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【32】同じ世界の記憶



――――翌日。


早朝、まだ寝ている兄ちゃんを部屋に置きふわわと共に朝の牧場を見に行く。牧場には牧羊犬たちもおり、まだ早いよと鼻で脚をツンツンされてしまった。

仕方がない。戻ろうと思えば。


「イヴァンさん?」

牧場主だもんなぁ。朝は早いのか。


「……リードくんですか。そうだ……ちょうど良かった。君に聞きたいことがあったんだ」

「え……聞きたいこと?」


「ええ。君はガーバルフから来たのに編みぐるみのことを知ってましたね」

「まぁ……そうですね」

「私も長いこと魔王国で暮らしておりますし、編みぐるみの編み棒を作ってもらう際にレオンやほかの職員、工房のものたちにも確認しましたが……編みぐるみと言うのはどうやら彼女がもといた世界の技術らしいのです」

え……元いたってことは。


「アンナさんは召喚者なのか?」

つまりは日本人。


「そうです。アンナはこの世界に召喚され、魔王国の国境で保護されたそうです。保護した魔族たちは国境警備隊のものたちで私も又聞きですが」

「召喚されたって……召喚ってそんなところにされるのか?」

魔族のみなさんが親切でなければ、魔族と人間が平和に暮らしてなければ、アンナさんは危なかったかもしれないのだ。


「そんなわけないじゃない。ちゃんとした祭壇よ。勇者アレンがグドトッホ公国の祭壇で召喚されたように彼女も同じ祭壇で召喚されたはずだわ。勇者と聖女ってのは古今東西コンビになるように出来ているの」

そう告げたのはこちらにやって来たマキナだ。マキナも起きていたのか。


「アンナ……あの子は召喚聖女よ」

アンナさんが……聖女!?

「いや……それなら何故アンナさんは国境に捨てられて、アレンはアンナさんじゃなくてコーデリアを……?」


「……それがクソみたいな理由でも知りたい?勇者アレンの周りにいた美少女たちの顔を思い出したら……分かるわよ」

つまりアイツは……アンナさんを顔で捨てたと言うことだ。実際に捨てたのはアイツじゃないかもしれない。けれどアンナさんではなくブレイクの聖女であるコーデリアを執拗に手に入れようとするのなら……アイツが捨てたも同然じゃないか。


確かにアンナさんはモデルやアイドル級とは言いがたいが。


「アンナさんは普通にかわいいだろ」

「当然だ」

イヴァンさんも頷く。


「アンナさんの旦那氏がイヴァンさんなら安心だな」

「もちろん。こう見えてもユリアンの前任者。アンナは私が守る」

兄ちゃんの前任者って……元魔王四天王かよっ!爽やかで優しげで……とてもそうは見えないんだけど。ひとは見かけによらない……魔族もな。


「……それより君は……その、編みぐるみのことを知っていたのが気になる。君はジェイド殿の息子でユリアンの弟だ」

イヴァンさんはどうしてアンナさんの元いた世界の……日本の記憶を持っているのかを知りたいのだ。


「俺、その……前世の記憶があるんです。多分アンナさんと同じ国の……記憶」

こんなことを言ったら引かれるだろうか……。


「……実際に君は編みぐるみや編み棒を知っていた。疑うことなどできようか」

「そうね。この世界にはもとより転生者って存在もあるのよ」

マキナも頷いてくれる。


「もしかしたらあんたのほかにもいるかもしれないわ」

「なら会ってみたいけど……アンナさんも日本や地球の話ができるんだもんな」


「……だがアンナはあまり元の世界のことを語りたがらない。編みぐるみの件はふわわたちの毛綿で作った毛糸を見て偶然編みぐるみのことを教えてくれて知ったんだ」

アンナさんは地球で何か触れられたくないことがあったのだろうか。それともまさか……。


「もしかして……最近世間を騒がしている召喚勇者が原因かもと思い当たってな……」

「……可能性としてはあり得ますけど……アレンって本当に俺の前世の……日本の出身ですかね?」

もしくは外国か?


