【18】結婚とは妻の尻の下に敷かれることだ
――――兄ちゃんの暴走から3日後。
俺の研修は順調だ。携帯ブロック食はその後HP回復バーも開発し、これらはルフツワの街にも卸しマリアンから感謝されてしまった。
さらに兄ちゃんを小間使いにさらに分析したところ、原材料の一部にMP回復薬やHP回復薬が含まれていることが分かり、これらを原材料から作れるかと言う商品開発も進んでいる。
兄ちゃんの暴走は都市の民を恐れおののかせたようだが、その後冒険者ギルドでの無料奉仕クエストをやらせたので都市の民も平穏を取り戻したように見える。
「はぁ……平和だなぁ」
いつものようにコーデリアとブレイクと店番をしていれば。
「あれ……ダークドラグーンから通信来てる」
ステータス画面をポチッとクリックすれば画面モニターが立ち上がりダークドラグーンの顔が映し出される。ほんとハイテクだなぁ、この世界のステータス。
「どうしたんだ?ダークドラグーン」
『いや、突然すまんな。そちらに……ユリアン・サザンウィッチがいると思うのだが』
「……」
ユリアン・サザンウィッチ。兄ちゃんの本名だ。ファミリーネームが違うのは兄ちゃんが母ちゃんに引き取られて母ちゃんの旧姓になったからである。
『あやつ……通信を着拒にしておってな……我、魔王なのに』
ぐはあぁぁぁっ!!そう言えば兄ちゃんは魔王四天王。俺が小間使いにしているとはいえ魔王四天王。そしてダークドラグーンは魔王。つまりは兄ちゃんの上司である。
「あの……ごめん」
てか着拒。魔王を着拒するって兄ちゃんんんんっ!小間使いにした俺も俺だけど、魔王は着拒すなぁっ!!
――――そして、その時だった。何もない空間に亀裂が入り、のそりと出てきたそのひと影を。
「魔王さま……?何でリードきゅんのおにーたんを差し置いてリードきゅんに通信かけてんの?ねぇ寝首掻いていいいいぃっ!!?」
いや兄ちゃんが着拒するからだろうがぁっ!!
「あと、寝首掻くな!上司だろうがっ!」
あとダークドラグーンは普通にいい為政者!
「それにダークドラグーンは俺の推し熟女マダムのひとりアダマンタイナ姉さん夫氏!姉さんの夫氏に迷惑かけない!」
「ふぐぅっ」
あ、兄ちゃん大人しくなった。
『それで効くとは思わなんだ。そして妻の方が我よりも優先……』
「何言ってんのダークドラグーン。奥さんの尻に敷かれることの何が悪い」
『うむ……それもそうだな!最近は参謀から魔王なんだから妻の尻に敷かれるのはいかがなものかと言われていたが……しかし我は妻の尻に敷かれたい。敷かれて生きたいのだ。我の趣味を笑顔で受け入れてくれた妻だからこそっ!そしてそれがユリアンの心の平静に繋がるのなら……参謀もきっと納得しよう』
「よかったな、ダークドラグーン」
魔王一家も立派なかかあ天下である。
「なぁリード、いい話風に聴こえるけど……何か残念に感じるのは気のせいかな」
とブレイク。
「何を言ってるんだブレイク。自然界に於いては女の方が強いのは自然の摂理だ」
こ……コーデリアぁぁっ!!?いや確かにそうだけども。俺も熟女マダムオタクを認めてくれる奥さんになら尻に敷いてもらいたいけども!!
『うむ、我も身を持って知ったぞ!勇者ブレイクよ。結婚は生の墓場ではない。妻の尻の下であるぞ!』
「ま、魔王っ!!」
何かを悟ったらしいブレイク。素晴らしい格言を産み出した魔王。
「ハァハァ……おにーたんはリードきゅんの尻の下に敷かれた……ぃ……ハァハァ」
「兄ちゃんはとっととダークドラグーンのところに帰って仕事しろぉっ!!」
漏れなく尻の下に敷いてやって、兄ちゃんは先程の空間魔法のような亀裂から帰っていった。ふぅ……これで暫く静かになると思ったら店の外が騒がしくなり、姐さんが誰かを引き連れてくる。
「リード、お前に客だ」
へ……?俺に客……?
姐さんの後ろから来たのは2人の男性だ。ひとりは見知らぬ貫禄のある男性、それからもうひとりは……とても見覚えのある銀髪にエメラルドグリーンの瞳のイケオジであった。
「げぇっ、父さん!?」
忘れてた……領主へのあれやこれやを親父にぶん投げて逃げたんだったぁーっ!!




