③ 中国とインドの不透明性
筆者:
ここではBRICSの中核を担う中国とインドの状況分析をしていこうと思います。
というのも、BRICS新通貨を占う上で経済、金融、軍事力を総合して評価をしていかなくてはいけないんですね。
その中でも“通貨は経済の顔である”と言う言葉もあるように、
支払・決済通貨だけでなく経済が成長しなければ、使われなくなって廃れていくのです。つまり、その価値を裏付ける経済のあり方が重要なのです。
質問者:
なるほど、だから中国とインドの経済の現状が大事になるわけなんですね。
筆者:
まず中国から見て行こうと思うのですが、中国はGDPのなんと3割が不動産関連産業で支えられているようなんですね。
その上で上海などの大都市物件以外の価格が低下傾向にあるようなので、バブル崩壊寸前に状況なんです。
不動産会社をなんとか国家がお金を出して支えていこうとしていますが、価格そのものが崩壊していけば、大きな景気後退は避けられそうにありません。
質問者:
思ったよりもコロナ明けから景気回復もしていないようですしね。
筆者:
その背景として若者の失業率の高さもあります。
公式統計発表では20%前後だとありますが、ニューズウィーク日本語版の7月20日の記事によりますと
『中国の若年失業率、46.5%に達した可能性 研究者が指摘
国家統計局は同月の16─24歳の失業率は19.7%と発表した。これに対し北京大学の張丹丹副教授は財新のオンライン記事で、家で寝そべっていたり親に頼る非学生の1600万人が統計に含まれていたら、失業率は46.5%に達した可能性があると指摘した。記事は17日に掲載されたがその後削除されている。
6月の公式統計では若者の失業率は過去最高の21.3%。これは就職活動を行っている人を対象としている。
張氏の研究は、蘇州や昆山という製造業が盛んな地域における新型コロナ流行の影響に焦点を当てている。
「これらの地域では新型コロナの流行が治まった3月の段階で以前の3分の2までしか雇用が回復しなかった。若者は製造業の主要労働者であるため、より深刻な打撃を受けた」という。』
と、若者の失業が半数弱と深刻のようです。
と言うのも上にあるような若者の働き口である製造業はデカップリングによって徐々に中国本土から撤退する兆しがあるのです。
中国そのものに何か革新的な技術はさほどないので(あったとしても、どこかから奪ってきている)、これは結構な痛手となります。
質問者:
確かに若い方の所得が低いと未來はありませんからね。日本もそこまで他国のことを言えないような気がしますけど……。
筆者:
所得格差を示す統計として「ジニ係数」というものがあります。0に近ければ格差が小さく、1に近づくと格差が大きいことを示しています。
中国の格差は0.46と騒乱が起きてもおかしくない水準だと言われています。
※日本は0.37とアメリカやイギリスよりは先進国ではマシである程度
この様に格差があまりにも広がってしまいますと、“働いても仕方ない”と言う風潮が広がり“寝そべり族”と言うのが増えていき働く意欲が低い若者が増えていることも“46.5%”の失業率に影響しているように思えます。
今の日本も増税などで未来を感じさせませんが、中国では密かにそれ以上に深刻だと言うことです。
質問者:
アメリカや欧州でも移民問題で深刻ですから世界中どこも大変という感じですよね……。
筆者:
そうなんですよね。隣の芝が青く見える感じはありますが、“世界一幸福な国”と呼ばれている北欧の国でも外国人に関しての問題はあります(あのランキング自体怪しいですが)。
次にインドですが、中国と比べて経済成長に関しては順調に行きそうです。
モルガン・スタンレーはこの10年間で、インドが世界経済の成長の2割を担い、年間生産の伸びが4000億ドル(約52兆円)を超え得るわずか3カ国の一角を占めると見ています。
しかし格差の面では近年縮小しつつあったものの
インドの労働人口の80%にあたる4億5千万人は路上での商売や、臨時雇い、ゴミ拾いなどの仕事を生業にしています。(意外と少ないのは子供世代が多い)
そのためにコロナの外出禁止措置などによりクビを切られ、貧困層が増加していることが予想されます。
質問者:
日本で言う非正規雇用が多い感じなんですね。それではすぐにクビになったり、給料が上がらなくても無理は無いですね。
筆者:
そうなんです。「景気・雇用の調整弁」として非正規雇用はアッサリ切られるだけですからね。
インドでは依然として中間所得者層がはるかに少ない状況にあるのですこれは中国よりも深刻のようです――まぁ、日本も他国のことを言っていられる場合ではありませんがね。
質問者:
確かに日本も非正規雇用の増加と増税ばかりで中間層が減っていますよね……。
