【49】西部へ
――――さて、舞台はミルクゴートの角を求めて西部へ!俺にとっては初めての西部。早速荷物を積み込む手伝いをしつつ、みな出発しようとしていた時だった。何だか騒がしいな……商人の朝は早いとはいえ賑わいとも違うんだよな。
「聖女コーデリア!」
え……?コーデリアの名を叫んだのは異世界ファンタジー風のヒーラーの格好をした一団である。
「神殿のやつらだ」
とブレイク。やはりアイツらが例のナビゲーターの派遣元か!?
「何事だ」
その時ランベルトさんが来てくれる。
「ま、魔族だと!?」
「それが何だ。ガーバルフは魔族の入国を拒否していない」
魔王も普通にオフ楽しみに来てるもんな。
「彼女は我が旅団の一員だ。旅団長の私が応対するのは当然のこと」
「そんな……聖女コーデリアは神殿のもの!勝手に連れ出すなど認めん!聖女コーデリアを神殿に返すのだ!」
コーデリアを物のように言いやがる、コイツら。しかもブレイクの師匠に追い返されてから放置だったくせに王都に来た途端再び囲い込もうとするなんて。むしろ東部ではブレイクの師匠がいたから口出しできなかったのかな。
「その、これ父さんから預かってるんですが」
ランベルトさんに父さんからの書簡を差し出せば、早速ランベルトさんが中身を確認する。
「ほう……?なるほど。さすがはジェイド・ノーム殿。これを見越して既に手を回していたようだ」
そしてランベルトさんが大神殿の神官たちに書簡の中身を見せ付ける。
【ガーバルフ王国聖女コーデリア・マーレの商業ギルドルグーベ旅団所属を正式に認める。
ガーバルフ王国国王】
え……?国王……?って父さんがものすごいひとに許可もらってたーっ!!
いやしかし父さんの肩書き……肩書きもものすごかった気がする。
「聖女コーデリア・マーレは単なる聖女ではなくガーバルフ王国の聖女だ。国籍がガーバルフ王国にある以上、彼女はガーバルフ国民としての権利が優先されるわけだ」
「そ……そんなっ」
神官たちの顔が青くなる。
「さらに自国の聖女が国外に行く時も籍を置いた国の許可が必要だ」
あれ、じゃぁ魔王国の時は……?いや、そこはそもそも事前に取ってあるはずだ。なんせコーデリアはブレイクと共に魔王に挑むために旅をしていたのだから。さらに今回の旅団についても大神殿に有無を言わさないために新たに許可を取ってくれたんだろうな。……主に父さんが知らない間に。そう考えれば王都の用事と言うのはそう言うことだったのかもしれない。
「大神殿の許可はいらない」
「しかし聖女とはその国の大神殿に属するもので……っ」
「強制ではない」
「女神さまがお怒りにっ」
「いや、そもそも旅については推奨された」
とコーデリア。え、コーデリアったらいつの間に女神と……?
「女神も反対していない」
「そんなのハッタリじゃ……」
「なら逆らってみるか?私は女神への独自の通報ルートを確保している。神罰が下るとしたらお前たちの方ではないか。そもそも……女神と連絡取れる手立てもないのだろう?」
「それは女神の加護を賜った聖女の役目で……っ」
「ならば役目は果たした」
どういうルートかは分からないが、コーデリアは既に女神の答えを聞いているわけだ。
「これ以上しつこく付きまとうのならば騎士団を呼ぼう。あと王都の商業ギルド長が大神殿との取引内容を考えなおすと言っていた」
「そ、そんなことをすれば治療を望む民たちが……っ」
「聖女を無理矢理囲おうとした大神殿のせいだと思うだろうな」
つまり怨まれるのは大神殿だ。
神官たちは黙って引き下がるしかなかったのである。




