【47】似た者父子
――――ここは王立図書館の最寄りの飯屋である。よくある異世界ファンタジーの酒場のようなところだが個室があり、父さんがそこに案内してくれた。しかも……座って寛げるタイプ!
さすがに畳ではないが座れるのはありがたい。座布団と言うよりはロングマットの上に腰掛けようとした時だった。
「あなたは美しい」
ミレイユさんに傅く父さん。
「先程は騎士の手前、丁寧に挨拶ができなかったことをお詫びしよう。改めて私はジェイド・ノームだ。気高きエルフの戦士……ミレイユ殿」
「……その、待て!セリフはちょっと違うが何だこのデジャヴは!」
「ドンサ村では日常茶飯事です」
「もはやジェイド叔父さんが帰ってきた時の定例行事かな」
とコーデリアとブレイク。
「何だその定例行事は……」
「高貴なエルフキャラを頑張って装いながらも、たまにデレた姿を見せてくれる……。それがミレイユ姉さんだぜ、父さん」
「ああ。最高に萌える」
さすがは父さん。エルフの戦士への尊敬の念も忘れないだなんて……俺もまだまだだな。
「リードおにーたん、何してるの?」
「ドル活だよ、ふわわ」
こちらへてくてくとやって来てくれたふわわをなでなで。
「もうお高いエルフキャラやめようかな……」
ミレイユさんがボソッと呟いた。
「俺はどんな姉さんでもついて行くぜ!」
「あぁ。私もどんなミレイユ殿でも推せる」
「ほんとやめろ、そこの父子!!むしろ本題は別だろうがっ!」
※※※
料理を注文し一通り運んでもらい、みな席に着いたところで改めまして。
「まさか父さんがいるとは思わなかった」
「偶然こちらに帰ってきていたんだ。しかし城でふと『魅了』について調べているエルフの御仁がいると小耳に挟んでな。どうしてかアンテナが働いたのだ」
「さすがは父さん」
噂だけでミレイユさんの未亡人熟女感を感じとるなんて。
「もうお前たち父子にツッコむのはやめる……が、その、助かったことは事実だ。ジェイド・ノーム。お前の名はエルフの国でも冒険者をしていても度々耳にする。こうして直接話すのは初めてだが」
「ああ。まさかリードとも知り合いとは思わなかったが」
「同じ旅団で旅をしてるんだ。ミレイユさんは冒険者ギルド出向の護衛だよ」
「ふむ……そのミレイユ殿が『魅了』について調べているのは旅団と関係があるのか?」
「……そうだな。私は魅了スキルにかかった娘を助けたい。その魅了を解除できる情報や素材を探している。リードのお母君に解除薬を頼むことはできたが……自分でももっと何かできないかと思ってな」
「ああ、リリアナに協力を仰げたのなら百人力だな。多分……現状この世界で魅了や媚薬に一番詳しいのはリリアナだろう」
リリアナとは母ちゃんの名だ。しかし一番詳しいって……確実に父さんに盛りまくったからだよな……?そしてこの親父はカラカラ笑うだけでその行為については気にもしない上に……効かないのだ。それはレベル差も関係しているんだろうけどな。
「しかし魔女たちは媚薬の基本の調合方法は知っていても、安易に注文を受け付けたりはしない」
それは解除薬に於いても同じだ。だから母ちゃんの協力を仰げたのは幸いだ。
「そうだな……私が方々の魔女をあたり解除薬を頼んだ時も渋られた。そもそも媚薬ならともかくスキルは分からないと匙を投げられてな」
「しかし……スキルでの魅了か」
父さんが神妙な表情を浮かべる。
「ならばリリアナに頼るしかないが……スキル魅了の持ち主がいるのか?」
父さんは意外そうであった。
「うん、あの召喚勇者アレンだよ。アイツが魅了を使ったんだ」
「……あの召喚勇者か。勇者らしくないと言っちゃなんだが……勇者が魅了スキルとは。そもそもスキルとして与えられたのは歴史上たったひとりだ」
確かに勇者ならもっとバフを盛れるスキルとか、戦う時のスキルの方が自然だな。ブレイクのスキルもブーストである。
「そのひとりってのは……?」
「魔女結社の初代代表だ」
え……?魅了スキルの唯一の持ち主が……母ちゃんの所属結社の初代代表!?




