【51】最後の素材
――――ここは西部キャリテに向かう途中の中継地である。
ここら辺は牧場が多いらしくそこら中に牧場の柵や放牧されている牛を見かける。
各々素材調達や休憩をする中、俺たちキャリテ班は牧場へやって来た。
「そう言えば周り牛だらけですけど、ミルクゴートってどこにいるんでしょうか」
「ごーとしゃんっ!」
わぁ、ふわわが俺の真似してくれてかわいい。みんな今のでとってもなごんだしHPが回復したと思う。
「そこにいますよ」
とユルヤナさん。
「え……?牛ですよね」
「牛ですよ?」
「ゴートって山羊では?」
「角が山羊です」
いや……まぁ変わった形の角の牛だなと思っていたがゴートなのに牛かよっ!カウじゃないんかい!カウって乳牛だったか肉牛だったか覚えてないけど!
「角が牛なのはいないんすか?」
「角が牛……は分からんが、違う角の牛ならエルフの土地の牛だな」
ミレイユさんが教えてくれる。あの……地球っぽい牛はエルフの土地にしかいないの……?そうなの?
「乳搾り体験とかチーズの試食などもできますよ。リードくんたちは角が必要なのでしたっけ……。角は交渉に手こずるかもしれませんが、一応商業ギルド運営の牧場なので協力してくれる可能性は高いかと」
綿花の時もそうだったが、商業ギルドは色々やってるし牧場経営までしている。
「でも交渉って手こずるんですか……?」
「角だからなぁ。色んな素材の材料に使われますが角の生え変わりは年に二度ほどしかないので、提供してもらえるかどうかは運ですね」
少し削らせてもらうだけと取っていたのだが違うのだろうか……?しかしミレイユさんの娘さんのためにも手に入れたいところ。
早速ユルヤナさんたちと牧場主に会いに行く。
「待っていましたよ。ようこそ。牧場主のユリカです」
出迎えてくれたのは……メガネとジャンバスカートがとても似合う……。
「美しい……っ」
何て素敵なマダムなんだ……っ。
「え……っ、その、いきなりその……っ」
「あなたが牧場主……っ。あなたのような素敵なマダムに出会えるなんて!運命としか思えない」
「そ……そうね。ここいらだと男性の経営者が多いから……。珍しいかも」
ちょっと照れるユリカさんもかわいい。こっちの世界って商業ギルドがめちゃくちゃ強いし、女性のギルド長も多い影響か女性陣がめちゃくちゃ活躍しているのは……何かいいよな!こうした素敵な出会いもあるのだ。
「また発作か、リード」
「ほんとお前……」
「まぁ不治の病なので」
後ろからコーデリア、ミレイユさん、ブレイクの声が届く。ふん……これが俺だからな!
「その……ユルヤナ、彼は……」
「定例行事なので気にしないでください」
そしてユリカさんの旦那さんがあちらでユルヤナさんと話している。
「ごく普通に旦那も認識するとか……お前何でマニアックなところに秀でてんの」
とルークさん。
え……?
「何か前にも同じことがあったような……」
「多分息子さんです」
え?父さんもここに来たのか?
「あ……うん、そうか。納得した」
よく分からんがユリカさんが牧場内を案内してくれるそうなので、俺たちは早速乳搾り体験をさせてもらった。
うーん……前世でも体験したことがあるけど、いざもう一度やってみるとなかなかに難しい。
「ふわわ、あまり近寄ったら牛さんが驚くから」
俺やコーデリアたちが乳搾りをしている間はミレイユさんがふわわを抱っこしてくれている。
「ふーわー!」
「モー……」
ん……?ふわわったら牛と何かしゃべっているのか?
「もー……モー!」
その時ミルクゴートがかくんと頷いたように見えたのだが、それと同時にポロンと角が落ちたのだ。
え……?
「角の生え変わり……?時期とは言えずいぶんと急に……」
ユリカさんが驚く。
そして牛が抜け落ちた角を加え、ふわわに差し出しているようだ。
「ふわ~~、ありがとっ」
そしてミレイユさんがふわわに受け取れるように屈んでくれる。
まさかのふわわ、牛と交渉したのか!?
「まさかふわわちゃんが交渉するとは……ユリカさん!」
ユルヤナさんがユリカさんに事情を説明してくれる。
「そうでしたか……素材として角が必要だったのですね。うちの角はキャリテの魔女協会にしか卸していないのですが……前にも同じように受け取りに来られた騎士さまがいらっしゃったのを覚えています。事情は違うとはいえ、父子ですね」
え……父さんが……?うーん……事情は十中八九母ちゃんの媚薬対策だろうが。
「普通はお譲りしていないのですが……しかしふわわちゃんが牛たちに直接頼んで譲ってもらったものです。どうぞお持ちください」
ゆ……ユリカさん!
「ありがとうございます、ユリカさん。せめてお礼にこれを。100均の新アイテムです」
角の単価は分からないのだが、幾つかコスメグッズを生成した。
「まぁ、噂の100均商品!?」
さすがは商業ギルド運営の牧場。情報が西部にまで届いていたか。
「嬉しいわ!早速使って見るわね!」
ユリカさんが喜んでくれる。そしてふわわが角をもちながらとてとてとユリカさんの足元にくれば……。
「おねーたん、ありがと!」
「ぎゃふっ」
ユリカさんも思わず萌えキュンしてしまったのは……自然の摂理といえよう。やっぱりかわいいなぁ、ふわわ。なでなでしてやれば抱っこをせがんできたのでもちろん抱っこしてあげた。
よし、最後の材料も揃ったし、素材をを母ちゃんに送らないとな。




