【19】父と子の再会がこんなに微妙な空気になることがあろうか
――――異世界ファンタジーでの父と子の再会。宿命の再会、驚愕の再会、感動の再会……色々とあることだろう。しかしながら……何なんだこのびっみょおおおぉっな空気の再会はっ!
「ふむ、王国名誉騎士ジェイドよ。それが貴殿の次男リード・ノームか」
「……ええ、領主殿」
うぉっふ。父さんの肩書きそんなのだったんだ。王国の騎士だってのは知ってたけど。それから隣にいるのはまさかの領主かよおおぉっ!
「まぁ良い。今回は貴殿を責め立てに来たわけではない」
と領主さま。
「さきの一件については当人が私に直接謝罪に来たし昨日は魔王夫妻が秘密裏に訪問なされた。魔族の土地に近い鉄鋼都市だ。魔族との友好関係は大事だからな」
魔族の土地……近かったのか。今度世界地図ちゃんと見ておこう。マップなんて鉄鋼都市で初めてダウンロードしたんだもの。思えば俺、世界地図見たことなかった。ただ漠然と王国があってー魔族の国があってー、その他多数っ!そんなアバウトな覚え方だったことを反省しよう。いや……商人になるのだ。今度世界地理の研修受けさせてもらおう。
「……それにしても兄ちゃん、いつの間に」
「まぁアイツも成人はしているからな。多分弟を巻き込みたくなかったのだろう。今日は改めて父子で謝罪をしてきたところだ」
多忙な父さんは残念ながらすぐに駆け付けることはできず、こちらに駆け付けのは今日になったようだが……俺の知らぬうちに大人たちは色々とやっていたらしい。いや……そもそも俺……謝罪すること何もしてなくね?むしろ兄ちゃんの暴走止めて壊したもの直させて都市で無料奉仕クエストさせて……鉄鋼都市の平穏に貢献してね……?こんな罪悪感覚えたりやら微妙な空気になったりだの……そんな必要なくね?
「今日ここに来たのは……リードの顔も久々に見たいと思ってな」
「……父さん」
「昔から100ゴルゴル均をやりたいとは言っていたが、本当に商人になるとは。成長したな、リード」
「うん、父さん」
本来異世界ファンタジーの父子の再会とはこう言うものだろう。父親が息子の成長を褒めて息子嬉しい。これが一番だ。
「ところでユリアンはどうした?」
「魔王に呼ばれて帰ったけど」
「……そうか。相変わらずアイツは……まぁいい。今回領主殿を連れてきたのは……」
父さんが領主さまを見れば、領主さまが口を開く。
「うむ、近頃君が100均と言う商売を始めたと聞いてな。噂は私の元にまで響いてきた」
ギクッ。ええと……怒られる雰囲気ではないと思うのだが……領主さまの迫力……すごいんだよぉっ。
「君が開発したと言うMPやHP回復バーは都市の騎士たちにも好評だ。是非これからも開発を進めてくれ」
「えあっ!?は、はいっ!」
今ではいろんな味や回復項目で試している。都市の騎士さんたちには特に迷惑をかけたので試食をかねてお裾分けしていた。それが功を奏したと言うことか。
「私からは以上だ。私は忙しいのでな」
そう言うと領主さまはさくさくと帰ってしまった。
「領主殿なりに、久々に父子で過ごすのも良いという心遣いだろうな」
と父さん。やっぱり顔は恐いけど……いいひとなのかも。
「それに俺も久々にリードと会えたし……さらには」
父さんがおもむろに姐さんを見やり、その手を両手で包んだ。
「ウルリーカ、久々に君に会えて嬉しい」
「だから名前で呼ぶなと何度も……いや、やっぱり父子だな本当に」
姐さんはパシッと父さんの手をはたき落としキリッと告げる。
「だが本当は照れ屋で寂しがりやなところがさらにぐっとくる」
「ほんそれな!父さん!」
分かる分かる!それが姐さんの胸キュン萌えポなのよ!
