【53】小休憩
――――納品を終えた俺たちはキャンプ地へと戻る。
「リードきゅうんっ!んっふふっ」
あれ……何故か兄ちゃんが付いてくるんだがどうしようか。
「その、リード」
ブレイクも心配して俺に声をかけてくるのだが。
「おにーたんのリードきゅんに気安く話しかけるなこのクソガキ!おにーたんがリードきゅんと離れ離れの間にリードきゅんとひとつ屋根の下ぁっ!」
王都ではブレイクと2人部屋だったけどふわわもいたし、キャンプでもルークさんやユルヤナさんと同じテントだけど。
「おにーたん」
「ん?どしたのかなぁ~~、ふわわたんっ」
兄ちゃんは綿花大好きだから、ふわわにはでろあまスマイルを浮かべる。
「ぶれいくおにーたんにおこたら、めっ!」
「ぐふぅっ」
そうだなぁ、ふわわ。ふわわの方が兄ちゃんよりもよっぽど大人だわ。
兄ちゃんは大人しくなったが後ろからぐすぐすと鼻をすする音はちょっとやめてほしい。
「ただいま戻……っ」
キャンプ地の入り口にはルークさんとランベルト旅団長がいた。
「ユリアンんんんんんっ!!!」
「あ゛……」
突如ランベルト旅団長がカッと目を見開き兄ちゃんを睨み付けて、兄ちゃんが忘れていたとばかりにピタリと止まる。兄ちゃんのことだ、俺の属する旅団長のことくらい知っている。むしろ……2人の様子を見るにだからこそ俺たちはランベルト旅団長の商隊だったのではとも思えてきた。
「くぅ……っ、リードきゅんにだけ首ったけで旅団長のこと忘れてたっ」
悔しそうな兄ちゃん。相変わらず俺の前では他のものが見えなくなる癖がある。思えば兄ちゃんは魔王国の商業ギルド統括長。ランベルト旅団長は魔族と言うことは魔王国の商業ギルド所属のはずである。
「その……やっぱり知り合い……いや、ですよねー」
兄ちゃんは四天王だし、元々商人であったし。
「まぁな。コイツが見習いの時の指導官が私だ」
まさかの先輩ギルド職員っ!しかも指導していたとは。
「元々お前……私にプラ・スティック商品開発についての報告に来たのではないのか?先に弟に興じるとは何事だ!」
弟って興じるものだったのか?初めて知ったわ。
「だってぇっ!商談とか始まったらお前真面目すぎてリードきゅん休憩とらせてくんないじゃんっ!」
「そんな休憩許可できるわけないだろうがっ!」
うん、是非とも許可しないで欲しい。
「ほら、とっとと行くぞ!」
「あぁんっ!リードきゅううううんっ!」
……どっちが統括長か分からんぞ、おい。
「それはそうとルークさんって氷魔法使えます?」
「ん?使えるが……ユリアンはいいのか?」
「商談も大事でしょ?兄ちゃんたちが大事な話をしてるなら、その時間は大人しくしてますので。俺は好きなことをやります」
「……お前も大変だな」
ま、慣れたと言えば慣れたけど。
※※※
まだまだ夕飯には時間がある。と言うか地球的にはおやつの時間である。
「実はギルドでいいものをもらったので」
そう……生クリームの素である!異世界にごく普通に生クリームが出てくる理由を知ってるか……?それはな、商業ギルドが生クリームの素を販売してくれているからだ。そうでなくては……生クリームをどうやって作ればいいんだ。俺、生クリームの素の作り方、知らないけど。
【さすがにそんな深層記憶もないな】
だろうよ、GIさん……!ある人間がいたらそれは特殊な職業か有名生クリーム製造会社の人だろう。
「これでアイスクリームを作ります」
「……氷のクリーム?よく分からんが面白そうだ」
そんなわけでデザート作りである。コーデリアはふわわと仲良く待っている。ブレイクには生クリームの素を任せた。普段から剣を振っているからだろうか……手首が柔らかい。いや……関係ないかもしれない。
「何を作ってるの?」
「私たちも手伝うわ」
ミーナさんたちも来てくれたので一緒にアイス作りである。
なおレシピはGIさん頼み、牛乳はトレッガ産。冷やす行程はルークさんやルークさんが連れてきてくれた団員たちが担ってくれている。魔族多めだが人間の魔法使いもいる。ミレイユさんは他のエルフたちとアイスにかける果実ソース作りを手伝ってくれた。森で暮らすエルフたちはジャム作りなどにも詳しいようだ。ただし菜食主義と言うわけではなく肉も好きだぞ。
※※※
――――こうして完成したアイス!プラス、スキル100均で作ったアイスすくうスプーン!
