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【20】旅の同行者



――――鉄鋼都市にやって来て2週間。遂に研修が終わり、旅立ちの日がやって来た。


「それじゃぁアンタたち、気を付けて行ってきな!気が向いたらまたいつでも鉄鋼都市に来ていいからね」

「はい、姐さん!」

「お世話になりました」

「うむ、行ってくる」

見送りに来てくれた姐さんたち商業ギルドのみんなに手を振り、俺たちは綿花牧場のある魔王国を目指す。

まずは中継地の交易都市ツナードに向かうために乗り合い馬車に乗り込み出立した。どうしてかな……今無性にあんドーナツが食べたい。


「ツナードの名物はあんドーナツか……旨そうだ」

とコーデリア。そう……そしてもれなく名物っ!


「勇者の冒険の買い食いと言えば肉串だけだった」

「何それ決まってんの?」

「うむ。勇者の旅には神殿からナビゲーターが派遣されてくるのだ。まぁ魔王城の前で任務終了とばかりに帰ってしまうが、魔王からアポなしだからと追い返されたらまた来たぞ」

マジかよ魔王城までしか同伴しないのか。まぁしかし勇者12歳、コーデリアも12歳で旅立った。子どもの勇者と聖女だけで冒険させるには危険か。しかしながら……それならアポ取ることを教えてくれてもいいのでは。いや……買い食いは肉串しか許さないと言うことはたい焼きやホイップたっぷりクレープは不可と言うことだ。そんないつの時代だよ勇者感を押し付けるやつらがまともにアポ取らせるはずがないか。


「あ、でも今はいないよな?どうしたんだ?」

ブレイクが成人したからか?


「あぁ、それは……師匠がごちゃごちゃ小言がうるさいと追い出したんだ」

「アイツ結構いいヤツじゃん」

最後はちゃんとブレイクの趣味も理解してくれた。コーデリアに治療してもらって良かったわ。


「ぐす……っ。ずっとくまちゃん愛でられなかった」

ブレイクが悲愴感たっぷりに告げる。なるほど、そうして抑圧されたくまちゃん萌えが師匠が起こした事件で爆発しちゃったわけね。


「でも今は師匠も応援してくれてるんだろ?」

「うん」

ブレイクがちょっと嬉しそうに頷く。何かいいなぁ、こう言うの。勇者の成長を見守るモブ幼馴染み役も……悪くはない。


「おーい、兄ちゃんたち、もうひとり乗るから乗せてやってくれ」

うん?御者のおっちゃんが告げれば、馬車は停まっており荷台にひとりの女性……少女か?が乗ってくる。流れるようなプラチナブロンドに翡翠の眼をした美少女……年齢は16歳。多分そうだ。頭の中に何故か刷り込まれている。


「道中よろしく頼むわね、少年少女たち」

にこりと笑う少女は少女らしくない口調である。


「私はマキナ。マキナと呼んでいいわ」

「うむ、どこかで会ったことがある気がするが……よろしく、マキナ。私はコーデリアだ」

「俺も……既視感?まぁいいや。俺はブレイク」

あれ、2人も?ドンサ村に来たことがあるとか……?いやこんな美少女が来たらはっきりと覚えてそうだけどな。


「あぁ、俺はリード」

「……それだけ?」

「……え?」

マキナの言葉にぽかんとする。


「こんな美少女を前にそれだけ?」

いや確かに美少女だが、俺のストライクゾーンからすると幼すぎるんだが。


「いや、美少女ならいつも一緒だしな。今さらだよ」

ブレイクに悪気はないんだよ、だって事実だもの。


「確かにだからこそ選んだんだけど……ぶつぶつぶつ……」

ん?選んだ?


「アンタ自身はどうなのよ!」

何でイケメンなブレイクを差し置いて俺単体指名なんだよ!!


「俺は熟女マダム一筋だ」

ここは譲れない。オタクたるもの、自分の好きなものには正直に……だ。こちらの世界はそれほど空気を読むことに忠実ではない。空気を読むことに忠誠を誓ってはいないのだ。

だからこそ俺は堂々と叫ぶぞ!熟女マダムが好きで何が悪い!


