表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

成長

 秋も深まる頃、私は仕事に追われる日々を送っていた。学園祭の日程とどうしても外せない出張が重なり、サウンド・インフィニティの後輩たち――特にDeep Rookiesの演奏を見に行くことができなかった。その後も忙しさに紛れ、すっかり彼らのことを忘れかけていた。


 ある土曜日の午後、久しぶりに一息ついて、スマートフォンを手に取った。SNSをスクロールしていると、サークルの後輩が投稿した動画が目に入った。


「XX大学学園祭 Deep Rookies 全演奏」


 興味を惹かれ、再生ボタンを押す。画面に映し出されたのは、小さなステージで演奏するDeep Rookiesの姿だった。メインステージではないものの、出演できたのはコンテストでの評価が良かったからだろう。演目はDeep Purpleの『Highway Star』、『Burn』、そしてRainbowの『I Surrender』の3曲だった。


 『Highway Star』では、前回のコンテストの時よりも演奏が引き締まっていた。動画ではわかりにくいが、リズムがタイトになっているようだ。これはリズム隊であるドラムとベースの息が合ってきたということだろう。


 『Burn』は難曲だが見せ場も多い。有名なリフから始まり、曲中にテクニカルなドラムパターンを挟む。そして、驚いたことに高音のコーラスパートをベーシストが歌っていた。ボーカルとは声質が異なり、パワフルさには欠けるもの、きれいなハイトーンボイスだ。そして、ギターとキーボードの派手なソロ。練習の成果が如実に現れているようだった。


 最後の『I Surrender』は、ミドルテンポで哀愁を帯びたフレーズが素晴らしい名曲だ。難易度がそれほど高くないこともあってか、演奏は安定している。ただ、ボーカルの声質がこの曲には少し合っていないように感じた。彼はシャウト系の声で歌おうとしているが、どこか無理をしているような印象を受けた。動画の下のコメント欄を覗くと、私と同じような感想が並んでいた。


「Burnのギターソロかっこいい!」

「I Surrenderいい曲だけど、ボーカルの声質があってない気がする」

「↑同意。もっと普通に歌って欲しいかも」


 動画の説明欄に貼られていたリンクから、バンドの公式SNSページに飛んでみた。すると、驚くべき投稿が目に入った。


「お知らせ:この度、Deep Rookiesはボーカルメンバーの交代を行うことになりました。新ボーカリストによって、バンドの音楽性を広げ、よりメロディアスで現代的な楽曲にも挑戦していく予定です。引き続き、Deep Rookiesへのご支援をよろしくお願いいたします。」


 投稿の下には、新メンバーを含めたバンド全員の写真が添えられていた。長髪の女子が新ボーカリストだろう。その表情からは期待と緊張が伺える。


 私は村上にリンクを添えてメッセージを送った。「どう思う?」と。しばらくすると既読になり、「見たぞ」とメッセージが帰ってきた。


「洋楽はキーが高いから、日本人がコピーするなら女性ボーカルの方がやりやすいところもある。将来性を考えるならこちらのほうがいいかもな。また年末のコンテスト見に行こうぜ」


 もちろん、行くと返事した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