ステージ1
ステージ1
「くっ、」
魔剣を振るって、奴を切り裂こうとしたのだがギリギリで交わされ相手の頬を掠めるのみ。
相手は、大きく後ろに跳び俺と距離を取る。
「どうした? 勇者よ! 貴様の実力はそんなものか?」
「まだまだぁ!」
魔王城にて現在、俺は勇者と戦っている。
さっきから、互いの剣の応酬ばかりで決着がつかないでいる。
ふむ、そろそろ頃合いか?
人間である勇者は、ここに来て数時間は魔王である俺と戦い続けている。
その前には、俺の配下である四天王との戦いがあったはずだ。
ならば……そろそろ決着をつけるために技を決めてくるはず。
ほら、聖剣に力を溜めている。
「行くぞ! 魔王っ」
そのまま俺に向かって駆けてくる。
__3。
「うぉぉぉぉ!」
__2。
あと少しだ。
__1。
「かかったな! 勇者よ!」
「なに?」
気づいた時には、手遅れだ。
この時のためだけに編み出した必殺の魔法を勇者に打ち込んだ。
カキーン! ぼふんっ!
「はっ?」
……はずだった。
一瞬にして視界がピンク色の煙に包まれ、それが晴れた時には……。
「けほけほっ! なにが、どうなって……嘘、だろ……」
声が、普段より高い……?
最初に飛び込んできたのは口元に当てていた手だった。普段より幾分にも縮んでいて指先も男性にしては細い方だったが、それよりも細くなっている。次に夜に浮かぶ月のような輝かしさだと言われた銀髪が随分長くなっていた。
最後に先程まで身につけていた衣服が大きくなっており、マントはズレて床に落ちていってしまった。
まさか……と思い、片手で胸をもう片方の手で股間をまさぐる。
な、なかったものがついてて、あったものがなくなっているではないかぁ〜〜!
「え、えーと……魔王? だよね?」
顔から血の気が引いて倒れそうになっていると、勇者が声をかけてきくる。
「勇者! 貴様っ、なにをした! ぬわっ、ぷっ!」
さっきまでの身体の感覚で、勇者の胸ぐらを掴もうと一歩踏み出した途端。掴むどころか上手くバランスが取れず転けそうになるのを勇者が抱き止めて支えた。
「大丈夫? 魔王、であってるのかな……」
「ぐぬぬ、合っておるが……貴様、先程なにをしたのだっ」
「え? さっき……えーと、君が魔法弾を撃ってきた時のこと?」
「そう! それだ!」
「それなら、僕の鎧が魔法弾を弾いちゃったんだよね……」
「は? 弾いた? 俺の魔法弾を?」
「うん! それで……君に当たって、煙が吹き出したかと思ったら女の子になった君が現れたんだよ」
勇者は眩しいほどの笑顔でそう言ってきた。
わぁ、こやつよく見ると顔がいい。
じゃなくて! 勇者が魔法弾を反射する鎧着てくるとか、魔王そんな話聞いてない。
「俺の……」
「ん?」
「俺の計画がぁ〜!」
勇者の、その忌々しい鎧の胸元を素手でガンガンと殴りながら嘆いた。
せっかく、勇者を俺好みの巨乳美少女にしてお楽しみでしたね! するつもりだったのにっ……。
「あーあれ、そういう魔法だったんだ……」
どうやら、気持ちを口走っていたようだ。
だが、今はそんなことどうでもいい。
「俺の巨乳美少女を返せ〜! おっぱいぃぃ〜!」
なおも、勇者の胸元を叩き続ける。
「大丈夫、胸は慎ましやかだけれど、今の君は可憐な美少女だよ」
グッと、親指を立てて俺にウインクをする勇者。顔がいいだけにものすごくムカつくのだが!
「違うっ! 貴様が巨乳美少女になって俺が色々するのと、俺が……え? 胸が慎ましやか?」
そう言われて、再び自分の胸を触る。先程は慌てていて気がつかなかったが、俺の胸は巨乳からはほど遠くどちらかと言えば……手に収まる感じの小ぶりな胸であった。
「え? なぜだ?」
おっぱいを揉みながら俺は思案する。
「魔王さん、魔王さん」
小さく挙手する勇者に「なんだ、言ってみろ」と声をかける。
「予想なんだけど、僕の鎧に反射された時に巨乳の部分だけが貧乳に書き換わってしまった、とか?」
首を傾げつつ、そう言ってくる勇者にイラッとしたので今度はちゃんと攻撃用の魔法弾を手のひらで練り上げる。
「よし、その鎧を壊す! すぐ壊す! 今壊す!」
「ああっ! 待って! その目は僕ごと鎧を壊す気でしょ! やめっ」
「黙れ、人間っ」
ゼロ距離で、先ほどの魔法弾とは比にならない魔力を込めて撃った。
ちゅどどーん!
大きな爆撃音と共に煙が立ち込める。
「はーはっはっ! これで勇者は……」
と、勝ちを確定したところで……。
「げほげほ! なにをするんだい……」
煙が止むと、そこに勇者の姿があった。
「え……?」
俺は、確かに強い魔力を込めて撃ったはず……。
頭に疑問符を浮かべていると。
なぜ、勇者は生きている……?
なにが起きているんだ、これは……。
「もしかして、ちゃんと加減してくれたの?」
「ちがっ、わわっ!」
勇者は女体化してしまった俺の身体を軽々と抱き上げる。
「ありがとう! 魔王!」
「お、おい! 俺の話を! ちょっ! 顔を近づけるな! 頬をスリスリするんじゃないっ! 俺の話を聞けー!」
こうして、俺の苦難は始まったのであった。