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その2 宇宙の法則が乱れるダンジョン ~発端~

「突然ダンジョンが出現」「ダンジョンでは現代兵器が使えない」

「突如異能に覚醒」「民間人にダンジョンを開放」などといった

現代ダンジョンものによくある舞台設定に、もっともらしい理由や

整合性を与えたらどうなるだろう?という発想から書いてみました。

わりと流されがちな設定ですが、これはこれで手品のタネを見る

ような面白みがあると思いますので、どうぞお付き合い下さい。

「――もうじき現着だが、これより現状を再確認しておく」


レスキュー隊隊長、斉藤は現場に向かう車両の中で

後席の隊員たちに向かって説明を始めた。


「今より一時間余り前の17:25分頃、都内某駅を中心とした

局所的な地殻変動が起こった。

――いや、地殻変動とは適切な表現ではないかも知れんが……

まぁ見たほうが早いな。ここを曲がれば見えるだろう」


六名の隊員を乗せた特殊車両が駅を正面に見る

メインストリートに入り、一同の前にその異様が広がった。

驚愕と恐怖で呻き声のようなものが漏れ聞こえてくる。

それほどまでに凄まじい光景が広がっていた。


周囲のビル群は絞った雑巾か飴細工のように捻じ曲がりながら

駅を中心に寄り集まるように絡み合って立っており、

駅の入り口”だったはず”の場所には岩石でできた大穴が

ぽっかりと口を開けていた。


一体、何がどうなればこんな事になるのか、誰も理解が追いつかない。

斉藤は続けた。


「時間帯もあって、駅構内及び地下施設内には相当数の

利用者が居たと思われるが、周辺の地下へと通じる階段、

連絡通路は全て崩落等で寸断されており、

現在に至るまで内部から脱出してきた被災者は確認されていない。

目下のところ、駅構内に続いていると思われるのは

あの岩石のような大穴だけだが、ここで問題が発生している。

災害発生直後、付近で難を逃れた修学旅行中の少年四名が

この大穴に立ち入ったところ、体調に異常をきたして

二名が昏倒、残る二名が辛うじて自力で脱出し、救急搬送された。

これらの事から、内部は有毒ガスが充満、あるいは低酸素状態であると思われる」


お調子者の少年たちが興味本位でスマホを掲げながら

大穴に入っていく様が目に浮かんだ。

まさかこんな事になるとは想像もしなかっただろう。


「――と、ここまでは出動前に話した通りだが、

新たに入った情報によれば、搬送された内、一名は搬送先で

死亡が確認された。もう一名は発熱と気管支に軽い炎症はあるものの

命に別状なし。

死亡した少年の衣服露出部に赤黒い変色、浮腫が

見られることから腐食性ガスか、……考えにくいことだが、

大量の放射線を浴びたことによる急性外部被爆(がいぶひばく)の可能性が疑われる。

だが、先行した所轄消防の入り口付近での簡易測定ではガス、

放射線、共に検出されていない」


「そんな状況下に四人一緒に入って一人だけ軽症というのは……

一体どういう事なんでしょう?」


隊員の多田が声を上げた。当然の疑問だ。


「正直、分からん。

位置関係で助かったか、別の要因があるのか不明だが、

いずれにせよこんな事態だ。理解の範疇を超えた現象が

起きていたとしても不思議とは思わん。

我々の任務は内部の有毒ガス又は放射線の測定。

そして倒れている二名の救助、搬出だ。

放射線に関してはそこまで心配する必要はないだろう。

内部に即死するほどの高レベルの放射性物質が存在しているとすれば、

数十メートル先の入り口付近でも検知器が反応するはずだからな。

自衛隊へも出動要請が出ているそうだが、ともかく内部の状況が分からない

事には構内地下施設の本格的な救助作業に取り掛かることができん」


上空には先行した自衛隊の他に報道各局のヘリが飛び交っている。

日本中、いや世界中がこの光景に震撼し、注目している事だろう。

車両が止まった。

入り口付近には所轄消防と、小銃で武装したSAT(特殊警察)の隊員達が待機していた。


「さぁ仕事だ!各自、装具点検。要救助者は目と鼻の先だが慎重に行くぞ。

ガス検知器、放射線計測器から目を離すな。以降は無線通話に切り替える」


六人は密閉型の酸素マスクを装着し、大穴に足を踏み入れた。

時刻は午後七時前。初夏ということもあり未だ外は明るさを

保っているが大穴の中は薄暗い。

消防が設置した投光機で倒れた二名の姿が視認できている。

内部は緩やかな下り勾配になっており、ゴツゴツと荒れた岩肌が目立つ側面、

天井部に比べ地面は比較的平坦でなだらかに見える。


目標まで距離にして五、六十メートルといったところか。

投光機の光を自分達が遮る形になるため、頭部のライトを点ける。

先行する隊員の多田と木村が持つセンサー類は何の反応も示していない。


だが、異変は二十メートルほど進んだ辺りで起きた。


先行して進む斉藤ら三名のライトが急に暗くなったかと思うと

明滅し、消えたのだ。

同時に、携行していたガス検知器を含むセンサー類の電源が落ちる。


「止まザッ……なザザッが起きザーッる?」


無線にノイズが入り、機能しなくなった。

振り返り、五メートル後方の三名に大声で呼びかける。


「センサーが故障のようだ!そっちは何か反応しているか?」


「こっちは問題ありません!正常値のままです!」


放射線による損傷でないとすれば磁気異常でも起きているのか?

