【6】勇者とは挫折を経て強くなるものだ
――――勇者とは勇気ある者。それは単に敵と戦うとか魔族と戦うとか、魔王と戦うとかそう言う勇気には限らないと思うんだ。
「ほーら、ブレイク。くまちゃんだぞー」
「はわああぁっ!!くまちゃんっ!!!」
ブレイクはくまちゃんチャームに飛び付き嬉しそうに頬擦りし出す。
世の一般ファンタジーの勇者にこれができるか。公衆の面前で堂々とくまちゃんを愛でられるだろうか。
公衆の面前で堂々とくまちゃんを愛でる。その勇気は一般のその他の勇者には決して真似できないものだと思うのだ。
そう……ブレイクは世のどんな勇者よりも勇者である!
俺は幼馴染みとしてそれを誇りに思う。
「……それが勇者か……しかし勇者でいいのかそれで」
「何言ってんだアーノルド。だからこそのブレイク。これが俺の幼馴染みだぞ」
「あー、はいはい。お前の幼馴染みだもんな。納得いったわ」
アーノルドったら、ブレイクのこんな一面まで理解してくれるだなんて、やっぱりいいやつだな。
そして商店を訪れるマダムやレディたちに100均マグをオススメ。ブレイクのイケメンパワーもあってか大盛況である。
「これが本当に100ゴルゴル?」
「カラーバリエーションも多くてステキだわ」
「えぇ。ですのでついでにおひとついかがでしょうか?」
「ありがとう、買っていくわ」
ほら大盛況!
「どうぞ」
そして袋に入れて差し出すブレイク。何故か率先してお手伝いしてくれるのはくまちゃんのお礼だろうか。
「あらイケメンっ!」
みなそう言って帰っていく。
「イケメンパワーってすげぇ」
「いや、お前のブレないマダム好きもすごいよ」
とコーデリア。
「ははは、あまり褒めるな。ブレイクの功績の方がでかいよ」
近所のお兄ちゃん枠だなんて、近所の妹枠にディスられるのが常だってーのに。コーデリアはイイコだなぁ。
「褒めてるように聴こえるのかお前」
「まぁまぁコーデリア。これでこそリードだから」
そんな従兄妹の謙遜したやり取りにアーノルドがぼそりと呟いた。
「……、……お前らほんと仲いいな」
「だろ?分かる?」
やっぱりアーノルドはいいやつだ。ちょっとツンギレ気質があるだけでなー。
そんな中、どこで噂を聞き付けたのかひとりの男がやってくる。かなりガタイがいいし、鍛えていそうだ。
「勇者ブレイクよ!見付けたぞ!こんなところで商人の真似事とは……勇者ともあろうものが情けない!」
「……し、師匠っ」
男の言葉にブレイクが驚愕する。え、アイツが師匠!?それに所々包帯ギプス、松葉杖……ブレイクったらほんと容赦なしにやったなぁ。しかし他人の大事にしているものに手を出したのだ。多分師匠が悪い。俺は大切な幼馴染みを……守るっ!俺の雑魚ジョブをバカにしなかったこの幼馴染みを……っ!
「貴様は勇者であろうっ!こんなところにいずに修行に戻るのだ!」
師匠がずかずかと入って来ようとして、それを止めたのはアーノルドだった。
「おいおい、何だおっさん。ここは商業ギルドの商店だ。商人をバカにするやつに敷居を跨がせてやる義理はねぇっ!」
アーノルドっ!やっぱりお前は商人の鑑だろうがよおおぉっ!!!
