるならいつでも会えるかもしれないが……こうして幼馴染みを気遣うこともモブの大切な役目である。
「でも……親父がいたら……」
「何言ってんだブレイク、俺がいるんだから大丈夫だ」
こうして幼馴染みを勇気付けることも立派な務め。
「マリッサも寂しがってたぞ」
「そっか……母さんが」
「うん、それにローサもコーデリアに会いたがってた」
「そうだな……定期的に絵はがきは出しているんだが」
そう。コーデリアは律儀にローサへ手製の絵はがきを出している。
それに加えて男の子ってーのはんもぅっ!!
「……しかしリードが相変わらず私たちの母親を呼び捨てにして呼んでることはいいのか?今さらか?」
「リードだからね」
そんなに褒めるな2人とも。照れるではないか。
「あと褒めてないぞ、リード」
何で俺の心の中分かったの?コーデリア。でもそんなこと言うなんて……さてはツンデレだな!?
昔から知っている近所の妹枠ならば、そんなツンデレも許せちゃうと言うもの。
「そ……それじゃぁ久々に……」
ブレイクがゲートを繋げば、そこはドンサ村のブレイクの家の近く。そこにマリッサとローサが待っていた。
「母さん……どうして」
「お母さん」
ブレイクとコーデリアが驚いている。
「昨日リードくんから通信もらって、待ってたのよ」
「サプライズ成功ね。マリッサも伝えたいことがあるって言ってたし、ちょうど良かった」
ふっふっふ……昨夜秘密裏に2人に連絡しておいて良かった!
「それはいいんだが……相変わらず通信も自由自在にやってやがるな」
とコーデリア。うん?通信が自由自在なのは世界の都合だぞ?
「まぁまぁコーデリア。俺たちも久々に母さんたちに会えたんだし」
「……それもそうか。けどマリッサおばさん、さっきブレイクに伝えたいことがあるってお母さんが……」
「あぁ、それそれ!」
マリッサが思い出したように答える。
「ブレイク、あなたの部屋なんだけど」
「……うん?何かあった?出発前に鍵つけといたんだけど」
ブレイクもお年頃……と言うか中のもののために鍵をかけていた。12で旅立った勇者、自宅の部屋に鍵をかけて出掛けることを忘れない。
しかし掃除できなければマリッサが困るだろうから鍵はマリッサに預けとけと俺が言っておいたのだっけ。
「実はお父さんがね……あなたの部屋の鍵を無理矢理破壊して中に入ったようなの」
「……は?」
ブレイクが驚愕する。あの鍵は十中八九ブレイクの親父さん対策だ。
「私は入っちゃダメって言い付けておいたのに」
そう、マリッサはブレイクのためにブレイクの部屋の秘密を守るとてもいい母さんだ。
それに反して親父さんは……。それ、思春期の息子にやったら絶対キレられるやつぅーっ!
「その上、勇者ブレイクにはふさわしくないって……中のくまちゃん、全部燃やしちゃったのよ……」
「え……?は……?くまちゃん……?」
「私たちにとってブレイクは勇者の前にひとりの息子よ?全くあのひとは」
マリッサは本当にいい母ちゃんだな。しかしながら問題は……。
真正のいいやつブレイク初のマジギレ事件かとも思ったのだが……更なる追い討ちにブレイクは膝から崩れ落ちた。そして……。
「イヤアァァァァァァ――――――っ!!!」
まるで大切なパーティーメンバーを失ったかのように絶叫した。
いや……ブレイクは大切なくまちゃんコレクションを失ったわけだが。
しかし……仕方がないな。俺もこのサプライズを主催した一員、そしてブレイクの幼馴染みなのだから。
「なぁローサ、ブレイクのくまちゃんコレクションの大半はコーデリアの手製だからさ」
辺鄙なドンサ村じゃぁくまちゃんの入手ルートも限られる。そこでコーデリアが得意のクラフトを活かしくまちゃんを作成してはブレイクにあげていたのだ。コーデリアもクラフトできて楽しそうだったしな。だからこそ。
「トーマスおじさんにチクっといてよ」
これこそが最強の一手。トーマスおじさんとはコーデリアの父……つまりはローサの夫氏である。さらに娘溺愛体質のトーマスおじさんは幼き日にコーデリアがローサと一緒に初めて作ったくまちゃんをプレゼントされ今も大切に室内に飾っている。それくらい娘大好き聖女じゃなかったら一生箱入り娘にしたがるトーマスおじさんが、娘お手製のブレイクのくまちゃんコレクションを燃やされたとあれば……怒らないはずがない。
「分かったわ。私からトーマスに言っておくわね」
ローサが快諾してくれる。よし、これでブレイクの仇はとったが……。
「くまちゃん……くまちゃんんんんっ」
ううー……ブレイクの発狂ぶりが凄まじい。