表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/87

【68】ガーバルフ旅行記・前



――――よし、今日はキャリテで購入したガーバルフ旅行記を読もう。ルーロンダンジョン都市の名物……シナモンロールをお供に……いざ!


俺はページをめくる。


※※※


私の名前はクラリッサ。グドトッホ公国で生まれ育った魔女である。

私の祖母も母も、魔女であることを隠しながらひっそりと生きてきた。

しかし外国のガーバルフ王国では魔女は隠れることなく堂々と魔女の街を掲げながら暮らせるらしい。私はこの目で一度ガーバルフ王国を見てみたいと思った。


――――(中略)


私は成人を迎え、魔女としての巡業の旅に出ることになった。とは言え魔王国は魔族の土地であり、魔女を迫害することはないが堂々とさらけ出す風潮ではない。

この時代堂々と旅を出きるのはガーバルフ王国くらいだろう。そうでもなければ、物珍しい魔女を誘拐し魔女の知識を奪おうとするものすらいる。

元々巡業は住みかを追われた魔女たちの宛のない旅。いつか来るその時のために旅のノウハウを鍛えるのが目的だ。私はルーロンダンジョン都市を抜け、ガーバルフ王国の魔女の街キャリテにやって来た。


――――(中略)


キャリテの街の魔女協会に赴けば、まず堂々と魔女協会の看板を掲げていることに驚く。旅は安全のために一般の旅装だったが、母からの紹介状を見せれば快く歓迎してくれて滞在中の宿を用意してくれた。


私は彼女たちにキャリテの魔女について聞くことができた。彼女たちも普段は魔女装をせず街娘や街のご夫人の装いだが、ガーバルフ東部の魔女の街ツナードでは魔女の装いが多いのだとか。

それについては専科が関係しているらしい。キャリテの魔女たちは魔女の薬学など文系、ツナードの魔女たちは魔法や武術系らしい。いや……魔女装が武闘派だなんて初耳だ。少なくとも私の一族は魔女装を代々受け継ぐものの武術は護身術程度である。


さらにキャリテに滞在した後も旅の魔女だと伝え商業ギルドの宿泊施設を頼れば安全だとキャリテの魔女たちに教えてもらえた。キャリテの魔女協会から紹介状をもらうことができ、これがあれば問題なく身分の証明になるらしい。


それも商業ギルドと魔女たちは密接な関係で、商品を卸したり素材を仕入れたりと付き合いが多いからなのだそうだ。グドトッホの魔女のように隠れず堂々と商いをできるのもガーバルフならではなのだろう。


――――(中略)


私が立ちよった日はガーバルフでの祭の時期らしい。

みなビール片手にガーバルフの国民食だと言うフルバーガーを持ち街中で魔女集会をしていたのだ。こんな堂々と街中で魔女集会ができるなんて……ガーバルフはすごすぎる。

しかも魔女は女性が多いものの男性も稀にいると言うが……集会に参加しているのは男性も多い。キャリテは普段着の魔女が多いとは言うがあんなラフな格好で集会を……。実際の魔女集会などグドトッホではなかなかできないから実際に見たことはない。これが本場の魔女集会なのだろうか……。どこか引っ掛かるがそうなのだろうか。


――――(中略)


キャリテでの滞在を終え、私はキャリテの魔女たちに見送られながら東部に旅立った。


道中魔女であることを名乗るのにドキドキしたものの、商業ギルドにキャリテの魔女協会の紹介状を見せると快く宿泊所を提供してくれた。


こうして私はガーバルフの人々に親切にしてもらいながら、無事にツナードまで辿り着いた。ツナードの魔女について訊ねれば、みな驚いた表情をしており、あまり聞いてはいけないのかもと思った。しかしながらツナードの魔女を訪ねに来た私の話を聞いて現れたのは魔女の格好をした魔族の女の子だった。


「私はリリアナ。言っておくけどあなたよりもうんと年上なのよ」

魔族は寿命が長く、成人すれば成長が緩やかになると言う。実際にガーバルフで魔族を見かけたことはあってもこうして話すのは初めてだ。


「その子魔女でしょ?私がツナードのママさんバレーに連れていってあげるわ」

「あ、姉さんがそうしてくれんなら、もちろん」

リリアナさんは魔族だけれどここでも顔が知られているのね。ツナードは魔王国と国境を接しているからか街中にも魔族が多い。リリアナさんがここいらに詳しくても不思議ではないのだ。……それにしてもリリアナさんは初代魔女結社の長と同じ種族と名前。何だか親しみを持てるような……。


そうしてリリアナさんに案内されたママさんバレーにいたのは魔女装備のムキムキな魔女たちだった。


彼女たちはこのツナードでは名の知れた戦士のようだ。人間も魔族も構わず仲が良さそうで、みなフレンドリーだ。

……もしかしたら私のようにひょろい少女が彼女たちのような戦士を訪ねに来たと聞いて驚いたのだろうか?

ツナードではフルバーガーのほかにもあげドーナツをご馳走になった。胸焼けしそうになったがリリアナさんが胃腸ヒールポーションを調合してくれて助かった。

それからツナードの魔女たちは私に魔法や護身術のレクチャーをしてくれた。何か困ったことがあれば冒険者ギルドを通して連絡をしてとも言ってくれてありがたい。

私はガーバルフにてたくさんの魔女たちや親切な人々と出会えた。とても印象的な巡業の旅だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