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【65】バーガー狂



――――騒動が落ち着き、ルーロンダンジョン都市のキャンプ地は賑やかなものだ。

少女たちは問診やカウンセリングを受けつつ、家族が迎えにこられる場合は冒険者ギルドで保護し、こちらから送り届ける場合は冒険者たちがその任を担ってくれるそうだ。


こちらでの騒動をアンナさんに通信で伝えれば、ミノルが刑に服したことには無事に立ち直ってほしいと切に願っているようだった。


『リードくん……改めて、ありがとう』

「いや、俺の方こそ、アンナさんのくれた情報は役立ったよ。今度またふわわとお土産持ってくるよ」

『うん、楽しみにしてる』

お膝の上のふわわと手を振りながらアンナさんとの通信を終える。そう言えば……俺は覚えていなかったけど、アンナさんは召喚者のはずだから女神のマキナとも会っているんだよな……?ミノルは最初気が付いていないようだったから姿は多少違うのかもしれないが……もしかしたらアンナさんなら気付いていたんじゃないかとも……思うのだ。


「おにーたん?」

「ごめん、ごめん。ふわわ。ぼーっとしてたな」

「だっこ!」

「もちろんだよ」

兄ちゃんはとっととダークドラグーンのところに返したらダークドラグーンから感謝されてしまった。母ちゃんは父さんと冒険者ギルドの仕事は手伝っているはずだ。離婚したくせにまだまだ仲がいいのは、痴話喧嘩するたびに復縁とか離婚とか繰り返しているからだ。俺と兄ちゃんは成人するまでそれぞれの親元で育ったものの、たまに復縁したが仕事を終えて帰る直前でまた離婚したとか言ってくるからな。あの親……。俺たちも成人したし、いい加減大人になってずっとくっつけばいいのになぁ。


それから班のみんなはそれぞれ自由に過ごしているが、旅団のみんなはダンジョン探索、周辺の採集などに向かっている。キャンプ地にも人員はある程度残ってはいる。

俺とふわわはユルヤナさん、ルークさんとブレイク、コーデリアとダンジョン都市の街に出掛けた。


「どこか行きたいところでもあるか?」

「ご当地バーガーはどうだ!」

ルークさんの言葉にコーデリアが告げる。


「お前ら本当に好きだなぁ」

「ガーバルフ国民の血はバーガーでできてますからね」

とブレイク。

「お前らがいっつも飲んでるジュースはどこいったよ」

野菜ジュースやフルーツジュース?そこ……考えてなかったな。


バーガー屋に向かえばその途中でミレイユさんとモニカさんを見掛けた。

近付くと向こうも気が付いたのか手招きしてくれた。ミレイユさんに武器を向けたことを酷く後悔していたモニカさんは落ち込んでいるようだった。今も気晴らしに街へ出たようだが気分は晴れないようだ。


「元気出してください!俺も父さんとはよく喧嘩しますから!」

その喧嘩とは違うと思うが、ブレイクは相変わらず前向きなヒーローって感じだよなあ。


「そうですよ。私もよくしましたしー」

ええ、ユルヤナさんも!?


「……でも……あなたはまだミレイユさんが隣にいますから。辛いことや苦しいことは吐き出せばいいんです。ミレイユさんもだてに修羅場をくぐってきた訳じゃありません。我慢することはないですよ」

ユルヤナさん……。あれ?そう言えばあの時はミレイユさんのことを呼び捨てで呼んでなかったか……?


「ありがとうございます。その、ユルヤナさん」

「いえ。それはそうとバーガー食べませんか?」

「え?」

モニカさんがぽかんとし、ミレイユさんがぷっと吹き出す。


「相変わらず、そこは変わらないな。執念と言うか、何と言うか」

「私もガーバルフ国民ですから」

ユルヤナさんがのほほんと微笑む。あの時一瞬見せた歴戦の戦士のような気迫は微塵もない。


全員分のバーガーを購入し、席につこうと思った時だった。すぐ側から軽快な歌が響く。


「あ……あれはっ!」

コーデリアとブレイク、ユルヤナさんもうんと頷けば、俺たちは駆け出した。


「ちょ……お前たちっ」

「ミレイユさん、諦めろ。アイツらは……ガーバルフ国民だ」

「そうだったな、ルーク」

そして俺たちは輪になって踊る集団に加わった。


『ガーッバルッフのー血はフルバーガーッ!!ヘイッ!』

やっぱりフルバーガーはこうじゃなくちゃな!ふわわも俺の腕の中で可愛く歌ってくれて和むなぁ~~。

『ガーッバルッフのー血はフルバーガーッ!!ヘイッ!』

(『ガーバルフ伝統の音頭』作詞・作曲:不眠でテンションがおかしい深夜の作者)


目一杯踊ればガーバルフのフルバーガーで乾杯し、俺たちはテーブルに戻ってきた。


「ダンジョン都市の特製だれジンギスカンバーガーうまそ~」

「やはり踊った後のダブル肉バーガーは最高だね!」

ブレイクも笑顔で頷く。


「ぷっ」

あれ……?ずっと暗い顔をしていたモニカさんが笑っている……?


「ふふふっ。何か……昔の楽しかったこと、思い出しちゃって……」

「そうだな……これからも、楽しい思い出をたくさん作ればいい」

ミレイユさんがモニカさんの髪を優しく撫でる。辛い記憶なんて塗り替えすくらいに……か。


モニカさんにもバーガーやポテトを勧め、ダンジョン都市のあらごしスムージーを楽しみながら、ふとミレイユさんが口を開く。


「こちらもだいぶ落ち着いたし……私はモニカやエルフの子らを連れてサンツ・ワロクに帰国することにするよ」

サンツ・ワロク……エルフの国だ。

「あそこは排他的な国だ。出入国処理も大変だが……現地民の私がいた方がスムーズに行くだろうから」

「そうですね……最初からそのために誘ったのでしたし」

そう言えばミレイユさんはモニカさんを取り戻すために商業ギルドに出向したのだ。しかし割り当てられた班がキャリテ班だったのはそもそもユルヤナさんが誘ったから……?


「なぁ、ユルヤナ。リードたちがキャリテ班に入ったのも偶然だろうか」

え……?


「どうでしょうねぇ。ただ……」

ユルヤナさんは惚けたようににへらっと笑うとおもむろに俺を見る。

「会ってみたかったと言うのもありますよ。私とリードくんは似てますから」

「……え?」


「リード、お前気付いてないのか?」

と、ブレイク。おいおい、天然ブレイクまで何を……。


「私は片親が魔族ですよ」

「……え、ええええぇっ!!?」


「ほとんどは魔族の血の方が濃いので、ルークやユリアンのように魔族の特徴が出るんですよ~~」

クスクスとユルヤナさんが微笑む。


「あと、ユリアンに困ったらユルヤナさんの名前出してみ?逃げるから」

いや、ルークさん。何でそれで兄ちゃんが逃げるんだ……?よく分からないが、和気あいあいと楽しい時間にモニカさんもミレイユさんも笑顔だ。国に戻ってしまうのは少し寂しくなるが、でもそんな2人を見られてホッとしたのも事実である。



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