「……くっ、相変わらずなんだからっ」

え……?俺のことを知ってるのか?もしかして俺が推している熟女マダムの娘さんか誰かだろうか。それならば親切にしてやらないとな。


「父子だからな。諦めも肝心だが」

とコーデリア。いやいや何を諦めるんだ!?


「うちの母さんもあれだけは昔から治らないんだって言ってたよ」

「ぶ、ブレイクまで!?」

マリッサったらブレイクに何を教えて……いや、マリッサなら……許せるっ!だってマリッサは勇者に選ばれたブレイクをいつも優しく心配していた素敵な熟女マダムだもの……!


「はぁ……。あなたたち……もっと勇者パーティーらしくできないのかしら」

え……?ブレイクが勇者だって知ってるのか?まぁ勇者だし旅もしてきたから顔を知っているひとがいてもおかしくはない。ルフツワやミケホはブレイクも訪れたことがなくてブレイクのことを勇者として名前は知っていても顔まで知ってるひとはほぼいなかった。


「勇者ブレイク。あんたはこの世界の勇者だけど……それとは別に異世界から勇者が召喚されたって話、知ってる?」

「……勇者召喚?そんなのがあるのか?」

「うん……俺も習ったよ。過去には異世界から召喚される勇者がいたって」

ブレイクも知っていたのか。


「あんた、幼馴染みが勇者なのに勇者情報には疎いのね。王国の隣……魔王国とは逆側の隣国ね。そのグドトッホ公国で召喚された勇者がいるのよ」

マキナが俺の反応を見てふぅと溜め息をつく。


「ふうん。でも俺の勇者はブレイクだけだかんなっ」

「何それリード、俺惚れそう」

何言ってんのブレイク。俺、男。

まさかこれが俗に言う勇者の気の迷い!?時には金、時には女、勇者と言うのは普段抑圧されていることで時にこう言った精神限界突破の末に欲望に惑うのだ!まずいまずい、幼馴染みの俺がブレイクを惑わせるわけにはいかない!


「悪いな、俺は熟女マダム一筋だ」

「悪い、そうだった」

ブレイクが正気を取り戻したようで何よりだ。


「いやおめーらそれでいいのかよ」

もちじゃねぇか、マキナ。それが俺とブレイク。時に支え合い、時には喧嘩し、時に己を高め合う。幼馴染みの絆ってもんよ。……まぁブレイクはイイコ過ぎて喧嘩したことがないのだが。


「それよりも召喚勇者の話だったか?神殿からのナビゲーターに聞いたことがある。異世界より召喚された勇者は女神から特別な加護を受け取り現地の地産勇者をも凌駕すると」

な、なんと……そうなのか!?コーデリア!


「それでも俺は……ブレイクの相棒だ!」

「むろん、私もブレイク兄さんについていく!」


「2人とも……っ」

ブレイクと共に仲間の絆を深め合う。


「あんたたちねぇ……危機感の欠片もないわね。あんたたちも勇者パーティーでしょ?召喚勇者はパーティーメンバーも増やして一大ハーレムだって言うのに」

え……?召喚勇者、ハーレムなの?まぁ古今東西、チーレムと言うものも存在するが。


「いや、マキナ。俺たちは勇者パーティーじゃないよ」

ん?ブレイク……?まぁ俺は勇者パーティーと言うには非力すぎるし……コーデリアと一緒に2人で勇者ユニット……みたいな表現が適当だろうか?


「俺たちは……リードがリーダーの商人パーティーだ!」

そう来たかぁっ!!別に間違ってないけど!


「俺は商業ギルド所属の用心棒」

「私は見習い職員だ」


「……いやあんたたち、せっかくチートなジョブもらったのに何で商人になってんのよ……」

人生色々、魔族生も色々だから、こればかりはしょうがない。


「その方が……平和ではあるけれどね……」

マキナはそう言うと、考え事をするように空の向こうを見上げる。

召喚勇者のことを考えているのだろうか……?しかし召喚勇者……もしかしてテンプレの日本から召喚されるってやつかな。だとしたら……100均の話をしたらきっと喜ぶだろうなぁ。


それが100均なのである。

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