【アイスクリームディッシャーね】
嘘……GIさん、俺いつの間にアイスすくうスプーンの名前知ったの?体験の時か……?
「このスプーン便利ね」
「このアイスクリームのレシピ、商業ギルドで販売してみる?スプーンと一緒に売り出しましょうよ」
「エルフの木の実ソースも美味しそう!」
さすがみんな商人!商売の話に自然と花を咲かせている。みんなでアイスクリームを配りおのおの好きな木の実ソースをかけている。
「ん、おいしいな。ほら、ふわわも」
「ふーわーっ!」
コーデリアがふわわにアイスクリームをあーんしてあげている。
『ぎゃーっ、かわいいっ!』
ふわわファンのお姉さんたちがミレイユさんたちと崩れ落ちていた。
「やっぱりリードはいろんなことを知っててすごいなぁ」
「ブレイクこそ」
ガーバルフ王国では勇者として愛されてんじゃん。
「ほら、リードも」
ブレイクが当たり前のようにアイスをよそって俺に寄越してくる。ん?シェア?そっちの木の実ソースもうまそうだな。
「んじゃぁ、いただき……」
「リードきゅんにあーんするのはおにーたんの権利だあぁぁぁっ!!!」
その時兄ちゃんの声がして振り向けば、ランベルト旅団長に首根っこを掴まれながらも暴れる兄ちゃんの姿があった。話は終わったみたいだが……ああ言うのどっかで見たことがある。
……あ、思い出した。父さんと母ちゃんだ。
「ほら、兄ちゃんにもアイスやるから」
アイスをよそって兄ちゃんの元に持っていく。
「ほら、食え」
兄ちゃんにアイスを盛ったスプーンを差し出せば。
「あーむっ」
兄ちゃんは終始上機嫌でアイスをもひもひしており、ユルヤナさんがランベルト旅団長にもアイスを持っていってくれた。
「ほんとお前、弟に弱いな」
ルークさんがカラカラと笑う。
「リードきゅんはおにーたんの至高の存在だ!ルークめリードきゅんとひとつ屋根の下なんてええぇっ」
「何だお前、見習いの頃オバケが恐いって俺のベッドに潜り込んで来ただろ」
「……」
あ、兄ちゃんが大人しくなった。でもな、兄ちゃん。多分オバケも兄ちゃんのヤンデレの方が恐いと思うぞ。
そしてアイスを満喫したところでダークドラグーンから通信が来たので兄ちゃんに仕事に戻れと追い返して置いた。
「……そう言えばリードきゅん」
空間の裂け目から帰る間際、兄ちゃんがふと俺を呼ぶ。
「何?兄ちゃん。早く帰らないとお土産のアイスが溶けるぞ」
ダークドラグーンとアダマンタイン姉さんへの土産である。
「母ちゃんに魅了の解除薬頼んだってほんと?」
いつの間に知ったんだよ。しかしこの兄は弟へのストーキングも日常茶飯事なのでいちいち構ってはいられない。
「そうだけど」
「まさか……おにーたんを卒業しようと……っ」
「俺に使うんじゃねーよ」
あと兄ちゃんの俺への媚薬盛り未遂は母ちゃんによって妨害の末破綻している。そもそも使う必要がないだろ。
「それにそんなことしなくても、兄ちゃんは俺にとっての大事な兄ちゃんだろ?」
「リードきゅん……っ!」
「だからアイスが溶けないうちに……」
「アイシング魔法で冷やしてる」
なら安心だけど。
「ちゃんと仕事してこい。また作ってやるから」
「リードきゅんがゆーならっ!」
兄ちゃんは意気揚々と帰っていった。全く兄ちゃんは。……でも去り際の投げキッスはやめてほしい。
――――因みにその晩母ちゃんとマキナから品物を受け取ったとお礼のメッセージが来た。母ちゃんの方は解除薬ができたら連絡するとのことだった。ミレイユさんの娘さんのためにも、俺も情報を集めなきゃな。