「な、何っ。しかしそこの勇者ブレイクは勇者だ!勇者としての責務がある!」
いや……魔王普通にいいやつそうだし、別にいいんじゃないか?魔王倒さなくても。まぁ魔物は倒さないといけないかもだが、アーノルドのように用心棒を兼ねる手もあるからな。
「……い、嫌だっ!俺は……俺はっ」
ブレイクが立ち上がり、ふるふると拳を震わせる。その腰帯に先程のくまちゃんチャームが揺れ師匠が眉間を険しくする。
「貴様はまたそんなものをっ!そんなものは勇者にふさわしくない!!」
「そんな……俺はっ」
ブレイクは弱っている。己の大切なものを燃やされ、否定され。勇者には挫折がつきものだ。挫折を乗り越えてこそ強くなる。真なる勇者として目覚めるのだ!だけどブレイクひとりでは背負いきれない試練が道を塞いでいるのなら……今こそ。勇者の雑魚ジョブ兼モブ幼馴染みの出番だろぉがっ!!
「おいおっさんいい加減にしろよっ!」
「何だ貴様は!……雑魚モブっぽい」
さすがは歴戦の師匠。この俺の本質を見抜くとは。しかし……しかしだな。
「俺は雑魚ジョブでモブな以前に……ブレイクの幼馴染みなんだよ!」
「……リードっ!」
ブレイクがキラキラした目で俺を見上げてくる。
「だからこそ俺はブレイクが好きなものを全力で応援する!むしろくまちゃんを愛でられないブレイクなんてブレイクじゃない!勇者らしさ?そんなの誰が決めた!ブレイクは……くまちゃん好き勇者だからこそのブレイクなんだ!」
「そんなの……そんなの認めんっ!うおおおおぉっ!」
まずい、包帯男が迫ってくる!全治数ヶ月のくせに動けるとは……さすがは勇者の指南者に選ばれただけのことはある!……が今は俺がピンチだあぁぁっ!!!
「リード!」
咄嗟に俺を庇うように前に出るブレイク。しかしそもそものぶっ飛ばした容疑者はブレイクだがさすがに包帯男に攻撃したくない良心が働いている!このままじゃブレイクが……っ!
――――しかしその時だった。
「店で暴れんなっ!」
あ……アーノルドおおおぉっ!!容赦なく行った!包帯男にも容赦せずに槍を叩き込んだぁっ!?
「ぐっはぁっ」
さすがの包帯男もぶっ倒れる。いや……その……アーノルドさぁん?
「悪いが、俺は用心棒なんでね。店で暴れるやつぁ容赦なく叩き出す」
まさに用心棒の中の用心棒!一瞬サイコかとも思ったが……。
「それに話を聞く限りおっさんの方が悪ぃじゃん」
でーすーよーねー?
しかし怪我人をこのままにしておくわけにもいくまい。
「なぁ、おっさんよ。ブレイクはくまちゃんのためなら火事場の馬鹿力も出せるんだ。それをおっさんは身をもって味わったんじゃないのか?」
文字通り、包帯ぐるぐる巻きになったわけだ。
「それなら……ブレイクがくまちゃんを愛でるのは決して間違ったことじゃない。ブレイクは勇者の前にくまちゃん狂だ。くまちゃん狂あっての勇者ブレイクなんだ」
「……た、確かに……これほどまでの力は……くまちゃん狂ゆえだったのか」
まぁ最後ぶっ飛ばしたのはアーノルドだがな。
「……私は勇者を育てるつもりで……勇者を壊そうとしてしまったと言うことか……」
まぁ先に壊されたのはおっさんの大事なところだろうけど。
「勇者ブレイクよ……すまな……かった」
「……師匠っ。いや、いいんだ。師匠は最期に分かってくれたんだから」
こと切れる師匠、ブレイクは師匠の蛮行を許した。この許す心も、きっと勇者にはなくてはならないものなのだろうな。
「でもまだ生きてるし、和解したんだからさ。コーデリア、治してやって」
「仕方がない。特別だぞ」
そしてコーデリアが瞬く間に師匠の折れたあれこれを修復する。おぉ……やっぱ聖女ってすげぇなぁ。その後師匠はブレイクと硬い握手を交わすと、もう免許皆伝だと言い残し去っていった。ま、ブレイクは明らかに師匠を超越しちゃってたもんなぁ。
しかしながら幼馴染みが無事に勇者としても成長したので、モブ幼馴染みポジの俺としても願ったりかなったりだ。