【1】雑魚ジョブをもらった
――――俺は雑魚だ。雑魚ではあるがクズにはならない。それが俺の座右の銘だ。
なんせ異世界転生のお決まりと言えばもらったジョブ・スキルがクソ雑魚。きっと幼馴染み勇者に笑われることだろうジョブ。いや現実の幼馴染み勇者はバカにはしなかったが。しかしみんなに雑魚雑魚言われるその悔しさをバネにチートに目覚め無双するのだ。
「……無双っつってもな」
俺リード・ノームはダークブラウンの髪に黒目の平凡男子。
ガーバルフ王国のドンサの村で生まれ育った地位も金もないただの平民だ。
さらにジョブは雑魚だったのだが。おい女神、俺が女神に何をした。
「おーい、ジョブ雑魚ー」
村のガキ大将が面白おかしげに俺を雑魚と呼ぶ。はぁ……全くクソガキってーのは。12歳でステータス開示を受け、幼馴染みの勇者ブレイク・フレイムは旅立ち雑魚ジョブの俺は村に戻った。その2年後近所の子コーデリア・マーレがジョブ聖女を授かり勇者の後を追いかけて行った。もう16歳だと言うのに俺はこのジョブのせいで雑用扱いだ。
――――しかし……だな。
「オイゴラァッ!!クソガキいいぃっ!!!てめぇよりは雑魚じゃねぇわぁっ!!」
「ぎゃあぁぁっ!ヤンキーだ!不良だっ!」
まだステータス開示もしてない11歳の近所のガキがっ!悪いな。俺はタダで落ちこぼれになってやる義理はない。
それに俺のスキルは……。
「100均を知らねぇだなんておめぇら正気か!!」
俺のスキルは100均。ジョブとスキルのギャップが謎すぎる。これは何なんだ女神!てかどうやるんだ100均って!しかしながら100均か。
地球の日本で100均と言う便利すぎる生活に慣れた俺は……異世界で100均に飢えていた。むしろ世の異世界転生者たちは何故100均がなくても生きていけるのか。発狂せずに済むのか。分からない。このスキルの使い方も分からない。
「なぁ、兄ちゃん」
兄ちゃんと言っても血縁はない。ドンサの村で唯一の商店を経営している近所の兄ちゃんだ。
「俺、100均をやりたいんだ」
「……あぁ、お前がいつも言ってるやつか?何でも100ゴルゴル(税別)でモノを売るって言う……。親父がそんなの無理だって言ってるぞ。村のガキどもに人気のロルロルチョコは20ゴルゴルだが、村のオッサンどもが好きなポロポロビールは500ゴルゴルよりも安くはできねぇ」
因みにゴルゴルとはこの世界の通貨である。国が違っても世界共通通貨である。
勇者がいろんな国を旅してもゴルゴル金貨やゴルゴル銀貨で冒険できるのはそう言うことだ。通貨が違うからと言って勇者の異世界冒険ファンタジーが中断されたらそれは困るからな。
場合によってはその国独自の通貨がある場合があるがたいていゴルゴルに換金できる。しかし税率は国ごとに異なる。
――――とは言えやはり異世界で100均は難しいのか。
「そういやさ、俺店を継ぐために近くのルフツワの街で商業ギルドに登録に行ったんだ。雑用しながら商売学ぶこともできるみたいだし、人手は常に募集してるはずだ。お前ももう16だろ?そろそろいいんじゃないか?」
勇者や聖女は12歳で旅立つが俺のような雑魚ジョブの人間が12歳で商業ギルドに登録できるはずもなく、見習いで働こうにも紹介状がなければ無理だ。兄ちゃんとこの親父は100均の魅力を知らぬ哀れな親父。100均の素晴らしさを知らぬ親父は……紹介状をくれなかった。いや、いくら俺の親父の顔があってもそれだけは勘弁してくれとおかみさんに頭を下げられたので諦めた。
どうやらこの異世界の人間にとって全品100ゴルゴル(税別)と言うのは前世日本の成人式でピエロの仮装をして騒ぐのと同じくらい異質に見えるようだ。
親父さんはともかくおかみさん。俺はいつかおかみさんが100均マダムに目覚めると信じている。そのためにも俺は……このスキルを活かさなければ。
そしてもう16歳なら……。この世界では大人の仲間入り、ただしお酒は20歳から。
「あぁ、そうだな。俺ルフツワの街に行くよ」
村の雑用で小遣いをもらってるが足りるかな。うちの親父を頼るのは大事になりそうだからやめておこう。
俺は懐から大切にしているブロマイドを取り出した。
「……行ってくるよ、マーサ」
「……リード、俺のおふくろの写真見ながら呼び捨てで名前呼ばないでくんない?あとこれ、おふくろたち村の婦人会から」
「え?マーサたちから?嬉しい!俺がんばるよ!マーサたちにもよろしく伝えておいてくれ」
兄ちゃんが手渡してくれたのは街まで行けるくらいのゴルゴルだ。
「あとその写真は没収していいか?」
「やめろ!ドンサの村人口なんて限られてる!俺のストライクゾーンの熟女マダムブロマイドは貴重なんだ!たとえルフツワの街に言ってもこの村のマダムたちのことは忘れない!」
言っておくが不倫はしてない!雑魚だがクズにはならない、それが俺のモットーである!俺はただドル活をしているだけなんだ!
「……お前、そんなんだからコーデリアも……」
何故そこにコーデリアの名が出てくるよ。
「お前のストライクゾーンが特殊すぎる」
「よーし、待っててねー!街の熟女マダムたちー!」
こうして俺は街に向かうことになった。




