【16】マグネシウムは偉大である
――――あぁ、平和だなぁ。街は活気づいている。そして商業ギルドの店の片隅の100均コーナーは少しずつ街のひとの注目を集めている。
「鉄鋼都市ではたくさん金属素材や製品を見られたからなぁ。あとこれも作ってみた」
ステンレス製のクッキーの型抜き。
星形花形あとくまちゃん型。
「ココアクッキーが食べたい」
「ほら、焼いといた」
そう言うと思ってな。こうみえてお菓子作りは得意だ。クラフト得意なコーデリアだが、お菓子作りは苦手なのだ。ふぅ……マダムたちに混ざってお菓子作りしておいて良かったぜ。
「もひもひ……おいひぃ」
それはなにより。MP代だと思っておいてくれ。
「あとレディーたちにリクエストされたカップケーキ型!」
最近は作りやすいカップケーキも人気らしい。若いレディーたちの間でデコるのも流行っている。
「チョコチップマフィンが食べたい」
「ほら、チョコチップマフィン」
ちゃんと自ら商品を使用してみましたとも。
「もひもひ……うまい。そう言えばリード」
「うん?」
「スキル100均は食べ物はいけるのだろうか」
「うーん、さすがに試したことはないなぁ」
でも100均と言えば100円(税別)ドリンクやスナック菓子も売ってるよな……?ならばお菓子を売る……と言うのもありかもしれん。
「試してみるか」
えーと……作れるものは。
【栄養バランス食なら可能です】
原材料の都合か?しかしドンサ村の食事は栄養バランスが最適の健康重視だ(もちろんお菓子も食べるけど)。だからこそだろうか。
「そんじゃぁスキル100均!」
そしてできたのは2本セットのブロック食。これはやはりイメージ的なものだろうか。いや食べやすさにはこの形が最適と言うことか。
さすがに4本だと200ゴルゴル(税別)になっちゃうけど、2本セットなら100ゴルゴル(税別)でもイケるんだな。
「食べてみるよ」
まずは俺から。不味いものを女子に食わせるわけにはいかないからな。もぐっ。
「あ、おいひぃ。コーデリアも食べてみる?」
「うむ。もひもひ……ん、確かに、しかもMPが回復してる……」
え?
【MPが200回復しました】
MP100で作成したものが2本で合計400にはねあがった!?
「チートだなこれ」
【マグネシウムとか鉄分とか、そう言った物質も含めてます】
鉄鋼都市で出会った素材か?
【リードきゅんの身体の中にあったのでその成分をリードきゅんの前世の深層心理の中の記憶を参考に再現しました】
あ……そっか、人間の身体だもん。そう言う栄養素はあるよな。栄養抜群ドンサ村の食事のお陰か俺は健康体だったのだ。
そして前世にはMPがなかったけど、こちらの世界で再現するとMP回復にもなるのか。ん……?まさかマグネシウムポイントか!?いや、んなわけあるか。しかしマグネシウムも金属系統。
ステンレスに続いて金属にお世話になりっぱなしだな。
【MPの元は魔素。元素記号はMg、原子番号は12ですよ】
あのー……Mgってマグネシウムだったと思うんだけど。原子番号とかもう覚えてないけど。
それじゃぁむしろ魔グネシウムじゃん。
――――あ。あと、リードきゅんってやめてくんない?どこからリードきゅんなんて呼び方覚えたの。
【メッセージボックスに大量に来てましたよ、リードきゅん宛のメッセージ。チェックします?】
いや、いいよ。いつもおんなじようなことしか書いてこないし。それ以外の来たら教えてヨロ。
【なるりょー】
さて、ステータスGIさんとさらに仲良くなったところで……。
サラダ味やチーズ味も作ってみる。そう言えばサラダ味……いつの間にかなくならなかった?俺の気のせい?
「これも売ってみてはどうだろう?携帯食にぴったりだ」
「確かに。MPもとれて栄養バランスもいいもんな」
早速商品開発部門に提案してみる。
「食品は食品安全検査が必要ですね」
ですよね!?前世でもそう言うのあったわ……っ!!!
「早速分析や検査に回しますので」
「お願いします」
うん……売るにはそれが最適だ。
そうして30分後。
【リードきゅん宛に新しいメッセージが届きましたよ。いつもと違う感じで】
ん?何だろう。
ステータス画面をチェックする。
『リードきゅんへ
今、会いに行くね』
え?会いに来るの?まぁ別にいいけど。俺のいる店分かるかなぁ。
【今どこにいるんだ?】
と送信。
『リードきゅんへ
今、都市の南門にいるよ
もうすぐ会えるね』
あー……南門か。そう言えば今日ブレイクが都市警備隊に鍛練に誘われて行ってたな。
ブレイクはくまちゃんも愛しているが、俺とは正反対で運動も好きなのだ。
そしてさらに。
「販売許可おりましたよ」
さすがは魔法の世界、30分でいろんな検査が済んだらしい。商品開発部門の許可もおりたので……。
「ブレイクにお裾分けに行ってもいいかな?ついでにちょっと身内を迎えに行こうと思って」
「そうでしたか。ではチーフに話して来ますね」
商品開発部門のギルド職員が現場チーフに話を通してくれて、身内が来ているのならと外出許可をくれた。ついでにブレイクにも顔を出してこよう。
ギルドの商店から南門は近い。コーデリアと共に徒歩で向かうことにした。
「しかしリード、身内とは……まさかジェイドおじさんか?」
とコーデリア。
「いやいや、違うって」
親父の出迎えとか……絶対騒ぎになるから嫌だ。俺は逃げるか引きこもるっ!それか夫人会のお菓子作り教室に行くぅっ!!
「コーデリアは……多分赤ちゃんだったから覚えてないかもな」
「む……?」
「何せ俺が3歳の時に……」
そう言いかけた時だった。
「魔族が暴れてるぞ!今勇者さまが応戦している!みんな、急いで避難してくれ!」
都市の警備隊が叫んでいる。
え……?魔族?
「まさかダークドラグーン!?夫婦喧嘩か!?でもそうなら俺はアダマンタイナ姉さんの味方をするぞ!」
「いや違うぞリード!この気配は……あの四天王だ」
四天王……?アダマンタイナ姉さんならコーデリアはそうは言わないだろう。
「どの四天王だ?」
「最強に狂っているアイツだ……!」
まさかお前らが追っ掛けられたって言うあの四天王か……?しかし……うーん、門のところにはブレイクもいるし、『兄ちゃん』もいるはずだからなぁ。兄ちゃんよりもまずい四天王なのだろうか?
「とにかくブレイクが心配だ。行こう」
「うむ、リード!」
俺たちは警備隊たちの制止を振り切り南門に急いだ。




