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【57】魔女の絵本



――――その日、夢を見た。

絵本をめくる母ちゃんの傍らには俺がいて、兄ちゃんは俺をぎゅーしながらうたた寝をうっていた。それは俺がうんと小さい頃の出来事だ。なのに絵本の絵柄や母ちゃんが読み聞かせる声まで届くのなら……これは。


「……」

GIさんか。


【探していると思ったのでね。そうか、これは地球での記憶ではなくこちらでの記憶か】

そうだな。稀に前世でやったゲームに似通った世界なんてネタもあるが、それはこの世界での記憶だ。


ありがとな。何だか懐かしかったよ。


【お役に立てて何よりだ】

うん。


せっかく思い出したのだ。しかしあの絵本……。


「ふぁ~~……あれ、リード。もう起きてたのか?」

「ふ~~わぁ~~」

「ブレイク、ふわわ。おはよう」

「おはよう」

「おはよ!ふわわもおきたよ!」

「ん、えらいえらい」

仕度を調えて朝食へ向かえば、コーデリアと合流して朝食だ。朝食はビュッフェだったのでサンドイッチに野菜ジュースを選んだ。

ガーバルフ国民はバーガーをよく食べるが同時に野菜ジュースやスムージー、フルーツジュースもよく飲む。

バーガーとポテト、ドリンクセットでもコ○ラだと思って頼んで飲んでみたら紫の極み野菜フルーツジュースだった衝撃は今でも忘れまい。因みに今日はにんじんジュースである。

ふわわ用にも小さめのカップににんじんジュースを入れてやり、サンドイッチは小分けのものをもらってきたので、ふわわも美味しそうに食べている。思いの外ギャラリーが多いのはやはりふわわが超かわいいからだろうな。よしよし。


「おいちぃっ!」

『ぎゃふっ』

周囲の歓喜の声が響き渡った。


※※※


朝食が終われば今日は自由行動である。各々素材を探したり、休憩したり。明日の早朝には国境を抜けるから夜は早めに寝なきゃだけどな。


「今日はどこに行こうか」

とコーデリア。


「そうだな……セレーヌさんに聞いたんだけど、キャリテには魔女協会があるらしくて、一般販売用の魔女グッズ売店もあるって行ってたから行ってみようかなって」

魔女結社とは違い、一般にも知られているしむしろ地元にも愛される場所らしい。

「うん、いいかもしれない」

「俺はファンシーなくまちゃんもあるって聞いたから、是非行きたい!」

さすがはブレイクだ。すでにご当地くまちゃん情報を仕入れていたとは。


「なら今日は魔女協会に行こうか」

「ふーわー!」

俺たちリードパーティーは魔女協会へとやって来た。魔女協会は商業ギルドからそんなに離れてもなく、そして魔女手製のレアポーションや手作り菓子を買いに来る地元のひとたちも多い。

ここ、キャリテでは魔女は地元のひとたちにも広く受け入れられていて身近な存在なのだと感じた。


売店に顔を出せば、店員の魔女のひとりが俺たちに気が付いてくれた。


「旅団の子たちでしょう?確かあなたはリリアナさんの……」

そんな魔女の女性に紳士的に微笑みかける。


「ええ。旅団の一員として旅をしているリード・ノームです。しかしあなたは……とてもすてきなマダムだ」

「えっとその……私はクラリッサよ」

「クラリッサ……素敵な名だ」

「……何かしらこのデジャヴ」


「不治の病です」

「軽く聞き流してください」

後ろから幼馴染みたちの容赦のない言葉が飛んできた気がするのだが気のせいだろうか。


「リードおにーたん?何ちてるの?」

ふぐっ。何故か過去一グサッと来たのは何でかな!?


「ええと……その、もし探しているものがあるなら案内するけど」

「……あ、そうでした。俺はその、絵本を。ブレイクはくまちゃんだったな」

「なら私が案内してあげる!」

クラリッサの後ろから現れた少女は彼女によく似ている。


「娘のリディアよ」

「よろしくね!あの、勇者のお兄ちゃんでしょ?あっちのお兄ちゃんの次に話題だよ!」

え……俺?

やっぱりこっちでは母ちゃん繋がりか。王国名誉騎士の息子扱いされるよりはどこか気楽ではあるんだが。


「くまちゃんくまちゃん!私もお気に入りなんだ」

「君もくまちゃんの魅力が分かるのか!」

とたんにブレイクが心を開いていた。リディアちゃんはめちゃくちゃイイコだな。


「コーデリアは何か気になるものはあるか?」

「私も絵本を見たい」

「なら一緒にいこうか」

俺たちはクラリッサに本売場に案内してもらった。


その絵本棚を見ていれば……見付けた。


「懐かしいな」

「……リード、それは?」

「昔母ちゃんに読み聞かせしてもらったんだよ」

王都で父さんが話していた魅了スキル持ちの魔女の話。どうして今まで忘れていたのだろう。しかし2~3才の時の話である。GIさんが深層記憶を辿ってくれなければ確実に思い出せない。しかし魔女たちは絵本と言う形で受け継いでいたのだ。尤もそこには魅了スキルに対する手だてなど……いや、出てくる。確か魔女の恋した青年は……魔女の魅了が聞かなかったのだ。核心に迫ることは禁書であっても、一番大切なことはこうして絵本で伝えてきたんだ。


「どんな話なんだ?」

「……長い時を生きてきたひとりの魔女が青年と恋をして、結ばれて……子どもを授かって家族4人で幸せに暮らす話だ」

前世でもこの世界でもありふれたロマンスものの絵本バージョンである。


「今度ふわわにも読んであげるな。コーデリアも一緒に読むか?」

「うむ、そうする」

「ふわわ、楽しみ!」

「そっか。良かったよ。よしよし」

それじゃぁ今日はこの絵本を購入しようかな。


「その絵本が欲しかったのね。因みに続編もあるのよ!」

「……え、それは初耳です」

「これよ」

クラリッサが紹介してくれたのは、夫と喧嘩をして家を出るものの結局は仲直りして一緒にいる魔女の話。


「まぁ、買います」

何か一瞬誰かさんの顔が思い浮かんでしまった。それにこの絵本の魔女……やけに小さいと言うかデフォルメキャラなのだが、絵本だから……だよな?一抹の不安というか予感を覚えながらも、絵本の読み聞かせはふわわも楽しみにしてくれているので購入っと。


あと、ガーバルフの外の魔女の本も興味があるので何冊か……。『ガーバルフ旅行記』。うん、よさそうだ。著者は……クラリッサ・ホーリーベル。


「きゃ……っ、私の本でいいの!?」

まさかのクラリッサの本んんんっ!

そっか……でも我が推しのひとりとなったクラリッサの自伝……これは読まないと言う選択肢はない!なので購入っ!

その他にもコーデリアがかわいらしい絵本を何冊か選んでくれた。いくつかアンナさんにも贈るらしい。あっちにもかわいい綿花のちひちゃんずがいるもんなぁ。みんな喜びそう。ブレイクもリディアちゃんと共にくまちゃんを選んだらしく、購入していた。


クラリッサとリディアちゃんに礼をいい、ギルドに戻った俺たちは明日に備えて早めに床につくのだった。


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