【63】マキナの贖罪
――――マキナの旅の目的、偶然にも実たちと同じダンジョン都市に滞在していた。俺たちと出会ったその時も、実たちの目指す方向に別ルートで向かっていた。
それは俺たちに情報を届ける目的でもあったのだろうが。
「お前、取られたスキル把握してなかったんじゃねぇの?」
「………………」
だから地上を回って確かめていた。ただ唯一創世神が仕掛けたそのスキルだけは消失していることを知っていたからどうしてか人間の少女の姿を借り調査をしていた。
「その……えと……」
歯切れが悪いな。
「もとはと言えばアンタのせいなんだからね!?」
「いや、何でだよ!俺なんも知らねぇし、ジョブは雑魚だし!スキルは最高だけど!」
「それはその……アンタの言う100均は面白そうだったから……プラスチックの時よりは上手くいくかなって」
そうか……思えばプラスチックをこの世界に取り入れたのもマキナか。
「でも、アンタだって悪いんだからね!?せっかく私好みのフツメンだったから勇者のジョブあげようとしたのに!アンタ私を前に何て言ったと思う!?」
「……え?えぇー……とは言え何も覚えてないし……あー……もしかしてこうか?」
俺が言いそうなこと……言いそうなこと……。マキナを見て感じたことを思い起こせば……それは。
「俺は人妻熟女好きだから……永遠の16歳(未婚)には興味ない……とか?」
「そうよこのバカァッ!何のために永遠の16歳やってたと思ってんのよ!人妻は神だからともかく熟女を求められるなんて予測できるかぁいっ!」
「……で、その腹いせにジョブを雑魚にしたと」
「……そうよ。そして屈辱に苛まれればいいと思って……イケメン幼馴染みに勇者ジョブをやったのよ」
「ブレイクは勇者にむいてるよ。その性格も、資質も、ブレイクは勇者だよ」
「……それは、そう、だったわね。アンタたちは互いに嫉妬もせず、何で仲良しなのよ」
それは……嫌いな剣の稽古はブレイクに押し付けられたし、基本根がいいやつですぐ騙されそうになるから目が離せないし、ブレイクのとこのサイモンおじさんにくまちゃん好きを貶されめそめそするブレイクに……妬けるわけないだろ?
「……それで、納得いかなくて、好みのフツメンを召喚したの。でも……イケメン顔にしてくれって言われて……一気に萎えて……面倒くさくなって……よそ見してた」
「……お前……まずひとを顔で判断すんなよ」
もう少し本人の資質とか考えろって。
「……ごめんなさい」
「もとはと言えばお前の職務怠慢だろ」
「……そうね」
「あと、俺に雑魚ジョブを与えたことに対しては問題になってねえの?」
普通に考えてあり得ねえだろ、ジョブ雑魚とか。
「創世神が……本人が怒ってないなら……処分保留だって……」
「なら、怒るわ」
「そ……そんなぁっ!また始末書おおぉっ!!!」
「知らん、お前が悪い」
「お助けをおおぉっ!何でもするからぁっ!」
マキナが俺にすがり付こうとして、兄ちゃんにガウウと威嚇されてすぐそこに正座する。
「何でもするのか?」
「……う、うん」
「なら、実にお前のチャンスをもう一度与えてやれ」
「……えっ」
「それで俺のジョブを雑魚にしたことはチャラだ」
「神に何でも望める唯一のチャンスなのよ?」
何でもって……不老不死を望んだら冥界送りだろうが。だから何でもじゃない。
「お前が望めないなら俺が望むだけだ」
「……それは」
「本当に見捨てるつもりなら、わざわざ人間の姿で嗅ぎ回らないだろ」
マキナはどこかで実が立ち止まることを望んでいた。だから二度もチャンスを与えたが不意にされ、マキナもこれ以上慈悲を与えられなくなった。
「このまま冥界送りにするのは、実が地上でやらかした罪から逃げることにはならないのか?冥界神」
それは本当の意味で実が罪を償うことになるのか?
『それもそうか……そうだな。女神よ、私はそなたの慈悲の答えを待つ』
地の底から妖艶な声が響く。それと同時に実を拘束する黒い手が消えていく。
「……冥界神。分かったわ……ありがとう」
マキナは実の前に立つ。
「全てのスキルを返しなさい。同時にあなたも勇者のジョブを失い、ミノル・タツタに戻るでしょう。いいわね?」
「……か……かえ、します」
怒涛のごとく押し寄せた恐怖と喪失に、実はただただ地に額を付けて啜り泣いていた。この瞬間彼は、ただの竜田実に戻ったのだ。




