成長
秋も深まる頃、私は仕事に追われる日々を送っていた。学園祭の日程とどうしても外せない出張が重なり、サウンド・インフィニティの後輩たち――特にDeep Rookiesの演奏を見に行くことができなかった。その後も忙しさに紛れ、すっかり彼らのことを忘れかけていた。
ある土曜日の午後、久しぶりに一息ついて、スマートフォンを手に取った。SNSをスクロールしていると、サークルの後輩が投稿した動画が目に入った。
「XX大学学園祭 Deep Rookies 全演奏」
興味を惹かれ、再生ボタンを押す。画面に映し出されたのは、小さなステージで演奏するDeep Rookiesの姿だった。メインステージではないものの、出演できたのはコンテストでの評価が良かったからだろう。演目はDeep Purpleの『Highway Star』、『Burn』、そしてRainbowの『I Surrender』の3曲だった。
『Highway Star』では、前回のコンテストの時よりも演奏が引き締まっていた。動画ではわかりにくいが、リズムがタイトになっているようだ。これはリズム隊であるドラムとベースの息が合ってきたということだろう。
『Burn』は難曲だが見せ場も多い。有名なリフから始まり、曲中にテクニカルなドラムパターンを挟む。そして、驚いたことに高音のコーラスパートをベーシストが歌っていた。ボーカルとは声質が異なり、パワフルさには欠けるもの、きれいなハイトーンボイスだ。そして、ギターとキーボードの派手なソロ。練習の成果が如実に現れているようだった。
最後の『I Surrender』は、ミドルテンポで哀愁を帯びたフレーズが素晴らしい名曲だ。難易度がそれほど高くないこともあってか、演奏は安定している。ただ、ボーカルの声質がこの曲には少し合っていないように感じた。彼はシャウト系の声で歌おうとしているが、どこか無理をしているような印象を受けた。動画の下のコメント欄を覗くと、私と同じような感想が並んでいた。
「Burnのギターソロかっこいい!」
「I Surrenderいい曲だけど、ボーカルの声質があってない気がする」
「↑同意。もっと普通に歌って欲しいかも」
動画の説明欄に貼られていたリンクから、バンドの公式SNSページに飛んでみた。すると、驚くべき投稿が目に入った。
「お知らせ:この度、Deep Rookiesはボーカルメンバーの交代を行うことになりました。新ボーカリストによって、バンドの音楽性を広げ、よりメロディアスで現代的な楽曲にも挑戦していく予定です。引き続き、Deep Rookiesへのご支援をよろしくお願いいたします。」
投稿の下には、新メンバーを含めたバンド全員の写真が添えられていた。長髪の女子が新ボーカリストだろう。その表情からは期待と緊張が伺える。
私は村上にリンクを添えてメッセージを送った。「どう思う?」と。しばらくすると既読になり、「見たぞ」とメッセージが帰ってきた。
「洋楽はキーが高いから、日本人がコピーするなら女性ボーカルの方がやりやすいところもある。将来性を考えるならこちらのほうがいいかもな。また年末のコンテスト見に行こうぜ」
もちろん、行くと返事した。