【75】聖剣が選んだ勇者
――――side:ブレイク
突如かかった声に振り向いた一堂。
「ジャンさん!」
ルークが現れた男の名を叫ぶ。その魔族の彼はダークレッドの髪に銀色の瞳、銀色の角。ガチムチマッチョで半裸であった。
「別に。俺、リードきゅんしか興味ないし」
「はぁ……全く」
ジャンは溜め息をつきブレイクに向き合う。
「おい、ドンサ村の勇者ブレイク。堂々と魔の山にかちこんできたあん時の勇者はどこへいった」
「……ジャンさん」
ブレイクはかつて魔の山で邂逅した四天王に向き直る。
「……この聖剣はかつてリードの先祖……勇者ロイド・ノームのものでした」
かつて聖剣に刻まれていた名は勇者ロイド・ノーム。
「いつの時かその名は次の俺の名になっていたけれど」
「それなら聖剣はお前を選んだのに、お前は聖剣を他のやつにやるのか?」
「それは……っ」
「ダンジョンでのことは聞いた。俺も勇者ロイドの残した伝説は聞いている。リンピダス……あれを倒せたならリードってガキは確かにロイドの子孫だが……聖剣は主以外が聖剣を握ったことで代わりに呪いをかけた。それでもソイツはお前のために戦ったんだろ」
「……っ」
「勇者ロイドは魔族と戦った勇者じゃない。時には魔族のために、人間のために、魔女たちのために戦った。自分が信じるものたちのためにな。お前もそうだろう?」
「……俺も自分が信じるものたちのために……」
リードはかつての勇者同士の対決でブレイクを生身でも守ろうとした。今回のダンジョンでも呪いを受けながらもみんなを守った。
「俺はずっと憧れてきた。魔族も人間も、種族だって関係ない。自分が守りたいひとたちのために戦いたいって」
だから慣例通り勇者として旅立ち、苦しい修行にも耐えた。
「そんな勇者だからこそ、聖剣には魔王の剣と同じ魔の山の魔鋼が使われているんだ。そしてそれは魔族と人間の戦いに使われることはなかった」
「この……聖剣が」
「他にそんな聖剣はなかなかないぞ。そんな聖剣に選ばれるにあたいする資格をお前もちゃんと持ってるだろ?なら自信を持て」
「ジャンさん……っ」
思えばブレイクは自信をなくしていたのだ。いや、違う。その昔、一度見ただけでジェイドの剣技を完璧に再現してみせたリードを見て、ブレイクは自信をなくしてしまった。その日以来リードは剣の稽古をしなくなった。ずっと自分のためだと思っていた。親友であり幼馴染みの自分のために剣を握らないのだと。
「そう……ですね。リードは俺のために剣を握らないんじゃなくて、俺のためになら剣も持ってくれるやつです」
ブレイクは幼き頃からの迷いを払拭するようにいつもの笑顔を見せる。
「ふうん、どうやら元の元気が戻ったようだな!」
「じゃなきゃリードきゅんの見てない隙に殺すから」
物騒なことを言うユリアンをルークがペシャリとはたく。そんな様子にブレイクが苦笑する。
「さて……そろそろ幼馴染みの見舞いに行かないと」
ブレイクの言葉にコーデリアやルークたちも頷く。早速一堂が向かえば病室にリードの姿はない。
「リード、どこへ行ったんだ?」
「あっちからリードきゅん臭がする……!でもリードきゅんの寝てたシーツくんかくんかしたい!」
「バカ。いいから案内しろ!病人なんだから」
ジャンに襟首を掴まれユリアンは渋々一堂を案内したところで、一堂の目が点になった。
「……ダメよ、リードくん。私はもう歳だし」
「年齢なんて関係ないだろ?ジェーン」
リードは神殿のテラスにジェーンと呼ばれた魔族の初老の女性と腰掛け手を握りつつ、熱のこもった視線を向けていた。
「大巫女さまに何しとんじゃあぁぁ―――― !!」
ジャンが激昂した。