「さて……それは本人に聞くしかないけれど……確実に世界は同じ。過去召喚された勇者や聖女たちも地球の日本と言う国からやって来たと話したそうよ」

「詳しいな……マキナ」

「えっと……その、私はこの手の話が好きで、色々と知ってるだけよ」

「ふぅん?でも助かったよ。ありがとな、マキナ」

「……ま、感謝しなさいよ」

ちょっとツンデレ入ってない?でもマキナのお陰でいろんなことが分かったな。


「何か分かったらイヴァンさんに連絡します」

「あぁ、こちらもだ」

イヴァンさんと通信番号を交換すれば、兄ちゃんがベッドに俺がいないとむせび泣きながらやって来たのでイヴァンさんに頭をぺしゃりと叩かれて『うるせぇ』と怒られていた。やっぱり兄ちゃんにあぁいえるイヴァンさん……すごいな。さすがは前任者である。


そうして、起きてきたコーデリアとブレイクも迎え朝食をご馳走になり帰国の途につこうとしていた時だった。


「リードおにーたん……はなれたくない」

ふわわが俺に抱き付いてきたのだ。


「ていむ……てのしたら、ついていけるの、しってるの」

ぐおぉっ!テイムまでされてついていきたいとか……その……いじらしくてかわいすぎるぅっ!!


「……娘を、よろしく」

「お母さんんんんっ!?」

何故かお母さん綿花にグッドサイン向けられてるううぅっ!

「ん」

そしてボス綿花まで!?

そうか……今分かった。ボス綿花はふわわの父親であった。


「綿花たちが認めているのなら……ユリアン」

「うむ……綿花たちは時に主を選ぶんだ、リード。だからリードが選ばれたのなら俺も安心してふわわを託せる」

「……兄ちゃん」


「テイムの仕方を教える。ふたりが認めあっているなら、ふわわの名を唱えてテイムと言ってみて」

「うん。ふわわ、テイム」

「うんっ!リードおにーたん!」

ふわわが嬉しそうに俺の名前を呼ぶ。すると何故だか不思議な感覚が身体に入ってくる。


「これでリードとふわわが結ばれた。テイムしたってことだよ」

「うん……!ありがとう、兄ちゃん」

これからもふわわと一緒かぁ。ブラッシングも毎日してあげないと。そしてイヴァンさんからはお手入れセット一式と綿花の基本と言うブックをもらった。通信番号知ってるし分からないことがあればいつでも聞けるな。


「あぁ、でもふわわたんが心配だから、おにーたんが超絶過保護守護魔法かけとくー」

兄ちゃんがふわわに手をかざし魔法をかけたらしい。いやいや、せっかくカッコ良かったのにもう元に戻っちゃったし!何かすごいもんかけてるし!


「リードきゅんにもつけたい」

「俺は大丈夫だから」

「やだやだリードきゅぅん」

ごねるな幼児みたいに。もう……さっきのキリッとした兄ちゃんはどこに……。でもま、こんな兄ちゃんはこんな兄ちゃんで好きだからこそ兄弟でいるんだよな。


「じゃぁ1個だけ」

「仕方がないなぁ。分かったよ、兄ちゃん」

兄ちゃんからの守護魔法。致死の攻撃を受けた時にダメージを受けずにまるごと跳ね返すそうだが……そんな攻撃を食らうことがあるとは思えない。でも魔物もいる世界だ。


転ばぬ先の杖ってやつかな。

それからコーデリアが昨日作ったと言うミニふわわぬいを見せてくれた。フェルトで器用にもふもふを表現していた。


「ふわーっ」

ふわわが大感激で受け取っていてさらに萌えが増した。

さて……俺たちはルフツワまで帰るとしますか。帰りの移動はブレイクのゲート魔法だ。



兄ちゃんはまだ俺に甘えたかったようだけど、般若の笑みのイヴァンさんに屈していた。あの兄ちゃんが屈する相手がいるなんて……綿花たちは幸せに守られて暮らせそうだな。それからアンナさんも……。


俺も……。


「ふわわを守ってやるからな」

守っているのは兄ちゃんの魔法だが……俺には俺にできることを。



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