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勇者の贖罪  作者: 昏昏
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 ぐらりと倒れる巨大な敵、魔王だったもの。




 倒れてから少しの時間がたった後、ようやく倒せたのだと実感し、ここまで来た仲間と顔を見合わせ喜びをあらわにした。


 それが間違いだった。




 手負いの獣が一番危なく、危険だということを失念していた。


 油断していた俺の体に、ぶすりと魔王の体から出てくる触手が刺さる。




 やらかした、と思った時にはすべてが遅かった。


 俺は体の自由が魔王に奪われ、自分の意識ではもう体が動かせなくなってしまった。


 そんなこともつゆ知らずのパーティの僧侶がこちらに駆け寄ってくる。


 ああ、来るな。来ないでくれ。


 そんな願いもむなしく、すぐそこまで来てしまっていた。


 俺の指示を聞かない体は構えた剣をそっと構えようとする。




 「ようやく倒せましたね勇者様!!」


 そういって顔をほころばせる。


 とてもきれいだった。本当はこの戦いが終わってから告白するつもりだった。


 俺も駆け寄ってハグの一つや二つ、交わしたかった。


 


 僧侶は物言わぬ俺を心配してか、不安げな顔でこちらをうかがってくる。




 「どうかしましたか?勇者さ―――」




 その言葉は最後まで続かなかった。


 腹に俺の剣が突き刺さったから。


 ゴフっと血を吹き出しながら、疑問に満ち溢れていた顔を見せ、目を見開いていた。


 やめてくれ、そんな意思とは裏腹に体は無情にも剣を再び構え、その華奢な首を断ち切らんと振り下ろす。




 目をつむりたくても、つむれなかった。


 剣が首に届くその刹那、異変に気付いた戦士がその身を挺して僧侶をかばう。




 「吞まれるな勇者!やめてくれ!!」


 


 そう叫びながら、体は二つに分かれる。




 どろり、と臓物が出てきた。


 


 邪魔者はいなくなったとばかりに戦士の体を蹴りどけ、今度こそとどめをさそうと一歩前に出る。 




 「ま、待ちなさい!」




 戦士の彼女だった魔法使いが、震えながらも僧侶をかばう。


 鍛え上げられた戦士はともかく、後ろから魔法を打つことが主体の魔法使いは少しは鍛えているとはいえ、俺の前では無力だった。


 剣を振り下ろしたその時、上半身だけとなった戦士に足を引っ張られ転ぶ。


 戦士はその身が潰えるまで俺たちの盾であった。


 


 だが、そのせいで魔法使いは中途半端に切られ、痛みと苦しみの中で死んだ。




 今まで一緒に苦楽を乗り越えてきた仲間は僧侶を除いていなくなった。


そしてその僧侶もそろそろ切られそうだ。


 一歩。一歩。


 まるでじらすかのように近づき、息も絶え絶えになった僧侶に近づく。


 やめろ、そう念じても体は止まらない。


 


 そうして近づいた体は予想とは裏腹に僧侶のそばにしゃがみ込んだ。


 


 「だまされたな、雑魚め。ずぅっと目障りだったんだよ」




 意思とは無関係に放たれた言葉。


 僧侶は目を見開き、その短い生涯を終えた。


 

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