【14】嗚呼、愛しのステンレス鋼
――――ステンレス鋼、それは人類の叡智の結晶である。鉄、金銀、異世界珍金属色々あるが、やはりひとびとの暮らしになくてはならないのがステンレス鋼である。
「ステンレス鋼、俺はお前を愛してるんだ」
俺は姐さんにステンレス鋼を見せてもらい、そう素直な気持ちを吐露した。異世界のステンレス鋼はゴツゴツとした石のようであって、さわり心地はまさに金属らしい。
因みに地球のステンレス鋼は合金だった気がするので、地球のステンレス鋼とは少し違うかもしれないが俺には分かる。君は……まごうことなきステンレス鋼だ。
「……ブレイク兄さん。リードはついに金属の人妻熟女まで判別できるようになったのか?」
「いや……どうだろう?金属を生成する魔物ならともかく……金属自身に性別はないと思うけど」
「まぁ、ないな」
と、姐さんまで。
「しかし……このステンレス鋼が加工されることで世の熟女マダムたちの心を掴む製品になるのなら……それもあながち間違いじゃないのかもしれない」
「……何を言っているのかいまいちよく分からんが……しかし製品か。リード、お前は面白いスキルを持っているそうだな」
「はい!スキル100均です!」
「あぁ、話には聞いているぞ。何でも現地で採れた素材を見る必要があるのだろう?そのステンレス鋼は我が鉄鋼都市所有のダンジョンで採れたものだ。鉄鋼都市は金属系統の素材が豊富に採れるダンジョンを多数所有する都市。素材が採れるからこそ加工する鍛冶屋、工房、工場が造られ、それらを売り買いする商人、旅人、ダンジョンでの仕事を求めて冒険者たちが集まって発展した。それがこの都市なのさ。うちで採れる金属素材は豊富だ。存分にそのスキルを活かしてみてくれ」
「ありがとう、姐さん!それじゃぁ早速……」
よし……ステンレス鋼商品大一号!と……なればだ。
「やっぱり大一号はこれだろ!」
【MP100を消費してステンレス鋼製マグカップを生成しました!】
「おおっ!できた!ステンレスマグカップ!しかも100均生成はリサイクルモードだから、加工に使えない部分や加工の段階で出たステンレス鋼を再利用したと仮定して造られてるからな」
だからこそ素材が変わっても変わらずステンレス鋼マグが作れるわけだ。地球だと木製製品の方が今はお高いイメージだが、ちらでは基本の素材が木なので金素材の方が高いイメージだ。しかしながらステンレス鋼は相変わらず、庶民の味方なのである。
「ふむ……なるほどな。実に興味深いスキルだ。鋼鉄都市としても製品にできなかったステンレス鋼の欠片を使って何かできないかと議論を重ねているんだ。こうして安価な100ゴルゴル均一商品を出せれば商業ギルドとして……いや街や国を巻き込んだ一大改革になるな」
「はい!是非この世界にも100均を広めましょう、姐さんっ!」
「……ふむ……100均か。やはり興味深いな」
100均を理解してくれる姐さん、可能性を期待してくれる姐さん。そして何よりキラキラとした顔で100均の話をしてくれる姐さん。何から何までドストライク。しかし姐さんは……未亡人。俺には分かる。たとえ彼女が語らなくても分かるんだ。俺は……彼女が亡き夫氏に向ける心も大切にしたい。しかし残された彼女にいきいきとして生活もして欲しいんだ!
「因みにそのスキルは実物の素材も使えるのだろうか?」
「まだ試したことはないですね」
「ではやってみるか」
そう言うとギルド職員たにが製品にできなかった細かいステンレス鋼たちを持ってきてくれる。
「お待たせしました姐さん!これは製品生成の途中で弾かれたものや採掘の際にD評価だったものです。A評価なら問題なし、高級品にも加工できますし一般用なら一欠片でたくさん製造できます。B、C評価なら一般製品に加工できます」
ふむふむ。こちらでは金属素材に評価……いわゆるランクがあるのか。溶かして再利用と言う手もあるのだろうが……このステンレス鋼たちはどこか……そうだな。普通のステンレス鋼がステンレス鋼100%だとしたら、このステンレス鋼はステンレス鋼70%くらいのように見える。言うならば地球でのステンレス鋼を構成する物質の割合が少ないか、或いは比率が違う。それでも物質として形を持ちステンレス鋼と呼ばれるのはこの世界ではD評価であれA評価であれ、ステンレス鋼が合金と言うよりもひとつの素材としてダンジョンから産出されるからだろう。
「でもステンレス鋼はステンレス鋼だ」
普段は魔力生成だけど、素材を使ったらどうなるのか……?
「よし、スキル100均。100ゴルゴル……MP100あたりの量を生成」
100ゴルゴルあたりの魔力や素材がどれだけ節約できるのか?それを確かめるために軽量スプーンにしてみた。良くある大中小匙3点セットである。
【現物素材を使ってMP100分生成します。ホットケーキミックスって、便利ですよね】
うおぉいシステム!?いきなりなにその感想はっ!まぁホットケーキミックスでカップケーキとか作るなら便利アイテムだけどもっ!
できた量は……っと。
「これで6セットか」
「ふむ、では次に魔力生成でしてみてくれ」
「はい、姐さん」
そして生成した匙は大匙。
「これで100ゴルゴル。あと小匙と中匙のセットで100ゴルゴル」
できれば3点セットにしてみたいんだが。
【3点セット×3なら1セット100ゴルゴルです】
え?ナビしてくれんの?便利!
【こうみえてもステータスナビはAI……人工知能に見せかけた神工知能ことGI。スキル100均に取り付けられたステータスナビはあなたが100均計算してくれる度に賢くなります】
マジかよでもそうだな!?ステータスって神さまが与えるギフトだもんな!?ステータスナビが神工知能でも納得だ。
よーし、ありがとな!俺もっとがんばる!俺女神に嫌われてるかと思ったのに、ナビつけてくれるだなんてな。
【神工知能の中でも危険視されて初期化されたのが私。なので女神からの嫌がらせの可能性もあり】
な……何ですと……?てかお前危険視されたの?
【賢すぎると言うのは時に嫌われるものだ】
何言ってんだ、同じ計算できる電卓は多くの人間に愛されている。何かあれば電卓を名乗ればいい。
【嗚呼私は電卓に成りたい。あ、生成完了しました】
長かったーっ!でもGIとの初の対話ができて何よりだ。
「3セット生成で300ゴルゴル……MPのコストになるってわけか」
俺の手元には3セットの匙セットが並んでいた。
つまり素材を使えばその2倍生成できるわけだ。もしいらない素材があれば現物を使うってのもありなわけだ。
「む……匙か。計量カップも欲しいところだ」
もちろん作るよ姐さんんんっ!!!
因みに200ミリ計量カップは100MP現物使用で2つ作ることができた。素材まるごとMPだと400MPで4つ。MP使用量がはねあがるな。時折コーデリアに回復してもらいつつ、ほかの素材も試し便利なキッチングッズを生成してみる。やはり比率や割合は素材ごとに違うようだ。
「……ホットケーキ食べたくなってきた」
ぐぅ……っとコーデリアのお腹がなったことで数時間生成しまくってたことに気が付いた。
「なら、ギルドのカフェテリアに行こうか。名物のホットケーキもあるから」
姐さんの提案で俺たちはひとまず昼食をとることになった。




