【30】綿花とフェルト
――――綿花……綿花かわいい。綿花もふもふ。
「おいリード」
「何だ?コーデリア。コーデリアももふまれてみるか?」
「……」
お前ちょっともふまれたいと思ってないか?
しかしコーデリアは言いたいことがあるのか寄ってきたちび綿花を抱っこして我慢したらしい。
「素材の件はどうしたんだ」
「……あ、確かに。俺は商人で100均をこの世界に広める使命を持って生まれてきたんだった」
「いや、そんな使命知らないけど」
そんなこと言ってマキナだって100均商品好きだろうに。俺には分かるんだからな?つい先日100均シュシュをあげたら喜んでいた。
これからマキナも……ハマることになるのだ……!おにーたん分かってるんですからね!?……っと違ったすっかりおにーたんが染み付いてしまったどうしてくれんだ兄ちゃん。
兄ちゃんに脳内責任転化したところで……。
「そう言えば綿花からはどうやって素材をとるんだ?」
兄ちゃんが溺愛している以上きっと平和的に……むしろ平和的にじゃないと許さんっ!
「こちらを」
するとイヴァンさんが俺たちにブラシの入った籠を差し出してくれる。
そしてイヴァンさんがバスケットをカーペットに入れれば、ちび綿花の1匹がすちゃっとブラシを手に取り、そしてとことこと向かったのは。
「おねーたん、ふわもふっ!」
「う……うん!」
アンナさんのところだ。
アンナさんはブラシを受け取りちび綿花を抱っこしてコーデリアの側に腰掛ければ、くるりんと後ろを向いたちび綿花のふわもふ毛皮を軽くブラッシングすれば。
ブラッシングされた毛綿がまるで100均の膨らむ綿みたいにもふっと膨らんだぁっ!!?
「あまり強くすると毛綿がブラシに絡まっちゃうので優しくブラッシングしてあげてください」
「はい、アンナさん!」
もちろんっ!綿花たちに痛い思いはさせたくないもの!
俺もブラシを受け取れば。ふわわがキラキラと目を輝かせて背中を向けてくれたので優しくブラッシング。おおっ!ふわわのもふもふ黒毛綿~~っ!
コーデリアも真似してやってみている。
「こんな感じか?」
「えぇ、上手です。コーデリアちゃん」
アンナさんは少し自信がなさげだけど、同じ女の子のコーデリアと話せて楽しそうだ。
さてブレイクは……。
「ブラッシング……していいのか?」
「ん」
ボス綿花のところに行ってたーっ!?
「ボス綿花がブラッシングを許可するなんて珍しいですね。勇者だから……と言うわけでもないような」
とイヴァンさん。普通【チート勇者は周囲を惹き付ける】理論を持ち出すのが適当だと思うが……俺は違うと知っている。多分ボス綿花は見抜いている。ブレイクのくまちゃん好きを!そしてそのもこもこの原点綿花をもっ!
