その1 プロローグ
「突然ダンジョンが出現」「ダンジョンでは現代兵器が使えない」
「突如異能に覚醒」「民間人にダンジョンを開放」などといった
現代ダンジョンものによくある舞台設定に、もっともらしい理由や
整合性を与えたらどうなるだろう?という発想から書いてみました。
わりと流されがちな設定ですが、これはこれで手品のタネを見る
ような面白みがあると思いますので、どうぞお付き合い下さい。
阿内 翔は闇に包まれた深い縦穴を落ちてゆく
岩壁に叩きつけられ、その反動でさらに別の岩壁に
被っていたヘルメットも、ゴーグルも、いつの間にか吹き飛んでいた
右目が焼けるように痛む。多分、潰れているのだろう
岩棚に激突。左腕に凄まじい衝撃が走り、付け根から先の感覚が失われた。
未だかろうじて意識はあるが、脳は激痛によって不可避の死を告げるばかりだ
長い時間落下し続けている気がするが、知覚にかかるモヤは濃さを増していく
急にだだっぴろい空間に放り出される
残った左目に、底にある、神々しいほど眩い光を放つ結晶体が映った
(あれは、何だ?)
次の瞬間、仰向けの状態で地面に叩きつけられ、そこで彼の意識は途切れた
……
…………
……?
声が、聞こえる
(……誰だ……?)
何者かの声が響く
「私は、この空間、君らが言う”ダンジョン”の、”意識”のようなものだ。
ここを形作ったという意味では、異界の神といった方が正しいかも知れない。
君の肉体はたった今、死んだ。
そこから離れていく、君の意識に語りかけている」
(そんな……俺は……妹を、彩香を助けなきゃならないんだ……!)
「私は、ここを訪れた最初の人間に、世界の選択を与えようと決めていた。
だが、その君は今まさに死を迎えようとしている。
私の望みを聞き届けてくれるならば、そして君に生きる意志があるならば、
私は君に融合し、蘇らせることができるだろう」
地上に残してきた妹、彩香の顔が脳裏をよぎった。
彼女は今、大学病院の集中治療室で眠っている。
このまま俺が死ねば彩香もきっと助からない。
俺はどんな事をしてでも生き残る。
妹を救うと、そう誓ったから。
(なら、何でもいい、力を貸してくれ!俺は、生きるんだ!)
「よろしい、契約成立だ。今より君は”裁定者”だ」
意識はいまだ肉体から離れており、何も見えず、何も聞こえず、
感覚などないはずだが、確かに何かが自分の体に這い寄ってくるような、
失った右目に、千切れ飛んだ左腕に、割れた頭蓋に、
蠢く何かが潜り込み、流れ込み、再生されていく。
もしも目が見えて、それを直視できたならば、とても正気では居られないであろう
おぞましく不快で、汚らわしい何かが入り込んでくる。そんな錯覚に陥る。
「裁定者よ。君には、世界の選択をしてもらうことになる」
(世界の、選択……?
一体、何の決断をすればいいんだ?)
「世界の選択。それは、
世界を守るために人類と戦い、終末を迎える未来か
何もせず、傍観者として世界の破滅を見届ける未来
そのどちらかだ。
なに、時間はまだ残されている。よく考えて選ぶがいい」
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