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寝起きの街

作者: 顎歌

秋のある朝、日が昇る前に僕は目が覚めた。

仲秋、肌着だけではやはりすこし肌寒い。

布団近くに投げ捨てていた上着を手掴んで

立ち上がりながら羽織る。

そのまま、あくびをしながらキッチンにいき

コンロに火をつけた。やかんに適当に水をいれてぶっきらぼうにコンロの上に置く。

そういえばコーヒーまだあったっけ?と戸棚を漁るがいつか貰ったミルクティーしか見当たらない。

昨日、仕事帰りに買ってくればよかったと後悔する。仕方がないので熱々になったやかんの火を

止めてミルクティーをいれてベランダへ出る。

秋朝の澄んだ寒さに温かいミルクティーを一口

身体の中に温かさが流れ込こんできた。

溢れ出た白息は宙を舞う。

そのまま、僕は遠くを眺める。

夜明け前の薄明かりは、建物の輪郭も空の色も世界の全てをボカして、まるでたった今起きた僕のようだと感じた。


しかしあと、数十分もすれば太陽が昇り

この街は今の静けさが嘘のように動き出す。


そうなれば、建物の輪郭も空の色もくっきりと見えてしまい通勤、通学する人達、家路につく人達、弁当を作り始める人達、マラソンに出かける人達と様々な今日を送る人々で溢れかえる。


そして僕も、忙しない今日の街の一員であり

そこに身を投じて

今日を生きていかなければならない。


3時間後の自分は、きっといつもと変わらず

仕事のことと、何かへの苛立ちと、昼飯のことを

金のため、生活のためだと考え

時間と寿命を浪費して過ごしているんだろう。


生きていかなければならない責任という重圧に

緊張と不安を感じ、身が引き締まる。

憂鬱にもなるが今そんな気持ちを持ったって無意味だということは、散々知ってきた。


ミルクティーを一口飲んで

寝起きの街が覚めるそのときを眺めながら

束の間の暇に物思いにふける。


あの路地裏にいる猫は今日は何をするんだろうか。

飼い主の家でゴロゴロだろうか。それとも野良で

ゴミ漁って飯を食ってどこか日当たりのいいところで眠るのだろうか。

車に轢かれたり他の猫と喧嘩して

ケガしないといいな。

名前はなんていうんだろう。

チョコレートみたいな茶色だから「チャコ」かな、

いや真ん丸な目をしてるから「まる」かもしれない。

まぁ、猫にとっては名前なんてどうでもいいか。

きっと猫がどんな大人か、まだ幼稚な子どもか

なんてこともどうだっていいのだろう。

ただ少なくとも、あの猫もこの今日の街の一員で

ただ毎日毎日、生きていく責任を精一杯

猫も全うしているだけ。


今日も朝日が顔を出して街に光が差す。

それは、寝起きのパジャマ姿から

スーツに着替えるように奥から順々に

建物を照らしていった。


さて、僕も着替えるか。

読んでくださってありがとうございます。

朝はゆっくりしたいので早起きしたい派です。

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