【26】メアタワ商業ギルド長
――――翌朝。
交易街プーレクを出発した俺たちは綿花たちに会いにメアタワにやって来た。
「おおっ、ここがメアタワ!私もずっと来てみたかったのだ」
コーデリアの目が輝いている。メアタワはとても平和で穏やかな時間が流れており、広場に集まる露店も和やかな雰囲気とともにさまざまな雑貨を扱っている。そして街の至るところに描かれた羊や羊のオブジェ。綿花だけじゃなくて羊もいるのか?
「なぁリード。素材にいいと思わないか?」
コーデリアはフェルトを指差し告げる。
「確かに。フェルトかぁ……いいかも」
確かに100均ではフェルトもよく売られていた。フェルトがここで扱われていると言うことは綿花はフェルトの素材も提供してくれるのだろうか。
それとも羊もいるなら羊毛フェルトだろうか。
そして一方で……。
「くまちゃん!」
「あんちゃん……人間なのに分かるのか?ふ……っ、やはりくまちゃんの前では種族なんざぁ関係ねぇな」
「もちろんです!」
ブレイクはその傍らでいかつい魔族のおっちゃんの店でフェルトのくまちゃんマスコットを購入していた。
「それにしても綿花の牧場……楽しみだなぁ。まずは商業ギルドに行ってこないと」
綿花は魔王国の特別指定生物。牧場に会いに行くにはギルドにこちらの紹介状を見せて案内してもらわねば。
そして早速メアタワの商業ギルドを訪ねた。
「あなた方が綿花牧場の見学希望者でしたか」
しかしこんなふわふわなかわいらしい街に似つかわしくないものものしい雰囲気で迎えられたのだが?
「……こう言う時無性に言いたくなる」
「……何を?」
マキナが首を傾げる。
「あっれぇ?俺また何かしちゃいましたぁ??」
「下手くそぉっ!!」
「ふぐうっ」
まさかよくあるチート主人公テンプレセリフに下手くそ判定を受けるだなんてっ!!
「……」
あ、いっけね。案内人の魔族の商人がドン引きしてるんだけど!?
「やはりこれは……使うべきではないか」
「アンタが下手くそだからよ」
上手ければ許されるのだろうか。そうだな……許されてるかもな。世のチート主人公ってすげぇな。
「あ、ブレイク。試しにさっきのやってみて」
案内された待合室で暇なので、せっかくだからチートな幼馴染み勇者にウザ絡みする。
「……え?さっきの?んーと……あれ、俺また何かしちゃいました?」
「上手ぅっ!!」
あれ、俺何かしちゃいました?は本当に上手下手で命運が分かれるううぅっ!何だかんだで勉強になった俺である。
「……あの」
ハッ!!気が付けば先程の魔族の職員が戻って来ていた。
「キルド長がお待ちです。どうぞ」
は……はっずかしい~~っ!当のブレイクはけろっとしているが。やはり何かしちゃいました系主人公はこうしてけろっとしとくべきなのかもしれない。ふぐうっ。
さて……それよりも今は……だ。果たしてどんなギルド長が待っているのだろうか?
ギルド長の部屋では魔族の青年が待っていた。まだ20代前半……いや魔族だから実はうんと年上って可能性もあるか。金髪にダークグリーンの瞳、黒い魔族角のイケメンだ。
因みに俺の個人的イケメンランキングは兄ちゃん→ブレイク→メアタワ商業ギルド長→アレン。父さんはイケオジ枠だから別枠である。
「お前たちが綿花牧場への見学希望者か。ぼくはレオンハルト。この商業ギルドの長だ。しかし本当に勇者ブレイク……お前が来るとはな」
「え、ブレイクの知り合い?」
「……えと、どなたでしたっけ」
こてんと首を傾げるブレイク。
「どこかで会いました?」
「貴様が魔王城に乗り込んだ際にユリアンさまに追いかけられるからその巻き添えを食ったんだ!!」
「……その、ごめんなさい」
マジかよこのひと兄ちゃんとブレイクの追いかけっこの被害者かよ。でも何で彼が魔王城に……ギルド長なら行くこともあるのだろうか。特にここは国の指定保護生物の綿花がいるのだ。
「それと……お前たち分かっているのか」
「何を……です?」
ブレイクが戸惑いがちに答える。
「いいか。もしもお前たちのせいで綿花に何かあれば……」
ご……ごくり。やはり国の指定保護生物だからか。
「ユリアンさまに追いかけられるだけでは済まない。あの方は……今度は殺しにかかってくるぞ」
え……?兄ちゃんが……?そんなに綿花のことが好きなんだろうか。まぁブラコンも常軌を逸しているからおかしいことでもないのだが。
「もうされました!」
ブレイクがあっけらかんと告げる。
「帰れっ!!貴様らに会わせる綿花はいない!」
そ……そんなぁっ!?せっかく綿花に会いにここまで来たのに門前払いって……っ!