筆者:
また、インドは産業構造がハイテク産業に偏っていることから本当に一部の人しか儲かっていないという話もあります。
製造業の割合はマッキンゼー・アンド・カンパニーのデータでは、国内総生産(GDP)に対する製造業の割合は20年時点で17.4%とあまり高くありません。(日本は25%)
ただ、一方では、一部の若いインド人がホワイトカラー職に就きたいと、工場に勤務するくらいなら就職を先送りし、30歳未満の潜在的労働者の半分近くは職探しすらしていないという側面もあるようなので、工場が大量に集中しても“人口ボーナス”を得られない可能性があります。
更に工場を建てるためのサプライチェーンが整っておらず、特に電力が一般人が使う分にも不足するレベルらしいので、工場用の電力まで調達するのは非常に大変です。
また、“綺麗な水”というのもありません。一番有名な川であり流域面積が日本の国土の約5倍もあるガンジス川は生活排水やごみなどの問題があり、浸かると破傷風になってしまうほどのようです。このような川では、半導体を作ることが困難なんです。
つまり、すぐに爆発的に経済発展をしていく要因と言うのは“海外からの投資頼み”と言う感じなんですね。
質問者:
人口があってもそれに見合った仕事が無ければ経済発展しませんからね……。
筆者:
そうなんですよ。
またインドでは「世界最大の民主主義国」を自称していますが実を言うとそれも怪しいものがあります。
質問者:
それでも中国よりはマシでは無いですか?
筆者:
ちょっと比べる対象があんまりな気がしますけどね(笑)。
インドについて一部のメディアでは、「メディア、市民社会、野党勢力が自由に活動できる領域がモディ政権下で極端に狭まっており、インドは民主主義のカテゴリーから脱落する寸前にある」と評価しているところもあります。
2021年 2月にイギリスの経済誌『エコノミスト』の調査部門が公表した民主主義指標で167の国・地域のうち 53位と前年からさらに2つ順位を落としています。
意外と独裁国家と言うのは世界では多く民主主義国家ではかなり下位と言えます。
質問者:
何がそんなに順位を落としているんでしょうか……。
筆者:
インドはかなりの汚職国家なんですね。
普及数で世界2位になった携帯電話事業の周波数割り当てで、担当大臣が6000億ルピー(約1兆円)もの収賄容疑で逮捕されたりしたのが最大規模ですね。
それ以外にも国内炭鉱の許認可、退役軍人の住宅建設などでも贈収賄や横領事件が頻繁に起きています。
スポーツの国際大会をめぐる汚職では、インド政府がインドオリンピック委員会役員選挙に干渉したという理由で資格停止処分、2014年2月のソチ五輪大会では選手が個人参加になりかけたこともあります(大会直前に解除)。
日本も東京五輪で汚職が問題になりましたが、それで国家としての資格停止にはなりませんでした。企業レベルの汚職ではなく国家介入なのでちょっと“規模が違う”と言う感じなのでしょうね。
世界の汚職を監視するNGO「トランスペアレンシー・インターナショナル(TI)」によると、2017年では調査した国の中で汚職の発生率が最も高い国はインドだったこともあるようです。
質問者:
なるほど、「世界最大の民主主義国」というイメージとは全く違ってやはり国ごとの問題があるのですね……。
筆者:
また自由主義の国なのかも不明です。特に宗教に関しての問題があります。
モディ与党BJP(インド人民党)政権下にあるウッタルプラデシュ州では昨年11月、「2020年違法改宗禁止条例」が施行された。これは主にヒンドゥー教徒の女性と結婚するイスラム教徒の男性を念頭に、結婚に際して妻を改宗させることを阻止するのが目的、と指摘されています。
また、モディ首相がヒンドゥー教の宗教行事にも平然と参加、政教分離は全くなされていないことも明らかです。
日本では統一教会や某学会などとの関係が問題になっていますがその比では無く、ヒンドゥー教は“国教”に近いと言う感じですかね。
80%がヒンドゥー教ではあるのですが残り2割のその他の宗教はかなり肩身の狭い思いをされている筈です。
このヒンドゥー教はインドがほとんど信仰されている国ですから、海外から来られた方などはちょっと受け入れがたいと思います。これも経済発展を阻害する一因になると思われます。
質問者:
なるほど、実質的に宗教の自由があまり無いのですね……。
他の宗教の方は生活がしにくいのかもしれませんね。
筆者:
この様にインドでも、様々な問題があることから人口ピラミッドが若く投資が今後集結することが予想されてはいますが、予定通りに発展するとも限らないというのが僕の見解と言うことです。
次の項目ではBRICS通貨に対してアメリカが今どういう状況なのかについて分析していきます。