【28】綿花牧場での出会い
――――メアタワの街の大通りを越え居住区を越えれば豊かで広大な牧場が広がっていた。
「わぁ、すごい。ここ全部牧場なのかな?」
「ここら辺はね」
俺たちを案内しながら兄ちゃんが頷く。
「別方向には田園地帯もある。メアタワは住民の数以上に広大なんだよ」
「すごいなぁ。ブレイクたちは初めてか?」
「うん。すごいや、リード。俺たち鍛練のための場所にしか連れてってもらえなかったからさ。魔の山とか魔物が無限に沸きだす原野とか」
「……お前」
ほんとにスパルタだったんだなぁ。だからこそ兄ちゃんの攻撃にも応戦できたのかもしれない。
「てか魔の山って何」
何かラスボスやドラゴンがいそうな……。
「魔の山は魔族が崇める魔神の神殿がある山で聖なる山だよリードきゅん」
「それ勝手に入っちゃいけないやつじゃねぇか」
「多分あっちを統括してる四天王が追い返したんじゃない?」
なるほど、俺は分かったぞ。魔の山と言うラスボス感たっぷりな山に何らかのミッションで挑んだ勇者の前に四天王が立ちはだかったとしよう。しかしてそれは、魔族の神聖な山に入った不法侵入者こと勇者を追い返しに来ただけ……と言うことだ。魔族が人間の土地に攻めてきたならともかく、勇者が魔族の土地に入って四天王が立ちはだかったとしたら……それは不法侵入やめなさいということだ。たとえ勇者だとはいえ、入っていい場所とそうでない場所は確かめなさいよと言うことだな。
「あ……確かに追ったけられてほうほうのていで逃げたよ!途中でナビゲーターとはぐれて翌朝ぼろぼろで戻ってきたけど!」
「ナビゲーターやられてる!でも多分ナビゲーターの自業自得だ!」
わざわざブレイクたちを魔族の聖地に連れていったのだから。
「今なら分かる……多分説教されてたのではないか?」
とコーデリア。
「……うん、そうだな」
あのしっかりものの魔王ダークドラグーンの部下だもの。兄ちゃんもいざというときはしっかりするのだ。
「ほら、リードきゅん!見学予定なのはあそこの牧場だ」
兄ちゃんが示した方向には出迎えなのか魔族の牧場主たちがいる。
「ガーバルフ王国から人間の商人が見学に来ると聞いていましたが……ユリアンさまも来てくださったのですね。うちの綿花たちも喜びます」
兄ちゃん、ここの綿花たちと知り合いなのかな。まぁ好き……みたいだからな。これは別にジェラシーとかじゃない。俺もいい歳だ。お兄ちゃんを取られて嫉妬なんてしないさ。ヤンデレブラコン兄もみんなでシェアすればカオス度が薄まるかもしれないし。
「私はここの牧場主のイヴァン。彼らは家族です」
イヴァンさんは茶髪にイエローグリーンの瞳、灰色の角の魔族の青年だが……実年齢と見た目年齢は必ずしも一致しないのが魔族だ。
家族経営かぁ。そう言えば角の形や色が似ているかも。
「イヴァンさん。俺はリードです。それから幼馴染みのブレイクと近所の妹枠のコーデリア。そして何かついてきたマキナです」
「私の扱いだけ雑だなぁ、オイ!?」
マキナの冴え渡るツッコミが響く。
「ずいぶんと賑やかなパーティーのようですね。しかし勇者と聖女の説明がそれなんですね」
事前に話がいっていたとはいえ、やはり知ってたか。
「勇者とか聖女の前に大事な幼馴染みたちですんで」
「そのようですね」
クスクスとイヴァンさんが微笑む。しかし……俺にはひとつ気になっていることがあるのだ。
「では早速中へ……」
イヴァンさんが中に招き入れてくれる。しかしその時。
「……あっ」
目が合った。
「初めまして、イヴァンさんの奥方」
「ど……どうしてっ」
魔族のご家族の中で彼女は頭を隠すように帽子を被っている。
「分かります。俺には」
彼女の手をとりまっすぐに見つめる。
黒髪黒目に何だか懐かしい顔立ちである。まさか日本人……?いや、まさかな。
「俺はリード。あなたのお名前は?」
「……アンナです」
「アンナさん。将来は……とても素敵な熟女マダムになりそうだ。だから君に……これを」
俺は100均製マグカップを差し出す。
「あ、ありがとうございます!その、リード、さん」
「いえ、こちらこそ素敵な出会いに感謝します」
「……全く。リードは相変わらずだな」
「将来どんな熟女になるのか分かるの?リード」
「当たり前だろう!人妻ならば分かる!」
俺の熟女マダム真眼(妄想)をナメるなよ!?
「ねぇ、因みに私は?」
マキナが自分を指差して問う。
「え……お前は……ごめん、俺が分かるのは人妻だけさ」
「……雑魚め」
まぁスキルも雑魚だが……それについては女神に文句を言って欲しいもんだな。
「ユリアン、もしかしてとは思うが……リード・ノーム……お前が普段リードきゅんとか呼んでいる弟か?」
と、ふとイヴァンさんが兄ちゃんに問う。あれ……先程よりも何だか親しげだし兄ちゃんを呼び捨てにしてる……?先程はイヴァンさんも牧場主として出迎えたからやけに丁寧な出迎えだったのだろうか?ビジネスって時にそう言うの大事だからなぁ。
「……くっ。リードきゅんの愛称はおにーたんだけのものだぁっ!!あ、でもそうだけど何で?」
いきなりキレて元に戻る情緒不安定なのにイヴァンさんも慣れてるなぁ……兄ちゃんの扱い。どうやら相当親しいらしい。
「いや……お前さんの親父さんにそっくりだからだよ」
「……リードきゅんはおにーたんにそっくりなんだあぁぁぁぁっ!!!」
いや……俺あんなヤンデレブラコンじゃないんだけどなぁ。