ブレイクが……幸せそうだぁ……。
「……大人げない腹いせ、だったけど……あの子には苦労をかけたもの」
「……マキナ?やらないのか?」
何か呟いていたようだけど。
「……やるわ」
マキナもブラシを受け取り、みんなで総出で綿花のブラッシング。
綿花の綿毛はこうして丁寧に採取されていたんだなぁ。兄ちゃんもでろっでろの顔で綿花たちをブラッシングしている。
「そうだふわわ。ふわわ綿毛でフェルトを作ってもいいか?」
「……ふわわのわたげ!」
「そうだよ」
素材が目の前にあれば、その素材を使って生成できる。
なければ魔法生成である。
「でもふわわのわたげくろいよ?色つけられないの」
「大丈夫だよ。黒いフェルトならふわわの綿毛の右に出るものはいないはずだ」
「……っ!」
ふわわがぱあぁっと顔を輝かせる。
そんなふわわに兄弟たちも集まる。みんなふわわのことを心配していたんだろうなぁ。ふわわの綿毛の加工とあって嬉しそうだ。
「よし、スキル100均!」
品名は黒いフェルトだ。
【MP100を消費してフェルトを作ります。大きさは脳内イメージでいいですか?】
うん、お手軽サイズとビッグサイズで。
最近のフェルトってそうだよな。昔はお手軽サイズフェルト1枚で100円(税別)だったはず……。ちょっと自信はないが。
でも今はビッグサイズ1本か3枚組110円(税込み)だな。前者の税別表記に関しては当時の税率を忘れてしまっただけだ。
【では生成します】
サンキューGI。
そうして出来た黒いフェルトは……。
ふわふわな出来心地。お手軽サイズが6枚にビッグサイズが2本。
「結構できたな……」
素材は自前とは言えまさか100円コストでここまでとは。
「スキル100均……ギルド長のレオンからも聞いてましたが、本当にすごいスキルですね」
「えぇ、イヴァンさん。俺は必ずやこの世界に100均を広めてみせます!」
「応援してますよ。なかなかにユニークな発想のようです」
「ありがとうございます!」
魔族の土地でも広められたら……アダマンタイナ姉さんやアンナさんも喜ぶ。むしろブロック食の開発なども手伝ってもらっているし、魔族の土地でも積極的に導入できるだろうか?そこら辺の商談はレオンハルトや兄ちゃんとになるのだろうが。
「100均……この世界に」
その時聴こえた呟きは……アンナさん?
アンナさんも100均に興味を持ってくれたのかな?やっぱり100均は世界を問わずひとびとの心を惹き付ける!
「もしよければ、アンナさんもいかがですか?」
「その……私、編むのは得意だけど、お裁縫が苦手で……」
ならばついでに生成っ!黒い毛糸ぉっ!!黒い毛糸は3セットできた。
「い、いいの……?」
「もちろん!試供品として、かわいい編みぐるみ作ってやってください」
「おねーたん、がんば」
綿花たちにも応援されたアンナさんは、とても嬉しそうに微笑んだ。
「はい……っ!」
「……編みぐるみって何だ?」
コーデリアが首を傾げる。
「良ければ……教えてあげようか?」
「うむ、知りたい」
「じゃぁ、この後やってみようか」
アンナさんが編みぐるみ用の編み棒を取ってきてくれた。そう言えば……編み棒
100均で売っていたような……。
よし、ステンレス鋼は覚えたからステンレス製の丈夫で軽い編み棒が出来るはずだ。
【君の深層心理の記憶にある編み棒、パッケージにちょっと隠れているから彼女の編み棒を参考にしていいかな?】
ぐふっ。深層心理データ抽出にも思わぬ弊害がぁっ。ここはアンナさんの実物に倣うか。
「アンナさん、その編み棒を参考に生成してみます」
「……う、うん。でもこれ……その、商業ギルドの工房のひとに頼んで編み棒に近付けてもらったものなの」
うむ……?魔王国ではあまり手に入らないってことなのかな……?
「こっちがかぎ針、あと閉じ針もいるんだけど……そちらはなかなか作れなくて……針金をこうして組み立ててるの」
編みぐるみにもいろんな道具がいるのか。しかし……どうしたものか。アンナさんの記憶を元に絵に描いてもらおうかな?
「……仕方がないわね。私が特別に手をかしてあげるわ」
「マキナ……?」
そう言うとマキナがアンナさんと俺の額にそれぞれ手を当てる。
「アンナ、あなたの記憶の中のかぎ針ととじ針をイメージしてみて」
「う……うん」
アンナさんが目を瞑れば、俺の脳内にイメージが流れてくる。そうだ……そう言えばこんな形だった。
【ではそれで生成しよう。200Mもらう】
そして俺たちの目の前にはかぎ針ととじ針セットが2つ生成されていた。2人分だな。サンキュー、GI。
【どういたしまして】
GIはどこか満足げにそう声を返してきた。
「……ありがとう……スキル100均って……便利、だね」
「えぇ。ほかにもアイディアがあれば教えてくださいね」
「……うん」
アンナさんが嬉しそうに頷く。そして早速コーデリアと編みぐるみ製作に取り掛かった。




