冬休み明けたら美少女幼馴染とイケメンが付き合っていたので、俺は美少女後輩とおしるこ屋さんを開いてみた。
俺の去年の予定の大半は、幼馴染とかイケメンとかの二択だった。
その二人が冬休み中に付き合うことになり、冬休みが明け、俺はどうなったのかというと。
暇だなあ。
暇すぎてしまっていた。
部活やるかあと思えど、俺は料理部の幽霊部員。なぜ料理部に入ったのかと言えば……
「あ、先輩、最近より一層暇そうなんでおしるこ作りません?」
この後輩がめっちゃ誘って来たからである。
「おしることは……」
「おしるこ知らないんですか? そりゃまた古風な」
「古風? いや古風なほうがおしるこ知ってそうだが……」
「ってことはおしるこ知ってんじゃないですか。なんで知らないフリしたの?」
あっ、タメ語になったってことはちょっとぷんぷんしてる。
「知らないふりじゃなくて、なんでいきなりおしるこ? って思ったわけよ」
「ああそういうことでしたか」
うなずく後輩。うなずく後輩が可愛いので、どんどんうなずいてほしい(個人的な感想)。
「私はですね、先輩がおしるこ好きなの知ってるんですよ」
「俺がおしるこ好き? いや、まあ普通くらいだけど?」
「普通くらいとかいって、クールぶっちゃだめですよ。ふふふ」
「ふふふってなんだよ」
「ふふふ、私はこの前先輩が中庭の自販機で、缶入りのおしるこを買おうか迷っているのを見たんです!」
「わーお」
「好きですよね? おしるこ」
「そういう君はどうなんだ?」
「めっちゃ好きです。てかそれ前言いませんでした?」
「言ってたな」
「そーですよ。なので今日は二人とも好きなおしるこを作りましょう!」
後輩は俺を引っ張って家庭科室に向かってった。
仕方ないおしるこ作ろうか。
「で、なんでこんな鍋でかいの?」
「決まってるじゃないですか。みんなに食べて欲しいんで、今からたくさん作っておしるこ屋さん開きます」
「はあ?」
「え、だって、料理部って他の人に食べてもらうまでが部活動ですよ」
「あそうなの?」
「はい。なので、今日は部活終わりの生徒におしるこを配るおしるこ屋さんをします」
「ほお」
「私が店長で、先輩は会計です」
「いや普通に副店長にしてくれ」
「あ、じゃあ、副店長でいいですよ」
「あっさり認められてうれしいなあ」
「まず、こしあんもつぶあんもいれます」
「両方入れるのか」
「はい。戦が起きぬようにするためでございます」
「戦国時代のどっかの武将の妻?」
「先輩武将っぽくないから違いますね」
「なぜ普通におれの妻になった」
「あ、あれ? 今のは気にしちゃいけませんね、さあ、あんこを煮ていきましょう」
「じゃ、俺お餅用意しとくわ」
「先輩が自分から動いた……! 素敵なことです」
やがて、熱いおしるこが大鍋の中に出来上がった。
「やったー。ではまずは私たちで食べましょう」
「うし」
「先輩、一口でお餅を食べるとのどに詰まるから駄目ですよ?」
「そっちこそ」
「私は元々名家のお嬢様なので一口が小さいのです」
「あそう。今スリッパから穴の開いた靴下が顔出してるけど」
「え? ぎゃっ」
家庭科室の中は上履きのままじゃなくてスリッパに履き替えるのだ。料理部だからかえって日常過ぎて油断したな後輩君。
「でも先輩、穴の開いた靴下でも二億円くらいある可能性だってありますよ」
「ないわ。変な言い訳しないでくれ」
「エラー硬貨の五十円玉は、穴の位置がずれてると高いです」
「靴下の穴はずれてんじゃなくて新たに開いてるんだよなあ」
「確かに。言い返せないですね……あ、おしるこおいしい」
「おいしいな」
ああ、暇って素晴らしい。
というか、後輩と今までなぜ、こうして俺はのんびり過ごさなかったのだろうか。
「先輩が誘いやすくなっちゃいましたねー」
「ん?」
「私、情報収集ができるタイプのお嬢様なので、先輩と仲良しの幼馴染さんとイケメン先輩さんが付き合いだしたの知ってます」
「そりゃすごい」
「でしょう。ちなみに先輩の顔に書いてありました」
「俺の顔はゴシップ学級新聞じゃないぞ」
「ま、それだけ少し寂しそうだったってことですよ」
「そうか」
「あと三十分くらいしたら配りに行きましょうよ。おしるこ」
「そうだな」
そうして俺と後輩は寒い中おしるこ屋さんをした。
あっという間におしるこはなくなり、
「百円で売ればよかったですねー、たぶんそれでもなくなったなあ」
と、ビジネスに関心のあるタイプのお嬢様? が言っていた。
あと、最初にたっぷり食べたけど、またおしるこがたべたくなった。
「おしるこまた食べたくなりました……」
空の鍋を見下ろして後輩が言った。
「おんなじこと考えてた」
「ほんとですか?」
「うん」
ちょうど中庭を通って家庭科室に一番近い昇降口に向かうところだった。
もう日が暮れてる中、控えめなイルミネーションになってる自販機があった。
「あ、おしるこ……」
「え、今日散々つくったのに、自販機で買うんですか?」
「いや」
「え、でも買いません? 私は買いたいので、先輩も買いましょう」
「よし、買うか」
「あっ、私財布ロッカーだ、取ってきます」
「おごるよ」
「ええっ⁈ いいんですか?」
「もちろん」
俺が二百二十円を自販機に入れて、ボタンを押すと、おしるこの缶が一個落ちてきて……あれ、もう一個買えないんだが。
「もしや売り切れですか」
「そうみたいだな。でも一個買えだぞ」
俺は後輩にポンとおしるこを手渡す。ちょっと触れた後輩の手は意外と冷たかった。
「先輩のにしてください」
「いやいいよ。俺おしるこ普通くらいだし」
「それ嘘ですよねー?」
「認める」
「なら、先輩飲んでくださいよ、おしるこ」
「ええ……」
「冷えちゃいますよ? 私の手今冷たいんで」
「じゃあ、なおさら君が……」
「もう! なら私が飲みます。その代わり、一口飲んだら先輩が飲んでください」
「え」
「間接キスとか気にしないですよね?」
「ま、まあな普通に気にしないぞ」
「ほーい、ちなみに私はお嬢様なので気にしないです」
「お嬢様の使い方てきとうだよな」
「認めます」
後輩は一口おしるこを飲んだ。
「えへへ。私たちが作ったののほうが美味しいですね」
「マジかよ」
「でもこれもおいしいですよ。はい」
俺は後輩からおしるこを受け取った。なんだ、まだまだあったかいじゃないか。
そうしておしるこを飲んだ。
「ためらわなかったですね?」
「だろ?」
「それでどや顔されても……あ、私やっぱもう一口もらいたいです」
「何口でもいいぞ」
「優しい先輩です」
チャイムが鳴った。そうか、最終下校のチャイムは普通のと音が違う。久々にこの時間まで学校に残ったな。
「先輩、下校時刻が近いから家庭科室に荷物取り行って帰りましょう」
「鍋洗うのは?」
「もう明日で!」
「ま、それでいっか」
明日も料理部に行くだろうしな。
「あ、今先輩明日も料理部行こうって思いましたね?」
「なんでわかるの?」
「わかってはなかったですよ。でも明日も来てくれたらいいなって思うので、訊いちゃいました」
そう言って後輩はおしるこを飲んだ。
だから俺は、明後日も料理部に行こうと決めたのだった。
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