「リード、お前にも分かるか」
「当たり前じゃねぇか父さん!俺は父さんの息子だろ?」
「何故そこで分かり合っているのだあの父子は」
「ウルリーカ姐さん、あれがジェイドおじさんが帰ってきた時のドンサ村の通常風景です」
と、コーデリアが姐さんに丁寧に解説してくれる。こんな時まで近所のモブお兄さんにフォローを入れてくれるとは……お前は本当にいい妹枠だな!
「そうだリード。せっかくだから父さんが稽古でもつけてやろう。明日の朝にはここを発たねばならないからな。その前に父子水入らず……」
「いや、いいよ。簡単な護身術なら習ったし、俺今世界地理の本読みたい」
「……」
全く父さんは。俺がインドアなのも知ってるだろ?
「おじさん!良ければ俺がっ!」
ブレイクが名乗り出る。さすがは相棒。体育会系はお前に任せた!
「うぅ……ブレイクは本当にイイコで……ぐすっ。サイモンもいい息子を持ったな」
「はいっ!」
ものっそい笑顔で頷くブレイク。因みにサイモンとはブレイクの父親の名だが、この間ドンサ村のマーサたち夫人会に100均グッズを差し入れしたら、サイモンおじさんが見事コーデリア父に鉄槌を喰らわされて反省中だと教えられた。そのお陰か大人しくなったサイモンおじさん。今のこってり絞られたサイモンおじさんだからこそ……ブレイクも心から頷けるのかもな。サイモンおじさん……罰で丸刈りにさせられてたけど。
そんなわけで、鍛練に向かう2人を送り出した俺は再び店番をしつつ地理の本を開く。
「あ、そう言えばさ、綿花の牧場ってどこら辺にあるんだろう」
「綿花の牧場は魔王国に多い。元々魔物だった綿花たちを、魔族たちは飼育できるように牧場を作り綿花たちから素材を得る。長い時間をかけて綿花の飼育体制を樹立したのだ。魔王国だと綿花は国の指定保護生物だ」
姐さんが教えてくれる。え、そうだったの!?
「興味があるのなら、魔王国に足を伸ばしてくるか?ここは魔王国にもほど近い。研修が終わった後立ち寄れるよう私からマリアンにも話しておくぞ」
「ありがとう、姐さん!」
「……うむ、そうだな。そう言う素直なところもそっくり……あぁいや何でもない」
ん?何だか姐さんの顔が赤いような?そんなところも……推せるぜ、姐さん。
しかし……何だかんだで次の目的地が決まったなぁ。次は綿花……運が良ければ100均綿も作れるかもしれない。今からでもとても楽しみである。
――――翌朝。再び新たな任務に向かう父さんに携帯ブロック食を幾つか持たせ、俺たちは父さんを見送った。
「それじゃ、お前も元気でやれよ。リード。それからブレイクとコーデリアも」
「もちろんだよ、父さん」
「昨日の鍛練、とても勉強になりました」
「行ってらっしゃい、ジェイドおじさん」
「……そうだ、コーデリア」
「……?」
父さん……?いきなりどうしたんだろう。
「コーデリアはブレイク以外の勇者がいたとしたら、ブレイク以外の勇者組みたいと思うか?」
ん……?それはまるでブレイク以外にも勇者を知っているような口ぶりだ。いや……いないとも限らないか。勇者が珍しすぎるチートジョブだと言うだけで。
「いえ、私はブレイク兄さんを気に入っているので」
コーデリアは何の躊躇いもなくそう告げる。
「あと多分リードもついてくる」
ん?俺も……?まぁブレイクとは幼馴染み兼相棒みたいな感じだしな。
「分かった。それを聞いて安心した。これからも3人で仲良くな」
うーん……何か釈然としないのだが、父さんが多くを語らないのならそれはまだ俺たちが首を突っ込む話ではないか……それかそうするべくもなく父さんが片付けるか……かな。でもそれならそれで多分王国自体が関わっている重要なことなわけで……ただの商人の俺が聞くべきことでもないのかな……?
ま、とにかく。俺たちは新たな任務に向かう父さんを見送ったのだった。父さんも忙しいし、あまり引き留めて聞き出すわけにもいかないもんなぁ。




