ステージ4
ステージ4
宿屋を出るときに、棒の先端に丸いものがついていてそれを包み紙で包んだものをもらった。
大きさはそんなに大きくない。
次の街を目指しつつ、宿屋でもらったそれを立ち止まりミハエルに見せる。
「なぁ、これはなんなんだ? 店主が俺が可愛いからとくれたが……」
「ちょっと貸して」
「うむ……」
ミハエルはそれを受け取ると、棒の部分を手で持ったまま、片手の指先で包み紙を綺麗に外した。
包み紙を外された丸いそれは陽に当たりキラキラと輝いて、まるで宝石のようだった。
髪飾りの一種か、これは? と疑問符を頭に浮かべていると。
「はい、ベル。口を開けて」
「え? あー……んんっ!」
丸くて黄色いそれを口に突っ込まれた。
「きひゃま! らにをふる! ……ん? あまっ! なんだ、これは! 甘い! 甘いぞ!」
広がる甘さに舌鼓を打つ。
なんだ、この甘いやつ! めちゃくちゃ美味いではないか!
「それは、ロリポップって言って……まあ、いわゆる棒付きキャンディーってやつだよ」
「これがキャンディーというものなのか! 噂には聞いたことがあったが、なかなか美味いではないか!」
「その反応だと、もしかして初めて食べたの?」
そう聞いてくるミハエル。
「うむ、こんなものは初めて食べた。気に入ったぞ、ロリポップ!」
こんなに甘くて美味いものが世の中にあったとは!
「人間、恐ろしいな!」
「えーそこまで言っちゃうの……」
「言うぞ! この程よい甘さは、もう革命だ!」
「……魔族って、甘いもの不足してるの?」
再び歩き出しつつ、そう問いかけられた。
歩き出したミハエルを追いつつ、話した。
「ないことはないが……ものすごく甘いのだ、想像を絶するほどに……なので食べられるのは、魔族が子供の時だけだ。大人になるとその甘さがくどく感じるようになるから、食べる者はいない……まあ、それが大人になった証拠ではあるのだがな」
「へぇ、なんかちょっと切ないね」
「?」
切ない? その言葉に首を傾げる。
「だって、魔族は子供の頃に味わったものを大人になって食べると、食べれなくなっちゃうってことでしょ? 人間も子供の頃に食べていたものを大人になると好まなくはなるけど、食べれなくなるわけじゃないから……なんか、思い出の味を食べれないのって切ないなって……」
「そうか、そう言うものなのか……気にしたことはなかったな」
人間は、幼い頃に食べたものを再び食べれるのか……。
幼い頃、か……。
「あ、ねぇ! さっきの村の人が言ってたんだけどさ……次に寄る街で生クリームとカスタードを使ったスイーツ祭りがあるんだって!」
「なんだ、それは」
「とっても甘いお祭りってこと! まだわからないけど、君の口に合うと思うよ! なんせ、そこは牛乳と卵が特産品として有名らしいからね! ほら行こう!」
ミハエルは俺の手を引いて走り出す。
「お、おい! こら! そんなに早く走るな! 聞いてるのか!」
つられて仕方なく俺も走り出す。
生クリームもカスタードもよくわからないが、まあ、仕方ない……付き合ってやるとしよう。