いずれにせよ、有毒ガスの特定ができなければ今後行われる

行方不明者の救助活動に支障をきたすことになる。

機材を全て喪失するわけにはいかない。


「山本はそこで待機して測定を続けろ!異常があれば大声で知らせること!

佐々木と三木は俺達と来い!速やかに要救助者を確保し撤収するぞ!」


先行組に二人が加わると同じようにライトが消えた。

明らかにこの地点から先で異常が起きているらしい。


「まるで心霊現象じゃないですか。一体何が起きてるんだ」


木村が動揺を隠せない様子で言った。無理もない。


「分からんが、ともかく仕事を片付けよう。詳しいことは専門家に任せる」


少年達は二名とも事切れていた。吐血し、胸を掻き毟った形跡がある。

報告にあったとおり、露出部は赤黒く変色していた。

彼らと同年代の息子を持つ斉藤は沈痛な面持ちで部下に命令を下す。

木村にセンサー類の再起動を試させ、残る四人で少年達をキャリーマットに

固定し抱き上げて入り口に向き直り、待機している山本に呼びかけた。


「どうだ山本!何か反応は?」


「どちらも正常値のままです!何も検出してません!」


「木村、そっちはどうだ?」


「ダメですね。何度も試してるんですが……」


――そんな彼等の作業を闇の中から見つめる目があった。


それは姿形こそ人型ではあったが、その体躯は小柄で緑褐色の薄い体毛に

覆われており、大きな頭部には白く濁った目と粗雑に並んだ牙。

手足には鋭く長い爪が付いていた。


地球上には存在しない、異形の化け物としか形容できない獣が

背を向けた五人に向かって徐々に足を速めつつ四つ足で迫っていく。

その姿に、手前で待機していた山本が気付いた。

一瞬、大型犬かと思ったがそうではない、何か、得体の知れない獣。

だが、危険なことだけは何故だかハッキリと分かった。


「木村ァ!後ろ!」


後方で待機していた山本の、絶叫に近い警告が木霊した。

最後尾で一向に反応しないセンサーに悪戦苦闘していた木村だったが、

警告に反応するより一瞬早く飛び掛ってきた影に突き倒される。

何事かと振り返った斉藤ら四人の目に映ったのは仰向けに倒れた木村と、

その首筋に牙を突き立てる異形の化け物の姿だった。


「うわぁぁぁぁ!!」


「は、走れ!走るんだ!」


出口では異変に気付いたSAT隊員が集まるのが見えた。

鮮血に染まった顔を上げた化け物が次なる獲物を求めて駆け出す。

斉藤らは必死に走るが、人を担いだ状態でそう速く走れるものではない。

化け物のギャッギャッという、興奮した鳴き声が迫ってくる。

出口は目前だが次の瞬間にも追いつかれると思われたその時、

急に化け物の動きが止まり、息を荒げて苦しそうに悶えだしたのだ。


「止まらずに駆け抜けろ!」


SAT隊員が大穴の両脇で小銃を構えながら叫んだ。

斉藤らが必死の形相で脱出を果たすと、

入り口から十メートル足らずの所で足を止めた化け物に対して

バン、バンと二度、発砲する。


放たれた銃弾は化け物の頭部に正確に命中し、頭半分を吹き飛ばした。

内容物が飛び散り、弛緩した身体が糸が切れた人形のように崩れ落ちた。


四十代半ば、重装備で全力疾走した斉藤は肩で息をしつつ、

倒れた化け物を見やった。


「コイツは一体何なんだ?猿……なのか?」


強いていうなら猿に似たその化け物だったが、

当然ながらその場の誰の知る猿にも該当しなかった。


「どこか研究機関に引き渡すべきでは?」


誰かが言ったが、その直後、死体がグニャリと歪んだかと思うと

内側に収縮していくような不可思議な現象が起き、あっという間に

一点に収斂(しゅうれん)し、消滅してしまったのだ。

跡には米粒ほどの大きさの、妖しく光る結晶のような物体が残されていた。


捻じ曲がったビル。駅構造物を侵食するように開いた大穴。

その内部に充満する謎の有毒ガスに電子機器を破壊する”何か”。

そしてこの化け物……。


普段ならばオカルト話など一笑に付す斉藤だったが、

今この現実を目の当たりにした時、これまでの常識が

音を立てて崩れていくのを感じずにはいられなかった。

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