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『魔法には適性があり、適性が無い属性は使う事ができない』
目の前の机には大量の本が積み重なって置かれている。
全てエミリアが苦手な分野の本だ。
まずは気になっていた魔法からと手を伸ばし読み始めたら、これが面白くて夢中で読んでしまった。
適性があれば、出てきてほしいと望む事で小さな魔法は生み出せるらしい。そこに調整力や呪文など、様々な要素が混ざり合って大きな力や特殊な出し方ができるようだ。
そして、気がつけば部屋に侍女さん達が居なかったので属性を一つずつ試すことにした。
「……火よ!」
出ない。
「土よ!」
出ない。
「木よ!」
出ない。
全然出ないが、私が自分に期待していたのは水だ!
何故なら人間は最低限水があれば少しは生きられるからだ!
「水よ!(出てこい!)」
ちゃぽん。
手のひらの上に一口で飲み終えそうなほどの水が出てきた。
これは、成功だ。
調整力とやらが高いのかもしれない。
にやにやを抑えられない頬を叩き、念の為風の魔力も呼んでみる事にした。
「風よ!」
ふわっと手のひらを撫でるような風が吹いた。
おお、これも使えるらしい。
2種類使えるのは天才じゃないか?
まぁ、そよ風しか出せないから使い道は分からないけれど。
希少だが光と闇も属性として存在しているが、一応試したところ何も出なかった。仕方がない。
そして別に2種類使えても天才ではない事もわかった。そんなものだろう。
こうして本を読み進めると、長ったらしい呪文が出てきた。
なになに、『魔力はお願いして出てきてもらうから長文で伝えた方が気持ちが伝わりやすく、強力な魔力が出やすい』とのこと。
ただその呪文がページ1枚に収まらないくらいの長さで、流石に読む事をやめた。
そして、例の調整力はと言えば、訓練すれば鍛える事ができるらしい。
何故教えてくれなかったんだろう。もしかして、詳しくないのだろうか。先生なのに?
魔法が普通に使えたので、一旦興味を失った私は長文の呪文は試す事なく他の本を手に取り読み漁った。
エミリアの興味がない本は全て面白かったので飽きることはなく、気がつけば夜。
「お嬢様、夕食をお待ちしました」
扉のノック音と共に入ってきたアンは、少しびっくりした顔をして私を見ていた。
「お嬢様、まさかずっと本を読んでいたのですが?」
「ん?あれ、今何時?」
「ただいま18時になりましたが……」
「え、うそ。私お昼食べたっけ?」
「……廊下に手をつけていない食事がありましたが」
呆れた様子で机の上の本を整理してくれたアンは、机に食事を並べていく。
食事の内容はサラダと、パン、スープ、お肉、そしてデザートだった。
お昼を抜かした事に気がついてしまった私のお腹はぐぅと鳴り、良い匂いがする食事に釘付けになる。
「お嬢様、その、夢中になるのは分かりますが、お食事は必ず食べた方が良いと思います」
「全く気が付かなかったわ。忠告ありがとう」
「……いえ、はい。その、飲み物は紅茶でよろしいですか?」
「うん、紅茶好き。嬉しい〜」
「……」
アンは何ともいえない顔をして、紅茶を淹れて頭を下げてから部屋の隅に立つ。これは、控えてくれているんだろうな。
終始落ち着かない表情をしていたアンは、私が食事を食べ終えると普通に食器を下げてくれた。
出ていく時でさえ、首を傾げていたのだ。
「あ、そっか。エミリアって感謝とかしないわ」
確かに、ここまで急に性格が変われば首も傾げたくなる。
今後も同じような状況になりそうだしエミリアとして生きることはやめよう。
流石に人を罵るのは無理だし、貧乏性の私がお金を水のように使うことも難しい。
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