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お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。  作者: 永礼 経


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第98話 国家魔術院院長の思惑

「ネインリヒ君、君がすでに得ている情報を幾らか頂きたいのです」

 

 ニデリック院長の言葉が直接的になった。つまり、結構深刻な仕事の話だということだ。

 ネインリヒは仕事モードのスイッチを入れる。


「はい、私の知っているものであればいつでもお渡しできるよう、準備はいつもできております」


「まずは、キール・ヴァイスについてです。最近の彼の動向はどうですか?」


 そこはネインリヒである。抜かりはない。メストリルに戻ってからのキールの行動はすべて把握している。もちろん帰ってきてからは王立書庫で、ミリアと邂逅をはたし、クリストファーともうまくやっていた。その後、この春からは、年齢的には2学年下の女学生も仲間に加わっている。

 そうして4人で放課後に王立書庫にこもってほぼ毎日のように時間を共にしている。

 さすがに個室内の様子まではわからないが、そのあたりは致し方ない。

 女学生の名は、アステリッド・コルティーレと言った。

 もちろん彼女の出自やこれまでの経歴も調査済みだ。というより、魔術師である彼女の情報はすでに魔術院にも登録されている。

 諜報員のミヒャエルから聞いていた、カインズベルクでキールと行動を共にしていた魔法学院の女学生と同一人物であることも判明している。


「最近の新しい動きとしては、王立大学のデリウス・フォン・ゲイルハート教授のもとを訪れ、その後、いまは4人とも教授の研究室へ活動拠点を移しております――」

と締めくくった。


「ほう、デリウスと、ですか。たしか彼は「心学」が専攻でしたよね。どうしてそのような教授と関りを持つようになったのでしょう?」


「申し訳ございません。それははっきりとはわかりませんが、アステリッドが心学部ということと何か関係があるのかもしれません」


「ふむ――」

ニデリックはそういうと、次の言葉をつづけた。

「わかりました、それはまた新しいことが分かった時に聞くとしましょう。あともう一つは、ルイ・ジェノワーズについてです」


「ルイ・ジェノワーズ。あの娼館の成金息子ですか。あいつは本当に人畜無害な奴ですね。良くも悪くも、親父の財産を受け継いだドラ息子というところでしょう」

そう前置きしつつ、最近の状況を話し始める。


――――――。


「なるほど――。その男、気になりますね――」

ニデリックがネインリヒの報告を聞いてつぶやく。


「はい。なんと言いますか、得体が知れません。魔法感知をかけたところ魔法の痕跡がみられましたが、随分と古いようで、最近使用した形跡はなさそうです。最近は王立大学に潜伏して授業を受けたり、生徒と話をしたり、書庫で学生名簿を調べたりしているようです。だれかを探しているのかもしれません」

ネインリヒも話していて気になっていることがあったようだ。

「私の勘ですが、キール・ヴァイスを探しているのではないでしょうか?」


「どうしてそう思ったのです?」


「あ、いえ、確信はありませんが、まず、ルイ・ジェノワーズとの接点がこれまでに見当たりません。つまり、もともとは知り合いではなかった、という可能性が高い。そいつが我物顔で娼館を出入りし、金も支援を受けている。もしかすれば脅し取っているのかもしれませんが。そのような関係が急に沸き起こるのは考えにくいと思われます。何かしらきっかけがあるのでは、と。そう考えたところ、1年半前の無理心中事件が頭をよぎりました。おそらくあの事件の主犯はキール・ヴァイスで間違いないでしょう。であれば、それを探している、焼死体のもう一人の身元不明者の関係者であるとは考えられないかと、そう思いました」


「なるほど、さすがネインリヒ君。おそらくあなたの思っている通りだと、私も考えています」


「あ、やはりそうでしたか――。ん? とすればもしかして、その、南の国からの小鳥とは、あの方からの連絡ということでしょうか?」


「ふふふ、あなたもなかなかの洞察力ですね。さすがです。その通りです。情報を伝えてきたのはゲラード・カイゼンブルグ、『火炎の魔術師』ですよ。『シュニマルダ』の構成員の一人が我が国に潜り込んでいるとのことです。「警戒しろ」とだけ言って寄こしました。あの男もキール・ヴァイスという特選魔術師の存在を嗅ぎつけているのでしょう。まったく、あの男の諜報能力も侮れませんね。こちらより遠くにいながらこちらと同等の情報を持っている。恐ろしいものです」


「どう、なさるのです? キールが危険ではありませんか?」


「まあ、そうなのですが――。ネインリヒ君、私はどうにも意地が悪いたちでしてね。放っておこうと思います――」


「え? 何も手を打たないと、そうおっしゃるのですか?」


「彼がこの難局をどう乗り切るか、あるいはここで終わってしまうのか、見届けようと思います。ここで終わるのならば、警戒すべき魔術師が一人消えるだけのことです。これはこれでありがたい。でももし、これを乗り切れるのなら――」


 ニデリックはそれ以上は言葉を継がなかった。

 ただ、ネインリヒに対してもどうしろとも、どうするなとも指示もなかった。

 つまり、「任せる」ということだ。


 下がってよいとの許可をうけ、ネインリヒは執務室を辞した。

 さあ、どうするか。

 院長のお考えは「静観」だ。つまり、それで構わないというところだろう。であれば、ネインリヒにできることはそれほど多くはない。


(キール・ヴァイス、さあ乗り切って見せろ。お前の力を見せてみろ――しっかりと見届けてやる)


 キールからしばらく目が離せなくなりそうだと、ネインリヒは気を引き締めていた。


 

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