【74】魔神神殿
――――まさかこれで訪れることになるとは。ここは魔の山。魔の山にある魔神神殿だ。
「リードきゅんついたよーっ!」
「サンキュ、兄ちゃん」
俺は兄ちゃんにお姫さまだっこされていた。だって全身筋肉痛で動けないし。
「ベッドについたらおろして」
一応神殿なのでランベルトさんが許可を取ってくれた。俺は両手に呪いを受けてしまったので許可自体は下りたんだが。
「おにーたん、リードきゅんのベッドするぅ」
何言ってんだこの兄は。
「ランディにチクりますよ?」
「……ぴえん、やりますおろしますぅ」
保護者としてついてきてくれたユルヤナさんの言葉にまたも撃沈した。因みに他のキャリテ班のみんなも一緒。本当はルークさんが抱っこして連れてきてくれるはずが、どうしてか兄ちゃんがやって来て抱っこすると言い張った。この兄は監視でもしてんのか、あながちNoと言えないところもミソである。
「それではリードさんはこちらに」
「ほーい」
魔神神官が案内してくれたベッドに兄ちゃんが寝かせてくれる。
「リード、筋肉痛だけでも治そうか?」
とコーデリア。
「いいよ、コーデリアに呪いの影響が出たら困るだろ?」
因みにふわわにも影響が出たら困るので今はコーデリアの腕の中で心配そうにしてくれている。
「すまん……私がまだ呪いの浄化ができないから」
「する機会もなかなかないだろ?」
こんな強烈な呪い、コーデリアには浄化させらんねえしな。
「では準備ができたら神官が参りますので、付き添いのみなさまは外の待合所でお待ちください」
「はい、ありがとうございます」
神官ユルヤナさんが礼を言う。さて……俺も少し休むかな。この呪い、地味に痛いんだよ。
兄ちゃんはぐずってたけど、ユルヤナさんに襟首を掴まれて退室する。やっぱりあのひと最強かも。
「その、リード」
ブレイクが恐る恐る口を開く。
「しっかり治してもらうから、いいこで待ってろよ」
「……リードったら」
「下手な考えは捨てろっつったろ?」
「うん、ごめん……」
ブレイクはコーデリアに促され、とぼとぼと病室を出ていく。
俺が剣を握っていくつもりはないことくらい、ブレイクも知っているはずなのに。
悶々と、幼馴染みのことを考える。やがて呪いの治療のため魔神神官がやって来る。現れた女性は……。
「……ジェーン」
「お久しぶりね。久しぶりと言うには……長い時間が流れすぎたけど」
にこりと微笑む彼女は魔族の中でも特に高齢であることが顕著だった。
※※※
――――side:ブレイク
待合所で待っていたブレイクたちのもとに報せが来る。
「ユルヤナさん、リードは……」
「今治療を終えたそうで、眠っていますよ」
病室に戻ればリードがすやすやと眠っており、両手に呪いの痕はない。
「……」
「どうしたんだよ、ブレイク」
ダンジョンを脱出してからブレイクが元気ないことに、ルークが心配そうに問いかける。
「……その」
ブレイクはためらいがちに口を開く。
「リードは本当は剣が上手いんだ。俺以上に上手くてさ……ジェイドさんの教えてくれた型も一度見ただけで完璧に再現した」
「アイツがね……普段を見てれば身のこなしは優れているように見えたな。ユリアン、お前も知っていたのか」
ルークがユリアンを見やる。
「リードきゅんのことなら何でも知ってるけど?教えるかどうかは別問題だけど」
「……お前なあ」
ルークが嘆息する。
「……ユリアンさん。俺は本当ならリードが聖剣の主になった方が、良かったんじゃないかっていつも思ってたんです」
ブレイクは答えを求めるようにユリアンを見る。
「さあね、今のリードきゅんは望んでない。それ以上の答えある?」
「……それは、そうですけど」
ユリアンはツンと視線を反らしてしまう。
「おいコラ、ユリアン!お前は気の利いたことのひとつも言わんのか。相変わらず興味のないものに関心がない」
その時野太い声が響きユリアン以外の一堂が視線を向ける。




